73話 激突
シューネヴァルト辺境伯領 領境近くの森林地帯 前線 グウィネス
敵の大軍が迫ってくる。
第一陣だった西部の諸侯軍6千は半分くらいに減っているようだ。そして殿下の上級精霊魔法のおかげで敵の第二陣3千は森林の中で迷っているはずだ。
それでも、なお敵は約1万3千の大軍だ。
味方は敵の第二陣を森林に引き寄せた2千の兵がまだ戻っておらず、約7千。エルフの弓兵たちも敵の第二陣のいる森に向かっている。
我らシューネヴァルトの騎士は2倍の敵でも怯むことはない。
しかし敵には多くの古代魔法師がいる。
苦戦するかもしれないな。
それでも森林地帯を抜けて平野に出てしまえば、兵数の差で味方はもっと苦しくなる。
「みんな、敵は大軍だけど、ここは通さないよ!シューネヴァルトを守るんだ!」
周囲の狼人の騎士たちも「おおっ!」と答えてくれた。
私は獣人が安心して暮らせるこの地を守りたい。
命をかける価値のある戦いだと思っている。
森林地帯の丘の本陣 リヒト・フォン・シューネヴァルト
深い森ではなくても、ちゃんと「迷いの森」を発動できた。
事前にヤクシニーさんに確認していたものの、実際に魔法が発動したのでほっとした。
敵の第二陣は森林の中を彷徨っている。
援軍に来てくれたエルフの弓兵には、森林の中での迎撃を依頼していた。
エルフの弓兵隊からの報告では、順調に敵を倒しているようだ。
敵の精鋭部隊といっても、「迷いの森」の中では視界が極端に狭くなる。見えない所から一方的に射られるのだから、応戦のしようもないだろう。
「迷いの森」は敵味方の区別なく発動してしまう。その影響を受けない種族であるエルフの弓隊が援軍に来てくれたのは大きかった。
ただ、第二陣からの報告がないことで敵の第三陣以降がいったん止まってくれると良かったのだが、そのまま街道を進んできた。
なお敵は1万3千くらいの大軍だ。こちらで迎え撃つのは7千人くらい。
退却する振りをして敵を森林に引き込んだ部隊の合流を待ちたいところだが、そうすると敵の本隊が森林地帯を抜けて平原に出てしまいかねない。
平原では地の利が生かせなくて兵力差が効いてきてしまう。
こちらは森林地帯で敵を食い止める必要がある。
そのことを分かっているグウィネスやグラッドバッハたちは、迎え撃つ姿勢を見せているようだ。
彼らの勇気は嬉しいが、このままでは味方に大きな被害が出る。
「迷いの森」を既に発動しているから上手くできるか不安はあったが、やはりもう一つの上級精霊魔法を発動すべきだろう。
「森に住まう民よ、今こそ戦いの時。森を護るために立ち上がれ。我は森を統べる王なり。」
呪文を唱えると、頭が猛烈に痛くなった。
やはり「迷いの森」と同時に「森の王」を発動するのは厳しいか。
でも、ここが正念場だ。
嫌な汗が出てきたが、歯を食いしばって耐える。
気を失いそうになったとき、空中にヤクシニーさんが現れた。
「まったく無茶をしおって。まだ慣れていない上級魔法を同時に発動するとは。どれ、今回はわしが手伝ってやろう。じゃが、あまり無理をしてはいかんぞ。」
頭痛が治まってきた。
どうにか二つの魔法を継続できそうだ。
前線 グウィネス
敵軍が近づいて来るとともに、古代魔法が飛んできた。
炎の魔法に水の魔法、風の魔法もあるようだ。
色とりどりの魔法が襲ってくる。
味方の精霊魔法師も応戦を始めたが、やはり威力は古代魔法のほうが上のようだな。
敵に接近線を挑むために前進するが、敵の魔法に倒される者が出始めた。
私の近くにも炎の矢が撃ち込まれた。
ぱっと火の粉が周囲に散り、空気が熱くなる。
さっきまで近くにいた幼馴染の従兄弟の姿が見えない。どうやら敵の魔法に当たったようだ。
それでもシューネヴァルトを護るためには退けない。
そのとき突然、体の中から不思議な力が湧いてきた。
周囲の騎士たちも戸惑っている。
「なんだ、これは?」
「何だか力が満ちてくる。」
不思議な力からはリヒト様の気配がする。
これはきっと、上級精霊魔法の「森の王」だ。
「森の王は」は森に縁のある種族の能力を上昇させると聞いた。
多くの獣人や亜人は森に縁がある。
味方の鬼人の精霊魔法が急に威力を増して、敵の古代魔法に対抗できるようになった。
敵から飛んでくる炎の矢を味方の水球が相殺する。
これならいける。
「みんな、行くぞ!」
周囲の騎士たちも雄叫びを上げ、敵に向かっていく。
敵に接近したところで私も魔法を放った。
「風刃!」
最近覚えた風の精霊魔法だ。
魔法は敵を切り裂き、十人くらいを倒せた。
どうやら私の精霊魔法も強力になっているらしい。
もう一発放つと、敵陣に穴が開いた。
この機を逃すものか。
私は両手で太刀と小太刀を振るい、敵陣に切り込んだ。
普段よりも身体が軽い。
味方の騎士たちも続き、敵に突っ込んでいく。
こうなるともう敵の魔法師は古代魔法を撃てない。
グラッドバッハの率いる騎馬隊も敵に取り付いたようだ。
森の王は人族には効かないが、彼らも奮戦している。
この地を奴らに渡すわけにはいかない。




