第35話 おっさん、女神とおうち映画
今俺の隣で女神が、ぼろっぼろに泣いている。
別に俺が泣かせたわけではない。
2時間ほど前の俺の提案が原因と言えば原因なんだが・・・
―2時間前―
「えー、プライマックス会員ならプライマックスビデオ見放題じゃん。
なんか観た?」
「はい、最初に日本文化の勉強をするときにアニメをいくつか」
そういえば言ってたな。
アマゾネスプライマルで観てたんかい。
ネット回線どうなってるんだ。
いや、配達が届くんだから何でもありか。気にしたら負けだな。
「映画は?洋画とか」
「特には。
あ、ズブリ映画はいくつか観ました。
『けもみみ姫』と、『地底の城ラクバン』とか。
実写は特に観てないですね」
「ああ、ズブリね。確かに日本文化だわ。
コスプレオタサーの姫、ヨンのお話は俺も好きだ。
ラクバンも最後城がマントルに向かって掘り進んでいっちゃうのがいいよな。
俺は『映えるね、動かない城』が好きだな。
城は動かないのが普通なのにタイトルにわざわざ『動かない』って付けてるのが意味不明で良いんだよな。
まるでどこかに動く城があるかのようだ。
『マジで宅配便』も良かったし、『となりの豚トロ』と『崖の上の犯人』は未だに子ども人気がすごいしな。
あと『売れない野豚』の豚はなんであんなにかっこいいんだろうな。
「売れねぇ豚はただの豚だ」はその通り過ぎてシビれたね」
「『崖の上の』はパンニョンが犯人とは思いませんでしたね。
あと『目を凝らせば』も良かったです。
老眼がテーマなのに何であんなに切ないのでしょうか。
老眼になっていく彼とそれを理解できない乱視の彼女とのすれ違い、そして彼女も老眼になってしまうことで通じ合う気持ち。でも元々乱視を持ってない彼の気持ちがだんだん分からなくなる彼女が本当に切ないです」
女神もだいぶズブリにズブズブにハマってるようだ。
ズブリは語りだすと止まんないからな、この辺にしておくか。
「実写は全然か。
船が沈むやつは?地球にぶつかる小惑星なんとかするやつは?」
あの辺は日本文化じゃないがアレに感動する日本人が多いってのは事実だからな。
聞くと女神は首をコテンとして頭にはてなを浮かべる。
(ぐっ)
「・・・他の神様にあざといって言われない?」
「?
さっきも少し言いいましたが、他の神とはほとんど交流がありませんので、言われたことはないですね」
てことは素でそれなんかい。
「ごめん、なんでもないわ。
じゃあ、なんか一緒に観てみるか?
てかこの部屋その|昭和のブラウン管テレビ《古風なやつ》しかないの?」
「いえ、それはあくまで雰囲気用の飾りです。
ちゃんと普通のテレビもありますし、あとプロジェクターとかもあります。
スクリーンも。
もともと真っ白空間ですし、簡単に大画面で映せるはずです。
あまり使ったことはないですが」
「お、いいじゃん。
じゃあなんか観てみるか?
船が沈むやつとか」
「別に構いませんが、それって結末ネタバレしてません?
