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謎のもじゃもじゃ組

 闇夜です。

 盗賊の手引きが正体をあらわして、むごたらしい仕業を残し、火をつけ立ち去る、それは闇夜に起こります。

 人払いをした屋敷のひと間で、黄金色のものが詰まった箱が、どこぞの偉い方へひそかに受け渡されるのも、闇夜に起こります。


「あッ」


 闇夜に紛れ、何かがすばやく蕎麦の一杯をかすめていきました。


「もじゃもじゃしていやがったぞ!」


 腕に触れたかんじでは、そうでした。


「かわうそか?」


 雨の日に、唐傘の上へずしり、と乗って邪魔をするという、いたずらものですが、いいえ、今宵は星が出ています。


「なんだ? なんだ?」


 蕎麦屋の主人も、蕎麦を作る手を止めます。


「あッ!」


 しかし、こちらもやられました。


「作りかけだぞ!」


 姿を見せない何かが、蕎麦屋をぐるりと取り囲んでいるようでした。


「やい!」


 蕎麦を取られた客、床屋の権兵衛さんが腕をまくります。


「卑怯な真似しやがると、頭を丸めてやるぞ!」

「くすっ」


 ところが、姿を見せないそれは、こんな風に笑うのです。


「くすくすくす」

「くすくすくす」

「われらは、もじゃもじゃ組の者だ」

「なにッ」


『もじゃもじゃ組』と名乗りました。


「もじゃもじゃ組だと?」

「ふふふ。

 もじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃもじゃ」

「やめろ!」


 ずっと聞かされるとは、気味がわるい。


「ふふふ。

 おまえたち、蕎麦を置いていけ」

「なにをッ」


 おだやかではありません。

 蕎麦屋の主人も権兵衛さんも、身構えて声の主を見たのです。


「あっ」


 なんということでしょうか。それきり静かになってしまったのです。


「なんだなんだ」


 暗がりで見ていた誰かがいたようです。


「もしもし、蕎麦屋さん? もし、権兵衛さん?」


 誰かは親切にも飛び出して、しおしおにしおれている蕎麦屋さんと権兵衛さんを介抱します。


「ううむ」


 蕎麦屋さんが目を覚まします。


「ああっ、やられた!」


 支度していた蕎麦がありません。


「ああっ」


 権兵衛さんも目を覚まし、同じことを口惜しがります。


「取られた……」


 ほかの蕎麦も汁も、何もありません。


「あいつは何だったんだ」


 もじゃもじゃもじゃもじゃと唱えていた、あやしいやつ。


「そう、もじゃもじゃ組と名乗っていた」


 もじゃもじゃ組。

 何者なのでしょう。


「ちょいとごめんよ」


 そこに割り込んできた若者がいます。


「一体、あいつは何者だったんで?」


 こんな晩に、絵筆と画帳を持っています。

 瓢箪先生のところの絵師、小平次でした。

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