第23話 おっさん、マラソンを頑張る
いよいよ『首都マラソン』がスタートし、ガチ勢が素晴らしいスタートを切る中、後方の俺を含めた仮装なんかしちゃってるエンジョイ勢は笑顔で観客やカメラに手を振りながら和やかにスタートを切っていた。
俺は観客に向かってヤンキー座りでメンチ切ったり、カメラを見つけるとヤンキー特有のなに見てんだコラ、あーん!?な感じで近付いて行き、さすがに中指は立てないが、小指と人差し指、親指を立て手の甲を向けて両手を突き出し、ベロを出してドアップをしていった。
このマラソンはテレビ中継されており、今の俺の様子もバッチリ放映されている。
俺は『情報端末化』スキルで、そのテレビ中継を確認できている。
放映中のカメラを的確に見つけてはメンチ切ってくる俺に対し、解説のアナウンサーは
「彼また映ってきてますねー。
こういった仮装で楽しめるのもこの大会のような都市マラソンの醍醐味の一つです」
などと実況している。
そうしてスタートラインまで来ると俺はクラウチングスタートの格好をして、カメラに来い来いと手招きする。
来るかどうかは賭けだったがちゃんとこっちを向いて中継にも映っている。
そう長くは映してもらえないだろうから急いでスタートを切ると、100メートルを10秒台で行けそうな速さでダッシュする。
俺はこのまま先頭集団まで追いつくつもりだが、実況たちは、
「いやー、学生の頃はマラソン大会で彼みたいにスタートで、全力疾走する生徒いましたねー」
「えぇ、最初だけ1位になるぜーとか言ってやってましたね」
などと笑っている。
まあ、こんな奴が最後までこのペースで走れるなんて誰も思わないだろうな。
実際はずっとこのペースで走れる。
体力のステータスはたしかに高いが、それでもマラソンの世界トップレベルには及ばない。
ではなぜ走れるかというと、『健康』スキルが悪さをしているせいである。
血中の酸素不足、筋肉繊維の断裂や乳酸の蓄積による疲労。
これらの状態を不健康と捉え、端から解消していくのである。
というわけで、いくらでも全力疾走が可能である。
ただこのまま100メートル10秒台ペースで行くと短距離、中距離のいくつかの記録を塗り替えるペースになってしまうのでそうならないように速度を調整する。
そして、先頭集団に追いつく頃には100メートル16秒ペースぐらいにしていた。
実際これでも相当早い。
100メートル17秒ペースでマラソンだと2時間切るペース(※)だ。
選手や観客、視聴者は目を疑っただろう。
ヤンキーに仮装したエンジョイ勢が先頭集団に追いついてきたのだ。
選手の何人かは乱入者だと思ったかもしれない。
だがちゃんと選手の証のゼッケンを胸につけている。
そして実況や何割かの視聴者は覚えていた。
ついさっきカメラにメンチ切って、わざわざクラウチングスタートで猛ダッシュしていったヤンキーの仮装を。
実況なんかはそいつをネタに盛り上がったりもしていたのだ。
そして今も、
「いや~驚きましたね。
さっきのリーゼントの選手ですよ。ここまで追いついてくるとは」
「ええ、相当気合が入ってますね。
ですが、だいぶ無理をしたのでしょう。とても苦しそうです」
などと言っている。
そう、俺は追いついた段階で苦しそうな演技をしていた。
それでもまたそこからペースを上げて、先頭集団を抜き去った。
それが最後の力を振り絞っているとでも思ったのだろう、実況は、
「ここからさらにペースを上げるとは驚きです。しかし、やはりこれでは最後まで持たないでしょう」
「そうですね、まあ、かなりテレビにも映りましたし、人々の記憶にも残ったんじゃないでしょうか」
「しかし、これで先頭集団がペースを乱されていないといいのですが・・・
さすがです。ちゃんとペースは維持できているようです」
俺をもうここで終わりと決めつけ、先頭集団のペースの心配までする始末だ。
とはいえ暫定一位ではあるため、先導車やカメラは俺の前を走り、二位集団からは離れてしまう。
俺との差がかなりついたところで二位集団の前に先導車とカメラが追加されたみたいだが。
俺はハイペースを維持し、中継が俺を映したのを確認する度に、メンチ切ったり、ヤンキー座りしたり、小指と人差し指、親指を立て手の甲を向けて両手を突き出し、ベロを出したりとアピールしまくった。
一位を走ったまましばらくすると給水所が見えてきた。
俺は思いついて止まると給水所のスタッフに質問した。
「え!おい!なんだこれ!?飲んでいいのか!?」
「はいどうぞ」
「マジか?ありえねぇだろ!?飲んだら失格とかそういうオチだろ!!」
「いえ、ここは給水所なので、選手の安全を・・・」
「はぁ!?ふざけんな!毒かなんか入ってんだろ!!お前飲んでみろ!!」
スタッフは躊躇して飲もうとしない。
まあ選手用だし勝手に飲んだら怒られそうだよな。いちゃもんつけてゴメン。
「やっぱり飲めねぇじゃねぇか!くそ!!毒かよ!!ざけた真似しやがって!どういうつもりだぁ!!!」
なんてやってると二位集団が追いついてきて、みんな水を取って通過していく。
当然、飲んだり浴びたり普通の給水所の光景だ。
「「・・・」」
無言で見つめ合う。なんならちょっと睨まれて。
「は、ははは。
わりぃ!まじわりぃ!!なんだよ、いいやつじゃんお前ら!!言えよばか!!
え!?じゃあマジで飲んでいいってことか!?無料でか!?」
「・・・はい」
「まじで!?じゃあもらうわ!マジここまでチョーきつかったからマジ助かるわ!!
ゴクゴクゴク。
っかーーー!うめーーーぇ!!
ゴクゴク。
ぷはーーーー!
一本だけ?」
「あ、別に何本でも・・・」
「マジ!!?神か!!」
そうしてもう三本ほど飲み干していると、
「・・・あの、だいぶ抜かれてますけど、マラソン・・・」
とスタッフが教えてくれた。
「あーーーーーーー!!!
やっぱり罠じゃーか!!ふざけんなぁーー!!!
待てやおらーーーーー!!」
と、また全力疾走で先頭を追いかけ始めた。
そして50メートルほど走ったところで道路脇にうずくまり、水を全部吐いた。
そして給水所の方を睨み、
「てめぇらぁー!!覚えとけよコラーーーーー!!!」
と言って先頭集団を追って走り出した。
「「えぇ・・・・・・」」
困惑する給水所スタッフ。
まじゴメン。
この物語はフィクションです。
実際こんなことをしたら失格でしょうね。
仮装枠な上に言動は酷いがやってることがアホすぎて大目に見てもらってるって感じで捉えてください。
※2025年1月現在、2時間00分35秒が世界記録
フィクションだから現実世界の記録は一切関係ありませんが。
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カクヨムでも連載中の作品になります。
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