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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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86話 決着

帝国歴236年4月上旬 帝国南部 モルビアン公領 皇女カトリーヌ


 西から現れたシューネヴァルトの騎馬隊に蹂躙された兄上の軍は、戦場の東に退いていきましたわ。

 東には林があるのですが、驚いたことに林の中から矢の雨が降り注ぎました。

 誰もいないはずの林から射すくめられ、皇子派諸侯軍は激しく動揺し、さらに陣形を乱します。

 林から飛来する矢の精度は高く、次々と兵は倒れて行きましたわ。

 「あれはきっとエルフの弓隊です。娘からの報告によると、エルナ殿が率いるエルフの弓隊は獣人と同じようにリヒト殿の精霊魔法で能力が強化されるようですから、騎馬隊と同じ速度で移動できたのでしょう。」

 まあ、そんなことが。

 ノルトライン卿の話から、いかにリヒトさんが規格外の魔法を使ったのかが分かります。

 逃げた先の林から弓を射られ、後ろから騎馬隊に追われ、ついに兄上の軍は北に向かって潰走を始めました。

 隊列を乱して敗走する敵の背を味方が追撃していきます。

 あれだけ苦戦していたのが嘘のようですわ。

 ここまでシューネヴァルト軍が強いとは想像できませんでしたが、リヒトさんと同盟したことは正しい決断でした。

 多くの兵を死なせずに済み、本当に良かったですわ。

 ようやく肩の荷が降りた思いがいたします。


帝国南部 モルビアン公領 皇子シャルル

 こんなはずでは無かった。

 長年かけて作り上げた精強な北方諸侯軍は、妹の南部諸侯軍を圧倒できるはずだった。

 反対する者には圧倒的な力を示し、私に敵対することの愚を悟らせ、戦うことなく従える予定だった。

 今頃は帝都で戴冠しているはずだったのだが。

 シューネヴァルト辺境伯軍は予想以上に強かった。それは認めざるを得ない。

 獣人は個々に力は強くとも、軍としてまとまって戦うことなどできないと思っていたが。獣人の騎馬隊など冗談だと思っていたが、これほど強いとは。

 ここはいったん退いて、北部で体制を立て直すほかないだろう。

 前方に一軍が現れた。

 あの旗は確か、妻子を人質にすることで中立を宣言させた家のものだが。

 今頃何をしに来たのだろう。

 いぶかしく思った瞬間、前方から矢の雨が降って来た。

 何だと、どういうことだ。

 前方の軍から一騎の騎士が進んできた。

 「そこにおわすのは皇子殿下か。妻子を人質に取られ、心ならずも中立の立場を取らざるを得なかったが、シューネヴァルト辺境伯のお陰で妻子は無事に戻って来た。これまでのうっぷんを晴らさせてもらう。貴方のような卑劣な手段を取る者は皇帝の座に就くべきではない。皆の者、続け!」

 騎士が剣を振り下ろすと、土煙を挙げて騎士隊が突っ込んできた。

 後ろからはシューネヴァルト軍が迫っている。

 …もはや、これまでか。


帝国南部 モルビアン公領 皇女カトリーヌ

 戦いは私たちの勝利に終わりました。

 皇子派諸侯軍は潰走したところを挟撃されて降伏しましたわ。

 シューネヴァルト辺境伯軍が兄上を捕えたという連絡も入りました。

 この勝利はリヒトさんたちのお陰です。


 南部諸侯軍の本陣にリヒトさん、レーナ、グウィネスさん、エルナさんが現れました。

 私の顔を見るやいなや、レーナが走ってきます。

 「良かった、無事なんだな。」

 「お陰で私は無事よ。貴方も元気なようで良かったわ。」

 二人で抱き合った後で、リヒトさんと向かい合います。

 「援軍をありがとうございます。シューネヴァルトの援軍が来なかったら、私たちは敗れていました。兄の軍に勝つことができたのは、貴方たちのお陰ですわ。」

 「どうにか間に合って良かったです。」

 「シューネヴァルトは随分と強くなったのですね。貴方の精霊魔法は規格外ですわ。」

 「戦力が充実したのはみんなのお陰です。私が強力な魔法を使えるのは上位精霊のヤクシニーが力を貸してくれるからです。」

 リヒトさんは謙虚ですが、多くの人の力を結集するのも君主の能力ですわ。


 本陣は勝利に沸き立っています。

 苦戦が続いていただけに、南部の諸侯はみなシューネヴァルト軍を褒めたたえ、中には涙を流しながら感謝する者もいます。

 モルビアン公はリヒトさんに握手を求め、レーナは父の伯爵と再会を喜んでいます。

 私の近くには白銀の髪のエルフがやって来ました。

輝くような美貌はまさしく人外のものですが、エルナさんの面影はあります。

 「エルナさん?それともルクス殿とお呼びしたほうが良いのでしょうか。」

 「エルナでいいわ、いずれ私たちは同じ夫を持つのだから。私もカトリーヌと呼んで良いかしら。」

 「はい、そのように呼んでください。ふふ、私を名前で呼んでくれるのはレーナくらいでしたから。婚約者に加えて友人まで得ることができたみたいで、とても嬉しいですわ。」


―――

 帝国歴236年の春、帝国皇帝の座を巡る争いは皇女カトリーヌの勝利によって幕を閉じる。その勝利の立役者はリヒトであることは衆目の一致するところだった。

 皇女は約束を守り、シューネヴァルトの独立を認める。

 ここにシューネヴァルト王国は復活したのである。

 リヒトは古エルフに加えて古ドワーフからも「辺境の王」として認められ、古代文明の叡智をも引き継ぐ。

 そして、リヒトと皇女カトリーヌの結婚により、シューネヴァルト=フランコルム二重王国と呼ばれる新たな大国が誕生した。

 皇女カトリーヌと時を同じくしてリヒトの妻となったアールヴの王族のルクス、大陸初の魔法精霊騎士マクダレーナ、人狼の族長の娘グウィネスはカトリーヌと共にリヒトを支え、後に四賢姫と称された。

 すべての種族を統べる光の王と称えられたリヒトの治世はここに始まる。

  エスター・クライン著「リヒト戦記」より


どうにか完結しました。なかなか書けない時期もあったのですが。

最後までお付き合い頂いた方たちに感謝します。

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