83話 皇子の誤算と決意
帝国歴236年4月上旬 帝国南部 皇子シャルル
春になり、北部諸侯の軍は集まりつつある。軍船も川を遡上しつつあるはずだ。
もうじき総攻撃をかける準備が整う。
我らは長い時間をかけて戦力を養ってきたのだ。妹がシューネヴァルトの独立を認めて同盟を結び、リヒト辺境伯との婚約を発表したのには驚いたが、シューネヴァルトから援軍が来る前に打ち破ってくれる。
そう思っていると、血相を変えた伝令が駆け込んできた。
「申し上げます。北部諸侯の港が襲撃を受けた模様。帰る港がなくなっては困ると、軍船は川を下りつつあります。」
何だと。古代魔法とあわせて軍船から砲撃をすることで敵軍を一気に打ち破るつもりだったのだ。
冬の間に船を持つ諸侯に働きかけ、戦後の恩賞を約束して、ようやく体制が整ったところだったのだが。
「一体誰が北部の港を襲っているのだ。妹についた諸侯の軍は陸軍中心だ。シューネヴァルト辺境伯も軍船をいくつか持っているが、北部に大規模な襲撃をかけるなどできるはずがない。」
「襲撃者は不明とのことでございます。殿下のおっしゃるとおりですので、北部諸侯も驚いているようでございます。」
まさか東方の遊牧民が船を持つ民族を従えたのか。いや、彼らならご自慢の騎馬隊で攻め込んでくるはず。
一体どの国の仕業だ?
帝国歴236年4月上旬 帝国北部 皇子派の港の近く キアヌ・カイラニ王子
炎上する港を横目にして、俺たちは次の目標に向かっている。
リヒトから使者が来て、南部の皇子派軍を叩くので北部の港を襲撃してほしいと頼まれた。使者からリヒトが皇女カトリーヌと婚約したと聞いたときには驚いたが、シューネヴァルトが独立するのは嬉しい知らせだったな。
俺たちは帝国を信じることはできないが、リヒトとは組める。
以前に帝国と事を構えるなら手伝うと約束したしな。どうやら北部の連中の軍船は南部の戦場に向けて川を遡っているらしい。軍船のいない港を襲撃するのはお安い御用だ。
帝国の動乱に介入ができるかもしれないとシューネヴァルトに艦隊を配置しておいたのが生きたな。出番が無かったので俺たちのことを忘れていたかもしれないが。
それにしてもリヒトは帝国皇女を娶るのか。政略結婚というのは理解できるが、奴さんの周囲にいる綺麗だが怖い姉ちゃんたちの顔が浮かんだ。みんなあいつに惚れてたからな。これは刺されるかもしれんな。
だが、使者によると、皇女と同時にあの姉ちゃんたちとも婚約するらしい。
どうやら奴に線香を上げずに済むようだ。友達には長生きしてほしいからな。ほっとしたぜ。
「若、次の港が見えてきました。」
「おう、皆に戦の支度だと伝えろ。」
偉そうに高い関税をふんだくっていた北部諸侯に一泡吹かせてやろう。海の支配者は帝国じゃなく俺たちだ。
帝国歴236年4月上旬 帝国南部 皇子シャルル
「殿下、どうなさいますか。」
しばらく考え込んでいると、軍務卿のイル・レンヌ公爵が聞いてきた。
うむ、誰が襲撃者なのか分からぬが、軍船の支援がなくなったことを嘆いていても仕方ない。
「今さら退くことはできぬ。あまりに時間をかけると騎士団がどう動くか分からぬ。」
帝国騎士団は皇族同士の争いには関与せず、中立を守ってきた。
だが、私が古代魔法師を軍に渡さずに集めてきたこと、さらにシューネヴァルトを騙し討ちにしたことを妹が発表したことから、騎士団は動揺しているようだ。
もちろんこちらからは否定してみせたが、妹の言っていることは事実だ。
帝国を改革するために必要なことだったが、このタイミングで公表されたことは痛い。
「もともと古代魔法師の数ではこちらが優勢だ。諸外国のことも考えて被害を少なくして勝つことを考えてきたが、多少の損害には目を瞑り、一気に攻め倒そう。」
「御意。」
イル・レンヌ公爵が頷き、他の者たちも立ち上がった。