沈んじゃうんですよね、船が」
「うっ、すまん。
いや、もう映画タイトルが沈んだことで有名な船の名前なんだよ。
だから最初から船が沈む前提の話だ」
「それだけ聞くと、なんか縁起悪そうな、鬱展開っぽい感じですが」
確かに、船が沈む映画って言われたらパニック映画想像するよな。まあその側面もあるが。
「じゃあ、準備しますね」
と女神が言って手を振ると和室は片付けられ、ちっちゃい映画館が出てきた。
何を言ってるかわからねーと思うが・・・はもういいか。
大画面スクリーンとプロジェクターが設置された、本当に映画館を縮小したような20畳ぐらいの部屋で、二人掛けのソファがある。
ポップコーンとコーラも用意されている。
うん、何も言うまい。
そうして2人で観始めたんだが、序盤から女神は熱中して映画を見ていた。
映画の展開に合わせて、表情をころころ変えて、思いっきり感情移入して観ていた。
(ぐっ)
途中、ヌードのデッサンのシーンにはちょっと気まずそうにこちらをチラチラ伺ったり、その後の2人が車の中で致すシーンなんかは顔を真っ赤にしていて、俺は女神の反応だけで十分に楽しめていた。
そして、冒頭に戻る。
映画のクライマックスシーン。
号泣である。
まあ、イケメン死ぬもんな。
それでも絶望せずに笛吹いて必死に助けを呼ぶところは俺も目頭が熱くなった。
そしてエンドロール。
俺たちは二人掛けのソファに深く腰掛け、いつの間にか女神は俺に寄りかかってきている。
(ぐっ)
女神は寄りかかっているのに気づいてるんだかいないんだか、鼻をズビズビいわせ、エグエグいいながら余韻に浸っている。
エンドロールも終わり、気に入ったかどうかの選択肢が出てくる。
あ、「気に入った」らしい。
ちゃんと評価いれるタイプなんだな。
俺はスルーか「あとで」派だが。
あ、寄りかかってるのに気づいたのか自然な感じですすっと身体を真っ直ぐにした。
ちょっとモジモジして照れている感じだ。
(ぐっ)
「終わったな。どうだった」
「はい、とても良かったです。
これほど泣いたのは初めてかもしれません」
「そうか、勧めてよかったよ」
「はい、ありがとうございます。
そういえば、観ていてちょっとわからないところがあったんですが・・・」
ということで俺達は感想戦に突入した。
映画をもう一度早送りや早戻し(『巻き戻し』と言いそうになどなっていない)しながら「ここがよかった」「よく聞き取れなかった」「コイツ許せなかった」などするやつだ。
おうち映画はこれができるからいいよな。
俺達は2人で各シーンの感想を言い合ったり、違う感じ方したところをもう1回観たりしながら結局クライマックスはもう一度しっかり観るぐらいの勢いで映画を振り返っていった。
気づけばまあまあ時間が過ぎていた。
俺はキリのいいところで、
「そろそろ帰るわ」
と切り出した。
「はい、今日は映画に付き合わせてしまいました。
ありがとうございます。」
「いや、俺が勧めたしな。俺も楽しかったよ。
じゃあ、また1週間後な」
と言って帰ろうとすると、
「あっ!あの・・・
映画、また一緒に観てもらえますか?」
去り際、そんなお願いを上目使いでもじもじしながら、ぶっこんできた。
(ぐっ)
「おう、いいぞ。
ああ、そういえばさ、心読むのって切れるの?
さっき映画観ながら俺の頭ん中の声うるさくないのかなーって思いながら気になってたんだ。
なるべくあとの展開とかも思い浮かべないようにはしてたんだぞ、難しかったが」
「あ、切れますよ。
というか映画見てる間は切ってました」
そうなのか。
「え、じゃあ、今後も切らない?
いろいろ考えないようにするのもしんどいのよ」
「ええと、まあ別にいいですよ。
はい、切りました。もう読んでいません」
え、そんな簡単に?
もっと早くいえばよかったか。
ん?女神のほっぺにポップコーンついてるぞ?
と思ったところで女神が自分の右頬を触る。
そして目が合い女神がはっとする。
「読んでんじゃん」
「騙しましたね!?というかポップコーンがほっぺにつくわけないでしょう!」
「いや、反対」
と俺が言うと女神は左頬に手をやり、確かについてたそれをつまんで驚いている。
そしてめちゃくちゃ恥ずかしそうにしている。
俺だって目を疑ったぞ。キャラメル味だったからな。つくこともあるか?
「てか読んだよね?俺の思考」
「うっ、わざわざ私に思考を読むの切らせて何を考えるのか少し気になったんです。
はい、今度こそ切りました」
ほんとか?映画見てるときめっちゃおっぱい当たってたぞ?
無反応か。ホントに切ったらしい。
まあ、思考読まれてない状態で考えることなんて「女神かわいい!」しかないんだが。
今日何度唇を噛んで無心になったかわからんけど、この女神かわいすぎて困る。
美術品レベルの超絶美人のくせに、首コテンとか、映画観て反応可愛いとか。
あと、ソファーで寄りかかってくるのもダメだ。
上目使いのお願いもダメだ。
もう、反則。
ヤバい。
かわいいぞーーーーーーー!!!
ふぅ、スッキリした。
なんであれ溜め込んじゃだめだよな。
女神の方を観ても特に反応はなさそうだし、ほんとに聞くのをやめてくれたらしい。
まあ、聞かれてても「やっぱり聞いてたな」とジト目すればいいだけとは思っていたが。
さて、帰るか。
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