魔法を動力源とした現代マシンの開発
「うむ、ようやく完成だ。感謝するぞ、異世界人ども」
「鎧……私の鎧……」
「ガハハハハ! そんな落ち込むなって、スズ! 鎧なんて、もう一回ウランに作ってもらえばいいじゃねぇか!」
「はぁっ……かはぁっ……! このデカブツ火炎狂いが……! こんな状態の私に、まだ物体創造させるつもりですか!?」
鎧を失って落ち込むスズ。何があっても動じないラドン。魔力切れでほぼババア状態のウラン。三者三様の反応見せつつ、完成した自動車の元に集まる異世界人たち。
「でも、まあ、こういうのって初めてで、ちょっと楽しかったし、別にいっか……王都に予備の鎧あるし……」
「な! すっげぇ楽しかったよな! これがカガクハンノウ? ってやつか? かがくのちからってすげー!!」
「ふ、ふふ……まあ、これだけ働けば計助さんの中でのウランちゃんポイントは爆上がり間違いなしです……メインヒロインの座は私のもの……行き遅れる前にぜったい花嫁衣装着る……」
しかし、魔法だけでなく地道な作業を繰り返して何かを作るのは初めてだったのだろう。完成後の達成感は計助よりもむしろ強い様子の三人であった。
そして、それは集落の住民たちも同じのようで。
「いやー、木を削ったら、あんなにベトベトしてるやつが出てくるなんて知らなかったなぁ」
「でも、魔法使わずに皆と色々やるのって新鮮で楽しかったよ! ありがとう、まぶしいお兄ちゃん!」
大体の物を魔法で瞬時に終わらせることができる。そんな異世界人たちにとって『みんなで時間をかけて一つの目標を達成する』という体験は、ある意味未知との遭遇であり、大いに満足感を得ているようだった。
「ふんっ。なによ、それ」
……ただ一人を、除いては。
「こら、一人だけ作業に参加してなかったノーキンパツ。なに不貞腐れてんですか。空気読めってんですよ」
少しだけ魔力が回復し、元気になったウラン。耳をピンっと立てながら、一人だけ離れた場所に突っ立っているクロムを牽制する。
「そうだよ、クロム姉ちゃん。お姉ちゃんも僕たちと木ガリガリすればよかったのに」
「……クロム姉ちゃん? おい待て、少年。貴様、あの女の弟なのか?」
「うんっ! 僕、ジン・リード! クロムお姉ちゃんの弟です!」
なんと。お兄ちゃんお兄ちゃんと言いながら一番計助に懐いていた少年の正体は、クロムの弟・ジンであった。
「もうっ、ジンったら余計なこと言うんじゃないわよ……」
「ああ。そういえば貴様、俺と転生直後に初めて会った時、里帰りがどうとか言ってたな。なるほど、この村は貴様の故郷というわけか」
「……まあ、そうだけど」
「ふむふむ、だから俺に対してそういう態度を取るわけだな。大方、貴様が一人で救えなかった故郷をポッと出の俺が勝手に救ったものだから、個人的に思うところがあるのだろう。プライドが高そうな貴様のことだ。だから、やたらと俺への当たりが強いのだな。嫉妬か?」
「べ、別に、そんなんじゃないし……」
「でもお姉ちゃん、僕たちが楽しそうにしてるとこチラチラ見てなかった? クルマつくり、ほんとは混ざりたかったんじゃないの?」
「べ、別に、そんなんじゃないし! ジンは余計なこと言わないのっ!」
「心拍数上昇。図星か」
「あぁ、もうっ! だからアンタはいきなり目光らせんなぁっ!!」
羞恥で顔を真っ赤に染め、プルプル震えて涙目になるクロム。
この男、車の知識はあっても、相変わらずデリカシーだけは無いようである。
「さて。車も完成したことだし、早速王宮へ向かうとするか。おい、エルフ女。ここに水魔法でありったけの水を入れてくれ」
普通車で言う『ガソリンを入れる部分』をパカッと開けると、計助はスズを呼び寄せた。
「こ、ここに水を入れればいいんですか?」
「ああ、そうだ。溢れない程度に水魔法を使ってくれ」
