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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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9話 帝国の騎士

 いつものように鍛錬を終えて、一息つく。

 井戸水に浸した布で顔を拭くと、さっぱりする。

 騎士団に入ってからは毎日、朝食の前に鍛錬を欠かさないようにしている。

 幸いにも努力の結果が出て武芸が上達し、家柄ではなく実力で小隊長になったと自負している。

 子どもの頃は男みたいで可愛くないと言われていたんだが、最近では見た目も少しは女らしくなったらしい。才色兼備の騎士だとか言って寄ってくる者もいるが、あからさまに家柄狙いの者もいて、鬱陶しい。

 昔のことを思い出すと苦笑いが浮かんでくる。


 そういえば、子どもの頃に住んでいた辺境の町で仲良くなったアルは元気だろうか。

 アルノルトは体が弱くて、ときどき同級生の男子に絡まれていた。

 弱い者いじめは嫌いだから絡んでいる連中を止めると、帝国人だからって女のくせに偉そうとか、男みたいで可愛くないなどと言われたものだった。

 私は帝国貴族の娘であることを隠して偽名を使っていたが、帝国から来たことは隠していなかった。

 幼い頃に騎士になると決めていたので、可愛くないと言われても何とも思わなかったが、学校の鞄に付けた兎の飾りが似合わないと同級生たちにからかわれたときは少し傷ついたな。

 そのとき、そんなことは言っちゃいけないと怒ってくれたのは、あの体の弱いアルだった。自分が絡まれたときは困ったような顔をするだけで、あまり怒らないのに。

 いつもと違って静かな迫力を見せたアルに気圧けおされたのか、私をからかった連中は去って行った。

 「あいつらの言うことなんか気にする必要ない。その飾りはよく似合っているよ」という彼の言葉はよく覚えている。なぜだか頬が熱くなったような変な気がしたことも。

 それからアルと仲良くなり、よく話すようになった。

 アルは歴史や地理の知識が豊富で、貴族としての教育を受けた私が驚くこともあった。

 アルには華奢なのに喧嘩の強い妹がいて、「お兄ちゃんは私が守るから、あんたは余計なことはしなくて良い」と最初は言われたが、そのうちに打ち解けたのも良い思い出だ。

 やがて父が帝国に戻ることになり、アルノルトとエルナの兄妹に別れを告げた。

 アルとは普通に別れを惜しんだが、エルナは「もう二度と来るな」と言いながらも涙を浮かべたので、思わず抱き締めてしまった。彼女は素直じゃないが、情は厚い。小さな声で「寂しくなるよ。元気でね」と言ってくれたので、私も目が潤んでしまった。

 帝都からは遠方の辺境の地に行く機会はそうそうない。それに私には簡単に戻れない事情もあった。

 だから、さよならを言うときにまた会いましょう(ヴィーダーゼーエン)と言えなくてすべてが良いように(アレスグーテ)と言ったとき、自分で思っていた以上に別れがつらいことに気が付いた。


 帝国に戻ってからも、あの辺境の元王国のことは気になっている。

 今の領主は重い税を課し、帝国人を理不尽に優遇し、獣人たちを迫害しているらしい。

 同級生には獣人もいて、親しく話をするようになった子もいた。

 だから獣人を差別する者たちの言葉は信じられない。ろくに獣人のことを知りもしないで、勝手なことを言っている連中だ。

 帝国貴族の娘としてではなく普通の家庭の子として学校に通わせてくれた父には感謝している。

 おかげで獣人とも親しくなって偏見を持つことはなかったし、帝国の民も王国の民も変わらないことを実感できた。

 今の領主の悪い噂を聞くにつけ、仲良くなった兄妹はどうしているか気になる。

 彼らの父親は腕の良い職人だと聞いていたから、領主が悪政を敷いても仕事がなくなることはないと思うが。

 体の弱いアルは、元気になって妹を守れるようになりたいんだと言っていた。少しは体が丈夫になっただろうか。

 妖精みたいに綺麗なエルナは、領主に目を付けられたりしていないだろうか。

 彼らが元気でいてくれるといいんだが。 


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