第11話 おっさん、異世界で冒険者の準備
「ここよ」
エミちゃんに案内された部屋は簡易なテーブルと椅子、ベッドがあるだけの小さな部屋だが手入れが行き届いており、清潔感があった。
「食事は1階の食堂だから時間までに降りてきてね。
部屋まで運んでくることもできるけど・・・」
「いや、食堂まで行くよ」
「そう。
貴重品は自分で管理してね。
外出するときはカウンターに鍵を預けていって。私かお母さんがいると思うから。
何か質問はある?」
「大丈夫だ、ありがとう」
「では、ごゆっくり」
部屋の隅に荷物をおいて振り返ると、まだエミちゃんがドアの前にいて何か言いたげにこちらを伺ってモジモジしている。
「どうした?」
「あの、ホントにウチで良かったの?なんか初対面なのに勢いでいろいろ言っちゃったし、泊まれって言ったのも私なんだけど。
お金大丈夫かなとか、無理してないかなとか心配になって。
お母さん口説いたのはまだ不信感と言うかムカムカするんだけど、あ、でもやっぱり泊まるのやめるって言われても困るんだけど・・・」
とそこまで言って少しうつむいてしまう。
なんかまとまってないけど言いたいことは伝わってきた。
不信感と金使わせる罪悪感と宿の経営の心配とかが混ざっちゃってるカンジか。
「ああ、気にしなくても大丈夫だ。村を出た時に持たされた金はまだあるし、ちゃんとした宿に泊まれとも言われている。ここはちゃんとした宿なんだろ?」
「そうだけど・・・」
「じゃあ、問題ない。
心配してくれてありがとうな、エミちゃん」
俺がそう言うとエミちゃんホッとしたような表情を浮かべたと思ったらそれも一瞬で俺を睨みつけてきた。
「エミちゃんはやめて!」
「あ、はい」
思わず敬語になってしまった。
「エミリアよ。
あとほんとにお母さん口説くの禁止。
変なことしたら常連の冒険者のお姉さんにお願いするからね。Bランクらしいわよ」
何をお願いするか言ってくれ・・・
「わかったよ、エミリア。
そういえば色々助言してくれて助かったよ。たしかに俺みたいに弱そうなやつが安宿に行ったら逆に高く付きそうだしな。ありがとう」
「そ、そう?
でもなめられたくないなら、弱そうって言われたら怒っておきなさいよ」
ちょっと言い過ぎたと思っていたのかホッとした表情を見せる。
「たしかにそうかもな。気をつけるけどさっきのあの流れで怒ってたらだいぶ印象悪くないか?
あとアイリスさんはほんとに口説くつもりとかじゃないからな」
「とりあえずそのことば、信じてあげるわ」
まあ、初対面でいきなり母親を口説いてきた(誤解だが)同い年くらいの野郎を信じるのは難しいよな。
まあ、これからの行動で示していくとするか。
といっても宿屋と客の関係だから大した行動はできないが、彼女たち2人でやってるって言ってたから、男の俺が手伝えることもあるだろう。
あとは宿の備品きれいに使ったり、ちゃんと挨拶したり、日本人ムーブしてればそれなりに良客だとは思ってもらえるんじゃないだろうか。
「そうだ、この後冒険者用の装備とか道具類買いに行きたいんだけど、オススメとかあったりするか?」
「んー、さっき言った冒険者のお姉さんが行ってたお店なら知ってるけど、Bランクって言ってたから中~上級者向けかもよ?」
「ホントか?じゃあそこを教えてくれ。
初心者向けがなかったらその店に聞いてみるよ。
同業者のおすすめなら、変なとこ紹介されないだろ。
俺もゆくゆくはそこの客になるかもだしな」
「すぐに死ななきゃでしょ。
えっと場所は───」
ひと言多くない?