「あ、よかったです。私、役目あったんですね。ウランもラドンも魔法使ってたのに、私だけ木をガリガリ削ってるだけだったので。出番無いのかと思ってました。純水放出」
随分と卑屈な笑顔を浮かべつつ、車内に水を補充していくスズ。自分だけ車作りに貢献していなかったのを、地味に気にしていたらしい。
「よし、入れる水はそれくらいでいいだろう。では出発だ。ラドンは俺の隣、助手席に乗れ。ウランとスズは後部座席だ」
「へ? 私たちも一緒に乗るんです?」
「オレたちは飛行魔法で王宮に行けるし、乗るのは計助殿だけでいいんじゃねぇか?」
二人並び、コクリと首を傾けるウランとラドン。至極真っ当な疑問であろう。
「何を言っているんだ貴様らは。最初に『魔法で動くクルマ』と言ったであろう。俺だけでは、このKSK号は動かんぞ。貴様らを乗せる予定だったから四人乗りにしたのだ」
この男、デリカシーだけでなく車のネーミングセンスまで壊滅的である。
「あと、普通にドライブは楽しいぞ。良いから早く乗れ」
「楽しいだって!? だったら喜んで乗らせてもらうぜ!!」
「じゃあウランちゃんも乗りますね。ぶっちゃけ物体創造りまくって疲れたので、飛ぶ魔力残ってないです」
「じゃ、じゃあ、薬師寺さんから許可もらえたことだし、私も……」
計助の指示に従い、続々とKSK号に乗り込む三人。運転席に計助、助手席にラドン、後部座席にウランとスズが腰を下ろす。
「……」
そして。そんな四人を少し離れた場所から、じーっと見つめる金髪少女が一人。
「? なんだ、クロム。貴様も乗りたいのか? 後部座席ならあと一人乗れなくもないが」
「っ! ち、ちが……」
「なんだ、違うのか。なら早速出発だ。おい、ラドン。貴様の出番だぞ」
「アイアイサー!!」
「え!? ちょ、アンタたちもう行っちゃうの!?」
あまりに切り替えの早い計助に驚嘆し、思わず絶叫するクロム。この男に異性の言葉の裏を読むなど、期待するだけ無駄である。
「貴様らを同乗させたのは他でもない。創造魔法が使えるウランは部品故障時の修理役。水魔法使いのスズは燃料が切れた時に水を補充してもらおう。そしてラドン、KSK号において最も重要な役目を担うのは貴様だ。火炎魔法使いの貴様には『アクセル役』をやってもらう」
「おん? そりゃどういうことだ?」
図体がデカく、ひとりだけ窮屈に座っているラドンが計助に問いかける。
「実はこの車、貴様の火炎魔法で動かすことを前提に設計していてな。俺が居た世界には無い爆発的な瞬間火力を持つ貴様でなければ、この車は動かんのだ。まあ貴様は何も考えず、俺の指示に従っていればいい」
その言葉こそが、計助の言う『魔法で動くクルマ』のメカニズムであった。
本来、水だけで車を動かすことは難しい。それは水という物質をエンジン内で燃やしたとしても、車を動かせるような大きいエネルギーを生むのが難しいからだ。だから普通車は、爆発的に燃えやすいガソリンを使っている。
しかし、ラドンの超火力魔法があるとなれば、話は変わってくる。
「貴様が最初に自慢げに使っていた火炎魔法、あの炎は黄色に近かった。ならば貴様の炎は推定、四千度ほどだ。炎は温度によって色を変えるからな。見れば、すぐ分かる」
──そう。この男の『魔法自動車計画』は全て、ラドンがテキトーにぶっ放した火炎魔法から逆算されていたのである。
【周囲に存在する大量の樹木……木々の性質はラバーウッドに近い、か……】
──自分の異能で材料『ゴムの木』を発見。
【いや、材料が揃ってれば、大体の物は作れちゃいますよ? ふっふん。私、天才ですので!】
──それをウランの創造魔法で組み立てれば、車体は完成。
【おい、エルフ女。ここに水魔法でありったけの水を入れてくれ】
──車の燃料には、スズの水魔法を使う。
【ナーハッハ! どうだい計助殿! これが俺の爆裂火炎だ!!】
