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第25話 おっさん、マラソン最後の最後で

やっぱりこのまま優勝するのはやめよう。


ちょっと応援されたらマジで優勝する気が失せた。


というか、期待に応えるってのが性に合わない。

まあ、中継見てる人の中には俺の失格を望んでる人も多そうだが。


というわけで方針決定。


残り1キロを切ったところでスパートをかける。


ゴールは日本の中心のあの駅だ。


ゴールするつもりはないが。


伊座間(いざま)選手、ここからさらにペースが上がります。

世界記録の大幅更新に向けてスパートをかけてきました」


そんな気はサラサラない。


「かなり苦しそうだったんですがね。

まだスピードを上げられるのが驚きです」


通りの脇には結構な観客が来ている。


そこから観客の声が聞こえてくる。


「がんばれー!」


「すげーぞヤンキー!!」


「後ちょっとだぞー!」


()けろー!!!」


「ざけんなヤンキーがー!」


意外にも応援されている。


みんなその目で世界記録が更新される瞬間を見たいのだろう。


ヤジも少なくない数いるが。


そのヤジに応えてやろう。


のこり10メートル。


「すごいです。

世界記録を5分以上更新するのは確実です!

後はそれがどれくらいかというところですが。

さあ!世紀の瞬間がやってきます!!

いま、ゴ――」


ゴールせずに俺は転けた。

大歓声とヤジのなか、盛大に。


走りの勢いで転がるがまだゴールしていない。


のこり2メートルほど。


「いってーーーーーー!」


痛くてのたうち回る。フリをする。


右に転がり、左に転がり、後ろに転がり。


「ぐああああああああ」


だが前には転がらない。ゴールしちゃうからな。


そんな俺に、観客は、


「がんばれー!」

「後ちょっと!」

「前に転がってー!」

「立って!お願い!!」


と声をかけてくれている。


最後のやつなんか泣いている。


(えぇ、どういう感情?)


と内心困惑するが、ゴールするつもりはない。


這ってでも前へ進めば世界記録はまだ余裕で更新できるだろうが。


俺は係員っぽい奴を呼んで、


「痛すぎて無理、棄権するわ。担架呼んでくんない?」


と告げた。


「はい?」


「だから、棄権!リタイア!担架呼んで」


しっかりさっきより大きな声で伝えた。


「「「「は?」」」」


今度は観客にも聞こえたようだ。


「まじか、あとちょっとじゃん!」

「いやいやいや!まてまてまて!」

「まだ4分以上あるぞ!がんばれー!」

「お願い、頑張ってー!お願い!お願いします!」


困惑と落胆とまだ時間はあるゆえの期待と。

最後のやつなんかもう号泣だ。


最初はざわつく程度だったが、棄権らしいというのが広まるにつれて怒号と化していく。


「はしれー!!」

「根性出せよー!」

「這っていけ!転がっていけ!まだ時間あるぞ!!」

「お願い!お願いします!!走ってーーー!お願ーーい!!」

「ふざけんなカスー!走れボケー!」


そして最後の口が悪いやつ。こいつにキレることにする。


そいつはゴールから15メートルほど手前の沿道の一番前にいた。


俺はスッと立ち上がり、ポケットに手を入れ、メンチを切りながらそいつにずんずん向かっていく。


「てめー!今何つったコラー!!カスはてめぇだろうが!!!

来いや!おらーーー!」


と、ゴールまでよりよっぽど長い距離を進んでいく。


観客「「えぇ・・・」」


それを見た観客は歩けんのかいと思いながら、


「前前前!」

「あっちあっち!」

「ゴール!向かって!あっち!」


と俺に指差して言ってくる。


俺にカス言ったやつも、あっちいけとやっている。


そんなことをやっているとさっき俺が転がった辺りに担架が来ていた。

一応万が一のために持ってきたのだろう。

律儀だな。


俺が駆け足で担架の方へ向かうと、何を勘違いしたのか、


「そうだ、いけー!」

「よし!」

「がんばれー!」


などと応援を始めた。


そして俺はゴール手前の担架に近づき持ってきてくれた人に「わりぃな」と言って担架に座り、


「じゃよろしく~」


といって寝転がり、救護所に運ばれるのを待った。


が一向に担架が動かない。持ち上げられもしない。


救護員の2人の前にスタッフが真面目な顔をして出てきて、


「いいですか?あなたは棄権を宣言しましたが、まだギリギリ競技中であると言うことができる状態です。

ですが、救護員がこの担架を持ち上げた瞬間、あなたは他者の手を借りて移動したことになり原則失格になります。今回は先に棄権の宣言がありましたので棄権扱いですが」


なんて説明をしてくれた。いい人か。


「ちなみにどちらを痛めたんですか?

先ほど歩いておられたようですが・・・」


「ああ、手がすげー痛くてよー。()けて手ぇついたときだな~多分」


「手ですか・・・

本当に棄権で、もうゴールしなくていいんですか?

あと数歩歩けばまだ世界記録更新できそうですよ?」


「ん?世界記録?オレそんな速かったの?」


「知らなかったんですね。そういえば腕時計とかしていませんね・・・

あと2分ぐらい余裕がありますよ。考え直―」


「いいよ、棄権で。言っちゃったし。

男に二言はないんだよ」


最後は(キリッ)と言ったつもりだったが、若干呆れられたような空気が流れた。


スタッフが救護員に向かって頷くとようやく、俺は救護所まで運ばれていった。



作者のモチベーションになりますのでいいね、お気に入り登録、感想など、よろしくお願いします。


カクヨムでも連載中の作品になります。

https://kakuyomu.jp/works/16818093080286722080

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