───
結論から言うと装備は紹介してもらった店で問題なく買えた。
新人ほど、敵の攻撃を貰いやすく、防具を直ぐにダメにするし、剣は曲げるし矢はムダ撃ちするしで、値段は安いが回転が良く主力商品なんだそうだ。
逆に上位の冒険者ほど武器防具の扱いに慣れており、日々の整備もちゃんと出来るため、買い替える際は結構きれいな状態でそれまでの装備を下取りに出していくようで、少しのメンテナンスで新品同様の状態で店頭に出せるようだ。
それでもちゃんと中古で売っていた。
異世界の倫理観とかコンプラとかには大して期待していなかった分、好感が持てた。
命を預ける装備品だからな、そのへんに誇りを持ってやっているのだろう。
ちなみに俺が購入したのは低級の革装備一式(胸当て、手袋、ヘッドギア)と、鋳型で量産された片手剣だ。
防具は軽くて動きを阻害しないもの、武器は今持っている短刀より長く扱いやすいものを選んだ(選んでもらった)
道具屋も聞いた店で問題なく購入できた。
なんなら初心者セット的なものまであり、その中でも比較的値が張るセットを購入しておいた。
ある程度品質の良いものを長く使うほうがいいと思っての投資だ。
あと驚いたのが、なんと空間拡張機能の付いたいわゆるアイテムバッグが売られていたのである。
ただバッグといっても見た目は細長い帯状の布、または革が2枚重なっただけのもので、要はカバンの口のみの状態で売られていた。
自分のカバンの内側に貼り付けて使うらしい。
鞄の容量を拡張すると言うよりは、空間収納へとつながる口のようだ。
流石に手は出ないが、最下級のものは、80万シリンと、そこまで不可能な金額でもなかった。
これならカバンに手を突っ込んで『収納』スキルを使うことでカムフラージュできそうだ。
そんな感じで、装備とアイテムの購入は終わらせることができた。
このまま、冒険者登録するためにギルドに行くぐらいの時間はありそうだが、リックたちと約束してるからそれは明日だな。
それよりも俺にはまだ異世界の常識がなさすぎる。
常識が無いことで起きうるトラブルは回避しておきたい。
要はテンプレに巻き込まれて反撃したり、スキルやステータスを全部正直に申告したり、不用意に誰かを鑑定したら気づかれたり、生活魔法がありえない威力だったりして、「あれ、俺なんかやっちゃいました?」なんてことは避けたいし、目立ちたくないのだ。
敬語を使ったり字が書けるだけで目立つ可能性すらある。
というわけで、一旦宿の自室に戻った俺は、6体に分身し、1体を残して小さな鳥に変身した。
『偽装』を完璧に行い、見た目も、ステータスも街に入ってから何度も見かけたどこにでもいる鳥になっている。
それぞれ街に飛んでいき、適当に鑑定かけて、見た目を観察して、盗み聞きしてを繰り返していった。
そうして、一般人や冒険者のステータスやスキル、外見、話し方、振る舞いや、街の地理情報などをあつめていく。
人間のままの俺はヒトでなければできない情報収集をするために、宿を探すときに目を付けていた飲食店に行くことにする。
食についての情報は、実際に食べてみないとわからないからな。
店に入ってみると、喫茶店というよりはバルといった雰囲気で、酒やつまみも提供している様だった。
そういえば昼食も食べていなかったため、ここで遅めの昼食とするか。
メニューを見て驚いたのがコーヒーがあったことだ。
俺は迷わずコーヒーを選ぶと、軽食にサンドイッチも頼むことにした。
そうして出てきたコーヒーは、色も香りも地球のコーヒーと違いはないようだった。
『異言語理解』先生もコーヒーと翻訳したわけだし、『鑑定』先生もほぼ同じものであると教えてくれた。
カフェインも同程度含まれているらしい。
味もコーヒーそのもので、何なら香りや味わいは、地球のものを上回るレベルである。
まさか異世界にコーヒーがあるとは思わなかったが、カフェイン中毒の俺にはありがたい。
ここの常連になるか。
いや、コーヒーが普通にあるならいろんな場所で飲める可能性もあるな。
情報収集対象に入れておこう。
出てきたサンドイッチも地球のものほど洗練されてはいないが、少し硬いパンと塩辛いハム、クセの強いチーズがギリギリのバランスで調和されていてかなり美味かった。
好みが分かれるかもしれないが俺には美味いんだからそれが全てだ。
その後も何品か注文したが、中には全然受け付けないものもあった。
肉の臭みが強烈で香辛料でごまかしているようだが全然ごまかせておらず口いっぱいに広がる獣臭さが鼻に抜け涙目になって飲み込もうとしたが無理だった。
どうでもいいことだが、この時、口の中から直接『収納』に飛ばせることが分かり、店主の前で自慢の料理を吐き出さずに済んだ。
後半はエールとツマミを頼んだが、エールは意外にも冷えていて苦みはあるが後口が良く結構いけた。
全て注文した訳では無いが、割合としては美味いが2割、普通に食えるが4割、不味いが食えるが2割、絶対無理が2割といったところか。
4割外れと考えると結構きついな。
それでもこの店が当たりだと考えると異世界の食事情はあまり良くないのかもしれない。
俺が絶対ムリだった料理をうまそうに食べながら酒を飲んでいるおっさんを見たときは驚いたが、味覚は人それぞれということだろう。
会計をして宿に戻ることにした。
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