77話 戦勝の祝い
帝国歴225年9月中旬 シューネヴァルト辺境伯領 領都グリューネブルク リヒト・フォン・シューネヴァルト
グリューネブルクに凱旋すると、街の人たちは歓迎してくれた。
出陣するときは悲壮な覚悟を決めていた兵士たちも、みんな笑顔で行進している。
辺境伯軍に加えて、共に戦ってくれた貴族軍、元帝国騎士団シューネヴァルト分隊の騎士たち、さらにエルフの弓隊も同行してくれた。
人間も亜人も獣人も肩を並べて戦った。
出陣式を行った広場では、種族を越えて肩を叩きあったり、握手をしたり、喜びを共有している。
広場の中心に着くと、僕らは戦勝を宣言した。
「皇子派の大軍は討った!シューネヴァルトは護られた!」
大歓声が上がる。
「前領主の悪行に目を瞑り、この地の住民の嘆願書を握りつぶそうとした前軍務卿代理のブレイザー伯も討ち取った!」
ブレイザー伯を討ったことはエルナから教えてもらった。何かと因縁のある有能な敵がいなくなったことは大きい。
エルナにまずは感謝を述べてから、敵地に一人で潜入するような危ないことはしないでほしいと言ったら、 「分かっているわ。でもそんな優しい兄さんだから、みんな命をかけるのよ」と微笑まれた。
そういえば、エルナは実はエルフだと正体を明かしてから、少年のようだった言葉遣いが女性らしくなった。エルフは全体に美形だが、アールヴであるエルナは神秘的とさえ思える美貌だし、何だか落ち着かない気分になる。
ただし、これからはルクス殿と呼んだほうが良いかと聞いたら「これまでどおりエルナと呼ばないと怒るわよ」と言われた。どうして怒るんだろうか。相変わらず僕は女性の気持ちは分からないようだ。
広場で戦勝を宣言した後で、これからのことも話した。
「ペリグー公爵からは、西部の民を安んじてほしいとのお言葉を頂いた。これから帝国西部を中心になって治めるのはシューネヴァルトだ。西部の皇子派貴族たちは壊滅した。もう周囲に敵はいない!」
再び歓声が上がる。獣人の中には「これで安心して暮らせる」と涙を流す者もいる。
「戦場では人族も亜人も獣人も手を取り合って戦った。種族が違っても、民族が違ってもみんな仲間だ!」
一段と大きな歓声が上がった。
やがて誰かが楽器を持ち込み、踊り始めた。
人族の曲、鬼人族の曲、狼人族の曲、狐人族の曲、いろんな民族の曲があちこちで奏でられている。
広場の隅ではエルフの古い曲の演奏が始まった。どうやら公爵領の舞踏会で演奏された曲だ。
僕はエルナに誘われて踊り始める。やがてレーナも来た。
「私も覚えたんだよ。踊ってくれるかな。」
もちろんと答えてレーナと踊った。さらにグウィネスも来たので踊った。
そのうち族長さんたちもやってきて、みんなが踊り始めた。
戦勝のセレモニーが終わり、共に戦ってくれた貴族軍とエルフたちを見送ると、久しぶりに家に戻った。
義妹と幼馴染と一緒に居間で紅茶を飲む。
「ふう、やっぱり家が落ち着くわね。」
「そうだな。私にとっても、もうここは家のようなものだ。帝国騎士団とは縁を切ったからな。ここが私の帰る場所だ。」
「二人には本当に感謝しているよ。僕一人ならこの家に無事に戻ってくることはできなかった。」
「兄さんはよく頑張ったわ。森の上級精霊魔法を使えるようになったことは戦局を転換させた。それに、辺境の王にもなったのよ。」
「ああ、アルはよくやった。あの大軍をこんなに一方的に破ることができるとは思ってもいなかった。そのことは誇っていい。」
「二人とも、ありがとう。」
それから、昔の話をしたり、とりとめのない話をしたり、僕らは久しぶりに穏やかな時間を過ごした。冗談を言って笑ったのはいつ以来だろう。
まだ、これですべてが終わったわけじゃない。
帝国の中央では皇子派と皇女派の大軍が対峙している。
ブレイザー伯との戦いは激しくて、幸いなことに命を落とす者は少なかったが、負傷者は多くいる。
占領したバダノッホをはじめ、接収した皇子派貴族の領地を安定させる必要もある。
まだまだ悩みは尽きないけど、今日くらいはゆっくりしてもバチは当たらないだろう。
誤字をご指摘頂き、大変ありがとうございます。同じ間違いが多くあり、汗顔の至りです。




