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パンとサーカスと、自転車に乗って  作者: 常に移動する点P


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第二十三話・響木優子の男を見る目

 響木優子はノンキャリだが、バリバリの刑事だ。高校・大学時代はディベート部にのめり込んだ。持論で論破するという形ではなく、与えられた役割で主張をする。ディベートの本質は、その役割を演じ切ることだ。演技というと語弊があるが。響木の視点の切り替える能力は、犯人の心理を窺い知るという点で二課の誰にも真似できなかった。


 桜井と付き合い始めて、半年が経つが年上の男は心が読みやすいと響木は自分でも自惚れているかのように思っている。犯人の心を読むのに似ているのかもしれない、何かを用意周到に“隠す”バレないと思っているその根拠の乏しくも強い信念のようなものに愛着を感じるのだ。それは、脆く、壊れやすい。響木は構築よりも破壊、に興味があると自認している。人間関係は壊すことに快感を覚えているからだ。だから、男に限らず友人とは長続きはしないし、唯一の家族である母親ともそりが合わない。似たもの同士なのかもしれないと、響木は、中田陽子・川村紗智の誘拐資料を見ながら考えていた。


 この二人の共通点が見当たらない。それぞれの交友関係をあたったが、中田陽子には夜学で最近よく話す男子生徒がいることがわかった。あとは息子の翔太。川村紗智はアルバイト先の菅野奈緒とシフトが重なることが多いとだけわかっている。元不倫相手の合田とは関係が終わっているらしく、甲斐性なしの合田が川村紗智だけでなく、中田陽子まで誘拐できるとは思えない。響木は桜井に捜査の状況を訊きたかったが、お互い仕事が忙しくそれぞれの家に行き来する機会がグンと減っていた。


 慌ただしく、押上がデスク側に駆け寄って来た。

「なによ、暑苦しい」

 響木は目を合わせず押上の熱気を避けた。

「響木先輩、葉狩さんから連絡で、久保隅咲江ってのを照会しろって」

「誰それ?」

「ソウダチカコっていたでしょ?あの宇治川河川敷で見つかった」

 押上はネクタイを緩め、第二ボタンを開け手で扇いだ。響木には汗でびっしょりなのがわかった。筋肉質の押上は汗っかきで、体臭が男臭い。桜井と付き合う前に、押上に告白されたことがあったが、丁重に断ったことをいまさらながら惜しいと思った。先輩後輩で付き合うのはさほど問題ではないが、年下の男はどうも扱いづらいというか。年上の男は犯罪者のように“隠したがる”。だが、年下の男は“見せたがる”のだ。敢えて、自分の「罪」のようなものを見せつけて、罰して欲しいと願うのだ。

「ソウダチカコがどうしたのよ。名前が奪われたって言ってたって聞いたけど」


 押上は葉狩から訊いた報告を整理して響木に説明した。

・ソウダチカコは早田千賀子と書き、元歌劇団に所属しており端役ながらも舞台女優であったこと

・十八年前、瓜二つと言われていた久保隅咲江という同じ元歌劇団の女優と、名前を交換したということ

・どうも、ソウダチカコは名前を交換したのち、戸籍自体も奪われ、身元不詳になったということ


「戸籍交換したうえで、その戸籍を処分して、自分は元の戸籍に戻ったってことかしら」

「おそらくですよ」

 押上が前置きして続けた。汗はすっかり止まっていた。

「あの宇治川河川敷で亡くなったソウダチカコは戸籍を交換して久保隅咲江になったつもりだったが、ただ戸籍を奪われただけだった。新しい戸籍を与えられたわけじゃなかったってことで。奪われた戸籍は久保隅咲江に売却された」

「でさぁ」

 響木は何か確信めいたように、けだるくパソコンのキーボードを叩いた。

「久保隅咲江って、久保隅秀一って孫いるんじゃない?中田陽子の交友関係から出てきたんだよね。夜学の友人っていうか。久保隅って苗字珍しいから気になったんだよね」

「何か、つながり始めましたね」

「ヨシ、行こう」

 響木は押上を連れ、京都駅で待つ葉狩と合流した。相変わらず観光客が多い。市バスの乗り口はリュックを背負った外国人でごった返している。京都府民の足であるはずの市バスは、その役割を果たせそうにはない。


三人は京都駅から山科駅を目指した。山科区にある久保隅咲江宅は京都駅から一駅だった。


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