第18話 おっさん、悪役を目指す
「本気で悪役でいくんですか?」
AIが聞いてくる。
ああ、みんなに嫌われるような、倫理観のない、道徳心のない、人を馬鹿にし、人の弱みに付け込む、そんな嫌なやつに俺はなる。
「またどっかの海の荒くれの王を目指すみたいに…」
AIがなんか呆れてるが気にしない。
言ってみたかっただけだ。後悔はしている。
しかし実際、本性を隠さず素の自分を出して行けばそうなるだろう。
そして嫌われるだろうし炎上もするだろう。
だが、それでいて有能で、優秀で、人類にとって必要不可欠な人間であるってのが重要だ。
俺は人々が依存せずには居られない様な、有用なものを生み出し続ける。
俺は恩着せがましく、謙虚さなど微塵もなく、成果を自慢する。
だが、法は遵守する。
付け入る隙は与えない。
その辺はAIに法律関連を学習させたからな。
法に触れない、訴えようがないレベルで人をコケにし、偉そうに振る舞い、人を怒らせ、嫌われる。
おまけに酒好きで、ギャンブル好きで、女好き。
そんな悪役だ。
「それであっても、エネルギー問題の解消は人類にとっては有益に思えますが」
まあ実現したら、実際そうだろうな。
ただそれを成したやつがすげー嫌なヤツってのが重要なんだ。
俺がスカッとするかどうかっていう一点に於いて。
ただ、それで最初の顧客がつくかは不安だけどな。
「さっき言ったレベルのバッテリーであれば、無視できる企業はないでしょう」
そりゃそうか。同業他社に後れを取るもんな。
「一旦の方針としては理解しました。
今後の活動ですが、技術開発等はわたしの方で進めておきます。
マスターはスポーツや格闘技の方を進めますか?
アマチュアで参加できる大会に出場する方向で手配しておきますが」
そうだな、片っ端から優勝していくか。
最終的に全国に行くような大会を選んでおいてくれ。
なんかスクールとかジムとか道場に所属していないとダメな奴は入会しておいてくれ。
できれば弱小すぎて参加を諦めるレベルの規模だといいんだがまあできる範囲で。
「承知しました。
起業の方も進めておきます。
終わり次第、法人名義で口座を開設して、投資で資金を増やす作業に入ります」
頼む。
俺は俺で、今どれくらいスポーツができるのか、試してみようかな。
まずは野球から試すか。
と思ったが、そういえば道具がないし場所もない。
俺は、野球ができそうな場所を探す傍ら、分身を作って道具を買いに行くことにする。
当然、人の目やカメラがないことは確認済みだ。
しばらく歩くと大きな川の土手に来た。
河原は広く開けていて、よく草野球で使われているようなグラウンドもあり、俺が使っても大丈夫そうだ。
人もぱっと見、全然いない。
ちょうどその頃には道具一式も買い終えて『収納』に入っている。
川に架かる電車の高架もあり壁投げが出来そうだ。
高架の支柱に向かってピッチングを試してみると、軽く放っただけでえらいスピードが出た。
そういやスピードガンとか無いと速度わかんないなーと思ったら鑑定で行けた。
視界の端に球速が出ていた。野球中継のように。
『140km/h』
まあまあだが、軽く投げただけでこれか。
買い物に行っていた分身も追いついてきたので、何度かキャッチボールをして慣らしたあと、キャッチャーとピッチャーに分かれて、マウンドから7割程度の力で投げてみた。
速度は、
『162km/h』
マジか。
ちょっと気になって周りを見てみるが、誰も見ていなかったようだ。
平日の昼間からこんなところには誰もいないか。
再度、周囲に人がいないことを確認し、今度は本気で投げてみると、
『202km/h』
キャッチャーミットからは凄まじい音が響いた。
十分人間やめてるじゃないか。
「力はプロ野球選手の最高をはるかに超えていますし、素早さも同様です。
それを器用でまとめ上げ、身体構造や力学を理解して投げたのですからそれくらいは出るでしょう。
練習では加減を覚えることを優先したほうがいいと思いますが器用が高いのでそれもすぐでしょう」
AIが答えてくれる。
そうか、五輪級のステータスを総合的に持ってる奴などいないか。
重量挙げでも、短距離走でも、アーチェリーでも上位を狙える能力ってことだもんな。
十分人間やめてるじゃないか・・・
その後、分身を増やしてバッターや各ポジションの守備も確認したが、ファインプレーもホームランも余裕だった。
