第41話 おっさん、リュウ君とじゃれ合う
「はぁ、はぁ」
息が上がっているのはリュウ君だ。
スパーリング開始1分、俺は回避や相手の観察に徹していた。
時々ジャブを打ったり、攻勢は見せるが、けん制程度で当てる気はない。
最初の30秒ほどは喰らいそうになる瞬間もあったのだが、あとの30秒はまったく危なげがない。
「くそっ」
そう小さく言いながら放つ彼のジャブは空を切る、または俺のグローブにいなされる。
言いながら打ったらそれこそ読みやすいぞ、リュウ君、と思いながらかわして、弾いていく。
身体能力によるアドバンテージもあるが、もっとずるいのは『高速演算』だ。
開始からずっとリュウ君の一挙手一投足を観察し、クセやパターンを解析していた。
しかもAIのサポート付きだ。
秒単位でリュウ君対策が進んでいき、さっき述べたように30秒も経てば彼の情報はほぼ把握できていた。
1分経過からは俺も反撃させてもらう。
といっても彼の動き出しをつぶしていくだけだ。
前に出ようとした彼の顔の前や、打とうとしたジャブの前に俺の拳を置いておく。
彼の顔が、力とスピードの乗り切ってない拳が、俺のグローブに止められる。
痛みはないだろうけど、これだけで彼の体力が急激に減っていく。
もう1分経つ頃には彼の脚は止まる。
最初の軽快なステップは見る影もない。
あとはもうタコ殴りである。
だが別に打ち抜くような強い打撃はしない。
当てるだけの、ポイントを稼ぐだけのパンチを顔やボディーに右から左から、正面から、ポコポコポコポコ当てていく。
反撃も来るが全て読み切って軽々かわしていく。
すこし下がれば彼はもう追ってこない。
もうちょっと根性見せてくれよ、リュウ君。
しようと思えば強撃できることは分かるだろう。
だがしない。
ポコポコポコポコ、残りの1分はそれで終了。
そしてここでゴング。
俺は打つのをやめてリングを降りる。
リュウ君も肩で息をしながらリングを降りる。
気のせいかみんなの視線が痛い。
トレーナーも驚いたような顔で俺を見ている。
そして誰も口を開かない。
恐らくこんな展開になるとは誰も思っていなかったんだろう。
そりゃそうだ、ボクシングのほぼ初心者同士のスパーリングなんてもっとグダグダな殴り合いだろう。
トレーナーは何やらリュウ君の方に行きフォローだかアドバイスっぽいことを伝えている。
それは的確なのか、リュウ君は悔しそうにしながらもちゃんと聞いている。
そしてトレーナーは俺の方にも来た。
「ずいぶん手加減していたな。もう少し上のレベルじゃないとつまらないか?」
「いやあ、全然余裕がなかったです。全力でしたよ」
手加減するのに。
「そうなのか。
確かにリュウを圧倒できてはいたが、ボクシングの技術はまだまだ課題は多かったな。
もともとの運動神経でなんとかしてるって印象だ。
あとは相手の動きを読むのがうまかったな」
おいおい、結構よく見てるじゃないかこのトレーナー。
「はい、まだまだ全然だと思います」
「おう。
そうだが、そんなことリュウに言うなよ、あんだけボコボコにしておいて。
あいつ立ち直れないんじゃないか」
「わかってます。
まあリュウ君はそんなたまじゃないと思いますが。
リュウ君大丈夫そうでしたか?」
「どーだかな。
怪我とかは大丈夫だろ、へばってるだけだ。
つか怪我させるよーな打撃してなかったじゃねーか」
「い、いえ、あの、大丈夫そうならよかったです」
肯定してしまうと手加減も認めちゃうことになるのでどもってしまう。
その後残りの4人がスパーリングをしているのを眺めていると、リュウ君が近づいてきた。
「よぉ」
何その声の掛け方。かわいいな。
中身45歳おっさんからするとやんちゃだろうが生意気だろうが、みんなかわいいんだよ。
「おぉ、リュウ君。
どしたん?」
「呼び捨てでいいわ。
変わんねーだろ」
「年下には優しくって言われて育ったからな。うそだけど。
でも施設出身だからな、下の子には優しくするのが染み付いてんのはマジだ」
うそだが。
「だからさっき手ぇ抜いてたんか」
おぉ、ナチュラルに本題に。
「別に手抜いてはいないぞ、気ぃ抜いたら喰らいそうだったし」
うそだが。
「へばった俺をポコポコしてただけじゃねぇか」
「ボクシングにはポイントってのがあってだな、」
説明するように言うと、
「知ってるわ」
と帰ってきた。
ですよね。
「力入れて打ちまくるより、あれくらいのほうがポイントいっぱい取れるんだよ」
「ぶっ倒してKO勝ちのが手っ取り早ぇだろ」
まあ、そうなんだが。
「ゆうて練習だしな」
のらりくらりかわしていると、
「ちっ」
舌打ちされた。
「俺一応年上なんだけど」
と言うと、
「自分で一応っつってるじゃねーか。
1つしか違わねぇだろ、何月生まれだ?」
えっと、戸籍作ったとき何月生まれにしたっけな。
(4月です)
と、脳内でAIが教えてくれる。
そうだった。免許とか資格とかでいろいろ有利だから4月にしたんだった。
「4月だな」
「は?じゃあタメだろ。
俺も今年18だぞ」
まじで?リュウ君タメなの?
どうすっかな。
「マジで!?
なんだよ、気ぃ使って損したわ。
早く言えよばか、えーまじか、じゃあリュウって呼ぶわ」
と言いグータッチしようと拳を出す。
フランクなやつで行くことにした。
「お、おぅ」
リュウ君、いやリュウは若干引いている。
何か間違えたか。
一応グータッチはしてくれた。
え、いいやつか?
作者のモチベーションになりますのでいいね、お気に入り登録、感想など、よろしくお願いします。
カクヨムでも連載中の作品になります。
https://kakuyomu.jp/works/16818093080286722080




