78話 諸勢力の動向
帝国歴225年9月中旬 帝国南部 皇子シャルル
「何だと!ブレイザーが負けただと。」
西部に大軍を率いて向かったブレイザーから連絡が途絶え、どうしたことかと思っていたところ、かなり時間が経ってからようやく状況が掴めた。
多数の古代魔法師を擁したブレイザーが負けたのは、辺境伯が不思議な魔法を使い、エルフ族の弓兵たちが援軍に来たからだと報告があった。
「辺境の王など、戯言だと思っていたが。」
十分に準備をして戦を始めたはずだったのだが。後顧の憂いを絶って妹の軍の撃破に全力を集中するはずが、これでは兵数の優位も失われ、西部も気にしながら戦わなければならない。
「ブレイザーの軍がおらずとも、我が軍のほうが優勢でございます。」
唇を噛み締めていると、イル・レンヌ公爵が声をかけてきた。
そうだな。しかし、圧倒するほどでもない。
厄介なことになった。
帝国歴225年9月下旬 モルビアン公領 皇女カトリーヌ
シューネヴァルト辺境伯の使者としてシルティハイム殿がやって来ました。
兄上の軍と対峙していて、包囲されたわけではありませんが、私に会いに来るのは簡単ではなかったはずです。
隠密行動に長けた猫人族の部隊に護られながら来たそうですが、リヒト殿は本当に様々な種族の力を得ていますわね。
シルティハイム殿は才媛として知られていましたが、帝国の中央では力を発揮しきれないでいると聞いていました。
今ではシューネヴァルトでトリーア卿を補佐して力を発揮しているようです。リヒト殿の周囲には人族の人材も集まってきているのですね。
シルティハイム殿は西部の戦いについて詳しい状況を教えてくれました。
「何と、それではシューネヴァルト辺境伯はエルフ族に辺境の王として認められたのか?」
説明の途中でモルビアン公が驚きの声をあげました。
かつて大陸西部に、人族だけではなくエルフ族やドワーフ族にも王と認められる英雄が現れた。英雄は大陸に平和をもたらし、亜人や獣人が多く暮らす辺境の地に居を構えたことから、辺境の王と呼ばれた。
おとぎ話だと思っていましたが、どうやら本当のことだったのですね。
ですが、これで皇子派の大軍を破ることができた理由が分かりましたわ。
リヒト殿が森の上位精霊の加護を受けて強力な魔法が使えるようになり、さらにエルフの弓隊が援軍として協力したからこそ、古代魔法師を多く擁する大軍を退けることができたのですね。
シルティハイム殿は、辺境伯の軍はバダノッホに進駐し、ブレイザー伯と共にシューネヴァルトに侵攻した皇子派貴族たちの所領の接収を進めていることを報告してくれました。これは兄の陣営には大きな打撃になります。
私からはシルティハイム殿が戦場まで使者として来てくれたことを労い、辺境伯には援軍を出せなかったにも関わらず大軍を破ったことへの感謝を伝えるように頼みました。
南部の貴族の中には、すぐ援軍に来てほしいなどと言う人もいますが、大軍との厳しい戦いを終えたばかりの辺境伯に援軍を頼むなど厚顔無恥というべきでしょう。むしろ、これだけ大きな武勲を挙げた辺境伯に与える恩賞がないことが問題ですわ。そのうえ援軍にまで来てもらったら、どう遇するつもりなのでしょう。
南方諸島 キアヌ・カイラニ
「ほう。するとリヒトはブレイザー伯を破ったのか。」
最近帝国に行ってきた商船の船長から状況を聞くと、シューネヴァルト辺境伯リヒトは多くの古代魔法師を擁する皇子派の大軍を破ったらしい。
さすが俺の親友だな。
これで帝国人至上主義者の連中の勢いは弱まるだろう。
だが、帝国南部では依然として皇子派と皇女派の大軍がにらみ合っているらしい。
リヒトもすぐには動けないだろう。
船長によれば、帝国に征服された土地では独立派の行動が活発になっているようだ。
死んだ皇帝は強引に領土を拡大したからな。帝国に揺らぎが生じれば、当然そうなるだろうな。
さて、俺たちはどう動くべきかな?
何かあったら即応できるよう、リューベック港に数隻の軍船を送っておくか。




