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小平次は見た

「小平次じゃねえか。瓢箪先生にご心配かけちゃいけねえよ」


 蕎麦屋さんがあきれます。


「俺っちがいなくて、困ってたかい?」

「いや。ただ、お前がいなくて刷りが止まってるのをいいことに酒飲んでるはずだ」

「そうだろうよ」


 小平次、にやにやします。


「ところで。今の奴はなんだったんだよ。助太刀する間もなく見えなくなっちまって」

「なんだって。お前さん、近くにいたのかい」

「見ていただけかよ。頼りがいがねえなあ」

「言うなよ。荒っぽいことは苦手なんだからよう」


 一日中、目につくものを画帳に書き留めて、挿絵のタネを仕込んでいたのだと威張っております。


「じゃあ、今の賊をごらんになっていたんで?」


 蕎麦屋さんと権兵衛さんを介抱していた、見れば小柄な男が目を丸くしています。


「ちょいと暗くてよくは見えなかったがね。たしかに『もじゃもじゃもじゃもじゃ』言っているのは聞こえたよ」

「もじゃもじゃ組ねえ」


 何者だというのでしょう。


「こんな風に見えたぜ」


 小平次は画帳を開き、さらさらと人相を描きだします。


「ううむ」


 見上げるような大きな体。黒いもじゃもじゃの中に、ぎらぎらした目玉がある。

 大きな口に蕎麦を次々に放り込み、たちまち平らげたらしい。


「人間とも思えねえ風体だなあ」

「頭のてっぺんからつま先までもじゃもじゃたあ、どういうこった」

「こりゃあ、いけないな」


 小柄な男が腕を組みます。


「これは、人間さまの手には余るやつかもしれません」

「なんだなんだ、物騒なことを言い出すなあ」


 介抱してくれた恩人が不穏なことを言い出すので、権兵衛さんが驚きます。


「こんな奴が往来をうろついていたらいけない。あたしの顔見知りに声をかけて見ましょう」


 男は三人を引き連れてどこへ向かったかと申しますと、


 ありゃ、瓢箪先生のお宅ではありませんか。

 縁側で気持ちよく伸びております。


「これ、タヌ吉郎」


 男は、勘吉郎を起こします。


「あっ。キヌタ様」


 驚いた拍子に、耳としっぽが出ました。


「なんだ?」


 蕎麦屋さんと権兵衛さんが驚きます。

 小平次は驚きません。


「あははは、寝ぼけてやがる」

「小平次さん」


 しゅっと、耳としっぽをしまいます。


「どこに行っていたんですか。おかげで親方にびくびくしなきゃならない」

「それより、こちらのお方がご用だとさ」

「タヌ吉郎」


 勘吉郎を、タヌ吉郎と呼ぶこの男、キヌタ様と呼ばれております。


「〈もじゃもじゃ組〉が悪さをしたのです」

「なんですって」


 男の姿が少しずつ変わってまいります。

 声も少しずつ、違ってまいります。


「お前は修業中の身。しかし、我らの掟では、修業中の恩人を守ることが何よりも一大事」

「はい」


 蕎麦屋さんも権兵衛さんも小平次も、はっと息を飲みました。

 小柄な男の姿はなく、キヌタ様、緑色の着物を着た。堂々とした大奥様の姿です。


「わたくしは、この日ノ本の狸を束ねるキヌタと申すもの。こちらのタヌ吉郎を化け修行に出しておりました。こちらの皆々様にはご親切にしていただき、かたじけのうございます」

「いえいえ」

 

 三人とも、すっかり照れてしまいます。

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