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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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84話 決戦①皇女派の苦闘

帝国歴236年4月上旬 帝国南部 モルビアン公領 皇女カトリーヌ

 リヒト殿から承諾の旨を伝える使者が来ました。

 同意してもらえるだろうとは思っていましたが、ほっとしました。

 シューネヴァルトの独立を認めることに不満のありそうだった者たちも、シューネヴァルトから大規模な援軍が来ることに加え、リヒト辺境伯の策によって北部の皇子派諸侯の軍船が川を下り始めたことで納得をしたようですわ。

 南方諸島の方たちは帝国のことは信じられないもののリヒト殿なら手を組めると考えているようです。彼らの力を借りるためにもシューネヴァルトに独立してもらう必要がありました。

 レーナからの私信も来ました。戸惑いながらも、共にリヒトさんの妻になることの喜びが記されていました。ええ、皆で幸せになりましょう。


 今日も朝から激しい戦いが続いています。

 「シューネヴァルトからの援軍が来るまで持ちこたえるのだ。踏ん張れ。」

 モルビアン公が伝令に檄を飛ばしています。

 疲れた様子の伝令は頷いて退出しましたが、味方は押されているようです。

 「状況は厳しいのですか。」

 隣にいるアントルム侯に尋ねると、侯爵は厳しい表情で答えました。

 「はい、残念ながら。シャルル皇子の軍はこれまで損害をあまり出さないように戦っておりましたが、このところ、損害が出てもとにかく前に出てきます。」

 なるほど。シューネヴァルトからの援軍が来ることは兄上も知っているでしょうから、その前にケリをつけるつもりなのですね。

 どうやらここが正念場のようですわ。

 「私も前線に参ります。」

 「姫様、危険です。」

 モルビアン公たちは止めますが、後方にいても私は何の役に立てません。

 「リヒト殿たちが来るまで持ちこたえられるかどうか、今がこの戦いの分かれ目です。私に戦う力はなくとも、前線に出て将兵を励ますことに意味はあると信じます。」

 強く言うと、皆も分かってくれました。


 前線に向かうと、近くまで敵の魔法攻撃が届いていました。

 大きな音を立てて火弾や風弾がさく裂します。

 前線の将校に声をかけると、まず私の姿に驚き、それから疲れた顔に喜色が浮かびました。

 「おい、お前ら、皇女殿下が励ましに来てくださったぞ!」

 煤にまみれた兵士たちも歓声を上げて応えてくれました。

 侍女たちに持たせた飲み物や携帯食を配ると、次の部隊に向かいます。

 

 モルビアン公の城に戻る頃には、夕暮れになっていました。

 城の近くの丘に設けている本陣からノルトライン伯も戻ってきて、モルビアン公とアントルム侯と一緒に状況を確認します。

 「今日はどうにか凌ぎましたが、長くは持ちませんな。」

 ノルトライン伯は淡々と深刻な認識を語りました。

 「これまで皇子派諸侯軍は損害を出さないようにしていましたが、今は犠牲を厭わず力押しをしてきています。」

 「シューネヴァルトからの援軍はいつ来るのでしょうか。」

 アントルム侯の疑問にモルビアン公が重々しく答えます。

 「うむ。急いだとしても一週間はかかるであろう。援軍がグリューネブルクを発ったのは四日前のようだ。あと三日はかかる。」

 「もしもの場合は、私が何とか敵を食い止めますので、殿下はモルビアン公とアントルム候と共にシューネヴァルトとの合流を図ってください。」

 「何を言うか、ノルトライン伯。自分の領土を捨てて逃げるなど先祖に顔向けができぬ。貴公が殿下をお連れしてシューネヴァルトに向かってくれ。」

 「お二人とも、指揮官が負けることを考えていては兵も浮足立ちます。何とかあと3日、敵を食い止めることを考えてください。」

 アントルム候に窘められて、二人とも苦笑いを浮かべました。

 人は窮地に立ったときに本性が出るものです。自分の保身をまったく考えないモルビアン公もノルトライン伯も、得難い人物だということを再確認しましたわ。

 何とか皆が無事にこの戦いを乗り切れると良いのですが。


 翌朝、敵の攻勢は一段と激しくなりました。

 血まみれの伝令が本陣に駆け込んで来ました。

 報告を聞いたモルビアン公が血相を変えています。

 「何、あの砦が落ちたのか。」

 嗚呼、思わず天を見上げます。

 レーナやリヒトさんたちの来る前に負けてしまうのでしょうか。

 そのとき、私の視界に一羽の鳥が飛び込んできました。



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