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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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79話 膠着した状況

帝国歴226年3月 シューネヴァルト辺境伯領 領都グリューネブルク リヒト・フォン・シューネヴァルト


 ブレイザー伯に勝利してから季節は巡り、また春が巡って来た。樹々の新芽は芽吹き、草原には花が咲いた。

 この間、シューネヴァルト辺境伯領はいろいろと大忙しだった。

 新たに領地となったバダノッホには辺境伯政府の出先機関を置き、武官のトップには騎士隊長のグラットバッハ、文官のトップにはアダムズ護民官の補佐をしていたバーネットを任命した。

 このほか、皇女に領有を認めてもらった中小の皇子派貴族領にも代官を任命した。中でも獣人が比較的多く住む地域を二つ選び、狼人族と狐人族から一人ずつ代官を任命した。獣人が代官になるなんて、これまでの帝国では考えられないことだけど、帝国西部の統治を担う立場になったことで実現できた。

 騎士団は死者こそ少なかったものの負傷者は多かったので、戦力が回復するまでには時間がかかった。

 亡くなった兵士たちの遺族には一時金だけではなく年金も支給した。帝国の貴族領では戦死者の遺族に一時金が支給されれば良いほうで、遺族年金を出す貴族などいなかったが、一家の生計の柱が戦争で亡くなり、その家族が路頭に迷うことは避けたかった。

 そして、戦死者の葬儀はできるだけ大規模な式典にした。この土地を護るために亡くなった人たちの功績を多くの人に知ってもらうためだ。

 それでも死んだ者は帰って来ない。

 戦場で散ったグウィネスの従兄弟を埋葬するために狼人族の伝統による葬儀が、辺境伯領としての式典とは別に行われたとき、僕も参列させてもらった。

 皇子派との戦いはシューネヴァルトを侵略者から守るための戦いであり、狼人族たちにとっては獣人を不当に差別してきた皇子派貴族たちから誇りを守るための戦いでもあった。だから族長のグウィン殿をはじめとして葬儀で挨拶をした者はみな、名誉の戦死であると述べた。

 それでも、奥さんと子供たちがこらえきれずに零した涙のことは、忘れられそうにない。いや、忘れてはいけないんだろう。

 今の状況では、戦わなくてはいけないときは確かにある。でも、愛する夫を亡くし、大切なお父さんを失った子どもたちの悲しみは領主として受け止めないといけないんだと思う。


 帝国中央の状況は膠着していた。

 皇女派は皇子派の南部への侵攻は食い止めたが、押し返すには至らない。

 冬になり、それぞれある程度の兵を前線に残して主力は引き上げた。

 春を迎えて、小麦の種蒔きも終わり、それぞれまた兵を集めつつあったが、小競り合いはあるものの、互いに大きな勝利は得られない。

 皇子派は古代魔法師を多く擁しているが、陣地を築いて守る皇女派を崩すほどの戦力差はない。

 そして、両軍が睨みあっているうちにいろいろな動きも生じている。

 没した皇帝は領地を拡大していたが、帝国の内紛を機に独立を宣言する地域も出てきた。

 どうやら帝国に隣接する国が後ろ盾になっているらしい。

 実はシューネヴァルトにも、強大な騎馬の軍を有する遊牧民の国と、教会が統治する大国から誘いが来ていた。

 皇女殿下とは信頼関係があるし、外国の力を借りると後が大変なので、丁重に断った。

 だが、皇女派貴族としては中央に援軍を出したいところだが、それも簡単じゃなかった。

 西部は安定しつつあったが、皇子派貴族の残党がまだ潜伏しているし、野盗が出る地域もあり、全軍を率いて援軍に行けるような状況ではない。

 何より、自分たちの土地を護るためならともかく、他所で戦争をして領民の犠牲を出すことは避けたい。

職業兵士は養成しつつあるものの、まだ十分な数じゃない。中途半端な兵数で援軍に行っても効果は薄い。

 そして、多種族・他民族の共生を唱える皇女殿下の考えは領内で広めるようにしているけれども、亜人や獣人、旧王国関係者の帝国を恨む気持ちは根強い。

 帝国の内戦を機に独立してしまえという声はシューネヴァルトではよく聞かれる。

 どうしたものかと思っていたところ、シャッテンから重要な報告が二つあった。

 一つは良いもので、もう一つは悪いものだった。

 悪い報告は皇子軍の新たな動きに関するもので、放置していると膠着状況が崩れ、皇女軍が敗れてしまうおそれがあるものだった。

 良い知らせは、猫人族の諜報部隊が動けば、皇女軍の巻き返しにつながるというものだった。

 しばらく考えた末に、僕は皇女殿下に一つの提案をすることにした。

 殿下は怒るだろうか?少なくとも周囲の貴族の反感は買うだろうな。

 僕の考えを話すと、エルナもレーナも考え込んだし、トリーア卿は唸りながら宙を見上げた。

 もし皇女軍が負けてしまうと、皇子軍の本隊が西部に攻め込んでくる。上級精霊魔法があっても勝てるとは限らない。

 一方、帝国を恨む領民たちに援軍を出すことを納得してもらう必要もある。

 みんなも最後には僕の判断に委ねるしかないと言った。

 殿下なら理解してくれると思い、僕は賭けに出ることにした。


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