82話 シューネヴァルト辺境伯軍、再始動
帝国歴236年3月下旬 グリューネブルク リヒト・フォン・シューネヴァルト
内輪の話し合いを終えて、僕らの結論をトリーア卿やメールス卿、族長さんたちに伝えた。
皇女の提案を受け入れると話すと、みんなが祝福してくれた。
「おめでとうございます。皇女殿下との婚約には驚きましたが、エルナ様、マクダレーナ様、グウィネス隊長については、いつかこうなると良いなと思っておりましたよ。」
トリーア卿は満面の笑みだった。
「エルナ様はエルフの古代種族であるアールヴの王族と聞いております。伝説の種族であるアールヴとの絆が強まることでシューネヴァルトの名が高まりましょう。
マクダレーナ様は皇女派の帝国貴族の重臣であるノルトライン卿の御息女であるのみならず、帝国騎士団でも高名だった赤の騎士。未だ旗幟を鮮明にしていない帝国騎士団の動向にも好影響を及ぼすでしょう。
グウィネス殿は狼人族の族長の御息女ですから、この婚約はシューネヴァルト家と獣人たちをより強く結びつけるでしょう。
当家の外交を担当する者として、お三方との婚約は非常に歓迎すべき慶事です。」
それから、トリーア卿は穏やかな笑顔を浮かべた。
「なお喜ばしいのは、政略結婚としても意義の深い婚約ですが、お三方が殿下のことを本当に想っておられて、共に戦って来られた仲間であることです。
ずっと傍らで見て参りましたが、いずれも殿下にお似合いの女性です。殿下に蜂起の旗頭となることをお願いしてから、困難な時期もありましたが、今日は一番嬉しい日でございます。」
目頭を押さえるトリーア卿に続いて、騎士団長のメールス卿も祝ってくれた。
「これで我が騎士団は盛り上がるでしょう。人狼族をはじめとして騎士は皆、グウィネスの気持ちを知って応援していましたから。むしろ他の女性とだけ婚約されたら不満に思ったでしょうね。」
そうなのか。グウィネスとは良い信頼関係を築いているとは思っていたけど、結婚を望んでくれているとは気づかなかったのに、騎士たちがそんなふうに思っていたとは。
彼女は狼人族の姫だが、卓越した身体能力でアクロバティックな動きを見せることから「グウィネスサーカス」と呼ばれ、戦場の華と呼ぶべき存在だ。種族を超えて騎士団で人気がある。
婚約の選択肢を間違えると騎士団に不満が溜まっていたかもしれないと思うと背中が寒くなるな。
族長のグウィン殿は感慨深そうだった。
「娘を頼みますぞ。ああ、グウィネスがリヒト殿の嫁になるとは。これで獣人族を馬鹿にする者も減るでしょう。」
今回の婚約は政略の面でも意味が大きい。皇女殿下が正妻となるのは避けられないが、三人と話した結果、エルナもレーナもグウィネスも同格の側妃とすることにした。
帝国貴族の令嬢であるレーナと亜人、獣人を同格とすることは種族差別を否定する明確なメッセージになる。
皇女殿下がシューネヴァルトの独立を認めてくれること、さらに皇女殿下とエルナ、レーナ、グウィネスと婚約することを発表するとシューネヴァルト領内は沸き返った。
「ついにシューネヴァルトが独立を回復するのですな。某の目の黒いうちにシューネヴァルト王国が蘇るとは。」
以前のシューネヴァルト王国をよく知る元王国騎士のアルトドルファーは涙を流して喜んでくれた。
皇女救援に批判的だった獣人の世論も変わった。
皇女殿下がグウィネスを側妃にすることを提案したことで、獣人差別主義者の兄とは違うことが明らかにななった。
「わしら獣人を差別しないカトリーヌ殿下を見殺しにはできん」という声も街で聞かれる。
もう援軍に行くことに反対する者はいない。
種族や立場を超えて、シューネヴァルトは一つにまとまった。
あとはきちんと皇子派に勝つための準備だ。
シャッテンから現地の状況を改めて聞いて戦況を確認する。諜報部隊は見えないところで活躍してくれている。
補給物資は、ジョバンニたちが有事に備えて備蓄してくれていたので、すぐに揃った。
戦いは前線だけで行われるわけじゃないことを改めて感じるな。みんなが支えてくれるから僕らは戦うことができる。
皇子派諸侯の軍船にも手を打った。
さあ、出陣だ。
随分間が空いてしまい、すみません。何とかお盆に時間がつくれました。




