85話 決戦②援軍の到来
帝国歴236年4月上旬 帝国南部 モルビアン公領 皇女カトリーヌ
空に点のように見えた鳥は少しずつ大きくなり、次第に鷹の姿になっていきました。
鷹は一声鳴くと、ノルトライン伯の肩に停まりました。
「おお、黄薔薇ではないか。」
伯爵は鷹の足についていた紙縒りを解き、一読するとぱっと顔を上げました。
「殿下、娘たちはもうじきここに来ますぞ!」
「本当か、一体どうやってこんなに早く。」
「モルビアン公、どうやらシューネヴァルト辺境伯の諜報部隊がここに来るまでの最短経路を事前に調べていたようです。さらに辺境伯は獣人の部隊全体に精霊魔法をかけて能力を上げることができるようです。」
「何と、精霊魔法はそんなこともできるのですか。」
「ええ、アントルム候。リヒト殿が得た能力は常識外のようです。彼の魔法で獣人の歩兵は馬と同じくらい速く進めるようになり、騎馬隊は獣人の歩兵隊から補給を受けられるので高速の進軍を続けられたようです。シューネヴァルトの騎馬隊と獣人の歩兵部隊はもう近くまで来ているようです。」
どうにか間に合ってくれました。
私は思わず跪き、天に感謝の祈りを捧げました。
本陣は沸き返っています。モルビアン公は「儂が前線に行く。あと少しなのだ、死力を尽くすよう励ましてくる」と言って、飛び出していきました。
優しくても優柔不断であると言われていた叔父上は、すっかり逞しくなられた印象です。
しばらくして、西の方に砂塵が見えました。
地鳴りのような騎馬の足音も聞こえてきます。
砂塵の中から大きな炎の玉が飛び出し、敵軍に向かって行きました。
敵の中で轟音と共に大爆発が起こり、敵も味方も驚いています。
あんな威力の魔法は見たことがありませんわ。
「実は娘は精霊魔法師としても覚醒したようです。古代魔法に加えて炎の精霊魔法も使えるようになったことで炎の魔法の威力が上がったようなのです。」
近くにいたノルトライン伯が教えてくれました。
リヒトさんは常識外の力を得たようですが、どうやらレーナも常識外の存在になったようですわ。
やがて砂塵の中から騎馬隊が現れ、シューネヴァルトの旗が翻りました。
騎馬隊からは炎や風、水や土など色とりどりの魔法が放たれます。皇子派諸侯軍からも古代魔法が飛びますが、騎馬隊の魔法のほうが押している印象です。
騎馬隊と皇子派諸侯軍の距離が縮まり、白兵戦が始まりました。
騎馬隊の中から赤い鎧の騎士がまた大きな炎の玉を撃ち、皇子派諸侯軍の重装歩兵隊に穴を開けていますわ。
少し離れたところでは大きな風の刃が吹き荒れて、重装歩兵を吹き飛ばしています。
赤い鎧の騎士はレーナでしょうが、あの強力な風の魔法を使う騎士は誰でしょう?
風の魔法を放つ騎士の率いる部隊は皇子派諸侯軍に取りつくと、蹂躙していきます。
兄上の軍の厄介なところは古代魔法師が多いことに加えて歩兵の練度も高いことですわ。相当前から武力で帝国を奪うつもりで私兵を養っていたのだと思われました。
味方の南部諸侯軍は兵の練度で劣るため、地の利を生かして守ることしかできませんでしたの。
それをまるでバターをナイフで切るように圧倒していく騎馬隊とは。
「あれはきっと人狼騎士でしょう。魔法師の部隊を除けば、戦闘力は帝国一だと噂されています。」
アントルム候が教えてくれました。
成程、あれが獣人最強の名が高い人狼騎士ですか。私とリヒトさんが掲げる多種族共生の理念が持つ力を示してくれる方たちですわね。
そうしますと風の魔法を放ったのはグウィネスさんですか。
最近になって風の精霊魔法に覚醒したとレーナから聞いていましたが、熟練の古代魔法師よりも魔法の威力は強そうです。
レーナといい、リヒトさんの妻になる方たちは規格外の力を持っているのですね。正体はアールヴの王族だったエルナさんも秀でた弓の射手だと聞いています。
これでは私だけ弱いのですね。時間ができたら剣や魔法の訓練をしませんと。
人狼騎士とレーナの率いる元帝国騎士団に蹂躙された兄上の軍は持ちこたえられずに退いていきました。




