8話 王国の旧臣たち
メールス卿と会ってからしばらくして、グリューネヴァルトの街はずれにある古い一軒家で、王国の旧臣たちと会うことになった。
人目につかないように三々五々集まってきた旧臣たちで家の広間はいっぱいになっている。
トリーア卿に向かって、年配の男性が疑問の声を上げた。
「重大な話があるとのことだったが、一体何の話であろうか。我ら王国の旧臣が密かに集まったと知れると、領主に捕えられるおそれもある。」
「分かっておる。本当に重大な話なのじゃ。今日は、ある御方を皆に紹介するために集まってもらった。」
そろそろかな。僕は隣の部屋から旧臣たちの前に歩み出る。
旧臣たちはざわめいた。「この少年は誰だ」と言う声も聞こえる。
「皆、国王陛下にお世継ぎが生まれていたことは知っておろう。帝国に王宮が襲撃されたとき、行方不明になったとされておった。実は、陛下に命じられて儂が密かに王宮からお連れ申し上げ、出自を隠して暮らして頂いていたのだ。」
トリーア卿は厳かに述べた。
「このお方こそ、先王陛下の忘れ形見であるリヒト・フォン・シューネヴァルト殿下である。」
「何と、殿下は生きておられたのか。」
喜んでくれる者もいた。一方、いぶかしそうな顔をする者もいる。
無理もない。国が滅んでから10年以上経って、急に王子が生きていると言われたら、本物かどうか疑うのは自然な反応だろう。
「これまで隠していたことを深くお詫びする。帝国に決して知られぬよう、味方であるそなたらにも明かすことができなかったのだ。」
トリーア卿は旧臣たちに頭を下げてから、僕のほうに向きなおった。
「殿下、皆にお言葉を頂戴できましょうか。」
「皆、よく集まってくれた。王国が帝国に滅ぼされてからもう12年経つ。それでもなお王国に心を寄せてくれていることに深く感謝する。」
もったいないお言葉だと言ってくれる者もいるが、微妙な表情の者もいる。
「王子が生きていたと聞いて、喜んでくれる者もいるが、本物かと疑問に思う者もいるだろう。それも無理のないことだ。私はつい最近まで、まちの少年として育った。
急にトリーア卿から王子だと言われて、間違いではないかと私自身が思ったものだ。だが、どうやら私は王家の血を引いているらしい。」
みんなに見えるように、王家の宝剣シュテルンヒンメルを掲げる。
ゆっくりと刀を抜くと、刀身は眩い星々のような輝きを放った。
「おお、この輝きは、まさしく王家の血筋の証。」
「ああ、王子は生きておられた。シューネヴァルト王家は滅んでいなかったのだ。」
疑わしい表情を浮かべる者は、もういなかった。
一人、また一人と僕の前に跪き、忠誠を誓ってくれる。
「ありがとう。今の領主は王国の民を差別して苦しめている。迫害された獣人たちは街から消えた。私は王国の民を救いたい。領主を追い出すために、皆の力を貸してもらえないだろうか。」
立ち上がって拳を突き上げる者もいる。静かに涙を浮かべる者もいる。
旧臣たちの気持ちはまとまってくれたようだ。
それから、領主軍と戦う計画について話した。
領主軍に対抗できる戦力を確保するために獣人たちと協力関係を結ぶつもりであることや、領主軍の隊長をしていて敵情に詳しいメールス卿に指揮を任せることなどを説明した。
メールス卿には複雑な感情を持っていた者もいたようだが、納得してくれたようだ。
どうやら無事に王国の旧臣たちとの顔合わせは終わった。
旧臣たちは口々に帝国の悪口を言い、王国から追い出すと気勢を上げている。
確かに今の領主は悪政を布いている。帝国に恭順の意を示した王国を攻めて、国王夫妻を殺したことも酷いと思う。
しかし、帝国人がみんな悪人というわけではないことも僕は知っている。
まだ体が弱かった頃、たちの悪い同級生に絡まれることもあった。そんなときに僕をかばってくれたのは喧嘩の強い妹と、正義感の強い帝国人の少女だった。
帝国から来たマルレーナは正義感が強くて、正しいことを怯まずに口にできる少女だった。彼女は王国の民を差別するようなこともなかった。
ちょっとしたきっかけがあって、僕はマルレーナと仲良くなって、互いにレーナ、アルと愛称で呼び合うようになった。
もう随分会ってないけど、レーナは元気にしてるだろうか。