相手役の分身はプロの各ポジ最優秀選手想定の能力でやっている。
自分の全力同士でやると、例えば投球vs打撃は、バット粉砕という結果になってしまい、道具のほうが持たなかった。
外野の守備ではセンターの一番深いところから、タッチアップを阻止できるほどの返球をキャッチャーのど真ん中に返せる。
なんならランナーが戻ろうとするぐらいには余裕で間に合うのは良いのか悪いのか。
メジャー想定でも同様だったのを確認し、いったん野球はここまでとした。
次はサッカーだがこちらも相当やばい。
ドリブルはボールが足に吸い付くように全力疾走できるし、左右に振ろうがフェイントを入れようが同様だった。
実際の試合では大勢で囲んだりタックルだろうがスライディングだろうが何でもありのスポーツだから(偏見)、慣れが必要だろうが、俺が人数を引きつけられる時点でチームとしてはかなり大きいだろうし、おそらく突破も余裕だろう。
キーパーもやってみたがPKは蹴られてから動いても余裕でセーブ出来るし、過去のワールドカップや欧州、南米の試合で出たスーパーゴールを再現してみても、すべてセーブできた。
キーパーが一番楽に試合に貢献できるだろうな。
絶対負けないチームになるぞ。
なんならキックオフで1点取って、その後キーパーやってるだけで全勝だ。
余談だが、よくサッカー上手いやつがリフティングでボールを額に乗っけてキープするやつ。
アレを俺は全力疾走しながらキープすることができた。
ジグザグ走ろうが、バックステップしようが、ジャンプしようがキープできた。
もちろん、サッカーはタックルだろうがスライディングだろうが何でもありだから(以下略)
まあ、ボールが頭にあるのにスライディングしたら一発退場だろうが。
それでゴールを量産してみるのも面白そうだが、ルールが変わりそうだな。
そこまで難しくなかったから既に禁止されてるかもしれないが。
他にもいろんなスポーツを試したが、個人競技では負けるイメージは出来ず、団体競技もそれは同じだった。
次は格闘技だが、こちらはAIの言う通り、加減を覚えるのを優先した。
本気でやったらマジで相手が壊れかねないからな。
あとふざけてやってみただけなんだが、漫画の技ができたのには笑ってしまった。
サッカーでは『キャプ羽(キャプテン羽)』のボールに乗って滑るように移動するドリブルや、『テニキン(テニスの王様)』の部長のゾーンも天才の消えるやつもポール回しも分身も、剣道では『ふろ剣(不労人剣一)』の九発同時撃ちの閃も再現できた。
さすがに竹刀は燃やさなかったが。
閑話休題。
できることを確認したあとはひたすら各競技のルールや反則を頭に詰め込んだ。
当然ルールを守るためでもあるが、反則スレスレのラフプレーや、ずるくて卑怯な勝ち方をするためにもルールの理解は必須だ。
失格では意味がない。
ルールに則って卑怯な手で勝つのが重要になってくる。
悪役だからな。
先ずは卑怯な手で勝つ。
次は正々堂々と勝つ。
最後に舐めプで勝つ。
これが基本の流れだろう。
ルールを覚えたあとは、どんな卑怯な手で勝つか、どんな舐めプをするかを考えていったが、それが一番楽しかった。
※ 登場した漫画の概要
『キャプ羽(キャプテン羽)』
「ボールは奴隷」が信条のサッカー少年、青空 羽くんのお話。
頭身がおかしいなんてことはない。
長期連載作品で様々な『~編』を経て、現在は『キングハネさん(60)下部リーグ奮闘編』
『テニキン(テニスの王様)』
主人公越中リューマとテニス少年たちの間で想像を絶するテニスが繰り広げられるお話。
テニスではなくチミヌという未知のスポーツという説もあるほど。
分身だって、変身だって、巨大化だってなんのその。
物理法則を何処かにおいてきた、もはや少林テニス。Cooooooool。
『ふろ剣(不労人剣一)』
働かない剣士の剣一が、明治の世で剣術道場のお世話になるお話。
刀は既に売ってしまっているが、実は伝説の志士。
働いたら負けらしいが、未だに無敗を誇っている。
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カクヨムでも連載中の作品になります。
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