──そして、ラドンの火炎魔法で燃料を爆発的に燃やす。
そうすれば、この異世界でこそ成り立つ『魔法で動くクルマ』が誕生する──計助は、そう考えたのである。
「エンジンに使われているのは貴様らの鎧に使われていた金属だ。〝解析〟で耐熱性が非常に高いことも確認している。ラドン、貴様にはエンジンに直接火炎魔法を叩き込んでほしい」
そう告げると、計助は助手席に座するラドンの足元にある小さな扉を開いた。
開けた先には小指が入るか入らないかほどの細い穴が空いている。
「その穴の先はエンジンに繋がっている。そこに上手い具合に火を入れてくれ。火を入れると、車が動く。逆に火を止めれば、車も止まる。俺の理論に狂いが無ければ、そういう風にできてるはずだ。できそうか?」
「ナーハッハ! 俺を誰だと思ってんだい計助殿! この国最強の火炎魔法使いは、ただの火力バカってわけでもないのさ。細かい火のコントロールだって自由自在だぜ!!」
「フッ、頼もしいじゃないか。ならば行くとしよう──魔法自動車、発進だ」
「おうさ! 線状黄炎!!」
計助の掛け声に合わせ、ラドンの火炎魔法が発動。指先から細穴を通じ、エンジン内へ火炎が伝播する。絶妙にコントロールされた黄色の炎は溢れ出すことなくエンジン内に留まり、燃料の水を燃やし始める。
通常の火炎なら、水と火の反応はそこまで。車を発進させるほどのエネルギーは生まれない。
──しかし、ラドンの魔法から生み出される超高温火炎となれば、話は変わる。
水は四千度を超える超高温火炎と反応した時に限り、化学反応を起こして水素を放出するという性質を持つ。ならば必然、ラドンの火炎魔法を叩き込まれたエンジン内は、やがて水素に満ちていく。
「フッ。水で動かないなら、水を水素に変えればいいのだ。水素自動車は現代にも存在するからな」
水は火炎との反応が弱い。だが水素爆弾という言葉もあるように、水素は火炎と爆発的に反応する。中学理科レベルの有名な話だ。
ならば、エンジン内で火炎魔法と水素が反応したら? 結果は自明の理であろう。
「おーっ! すげぇすげぇ! 動き始めたぞ!!」
──そう。生み出された爆発的なエネルギーが、車を動かす力となるのだ。
「くはははは! 実験大成功だ! 協力感謝するぞ、異世界人ども。さあ貴様ら、王宮へのナビゲートは頼んだぞ」
「うわーっ! はやいはやい! こんなにスピード出るんですね!!」
「水魔法……役に立ってよかった……」
「ナハハハハ! ガーハッハッハ!!」
集落の住民たちに感謝を告げつつ、計助はKSK号のハンドルを握りしめる。同乗者の三人は初めてのドライブということもあり、興奮を隠すことなく無垢に瞳を輝かせている。
「おい、ラドン。速度調整も貴様の役目だからな。火力のコントロールには常に気を配っておけ。スズもこまめに水の補充を頼むぞ。ウランは疲れているなら、しばらく寝ていろ。トラブルが発生したら、また貴様の創造魔法を使うからな」
「えぇ、そんなぁ! オレもそのハンドルってやつ触りてぇよぉ!」
「パウッ! パウパウッ!」
「あれ、なんか今変な鳴き声聞こえたような……ウラン、もしかしてあなた?」
「おい、ネガティブエルフ。耳とシッポがついてるからって勝手に決めつけるんじゃねぇですよ。私じゃねぇです」
騒がしい声を響き渡らせつつ、魔法式水素自動車は異世界を駆けて行く。「本当にありがとうございました!」「お兄ちゃん、また会おうね!」集落の住民たちは、みるみる小さくなっていく計助たちの背中に感謝を伝えながら、大きく手を振っている。
「べ、べつに、乗りたかったわけじゃないし……飛行魔法使った方が、ぜったい早く王宮着くし……!」
そんな中、クロムは誰にもバレないように目元を拭いつつ、ひっそりと空へ飛び立つのであった。
実験②「魔法を動力源とした現代マシンの開発」<終了>




