72話 迎撃
シューネヴァルト辺境伯領 領境近くの森林地帯 リヒト・フォン・シューネヴァルト
グリューネブルクの領民の大歓声に送られて僕らは出陣した。
もともと自分たちの土地を守る戦いで兵の士気は高かったが、予想していない援軍が次々に現れたことで味方の士気は最高潮に達している。
妹が正体を見せたことには驚いた。
彼女によれば、最も効果的な場面だと思ったからだそうだ。
ちなみにルクス・ルーナエという名前の意味は「月の光」だそうだ。
僕の名前のリヒトは「光」という意味なので、名前が似ていることからも縁を感じていたらしい。
「ようやく兄さんに本当の名を明かすことができた」といって妹は笑った。
戦場に向かう途中でアーレン子爵が馬を寄せてきた。
「卿に似ていない妹とは思っていましたが、驚きましたよ。人ではなくエルフだったとは。それにアールヴは実在していたのですね。まるで神話の世界にいるようです。」
「アーレン卿、これまで黙っていて済みません。妹の正体を話す訳にはいかなかったんです。」
「ふふ、事情があっただろうことは分かります。何しろ伝説の種族アールヴですからね。しかし、帝国騎士団に続いてエルフの援軍とは心強い。我らアーレン騎士団も奮闘しますよ。」
領境近くの森林地帯につくと、その奥の丘の上に予定どおり本陣をつくる。周囲を見渡すことができて、指揮をとるのに適した場所だ。
このあたりは鬱蒼とした樹海とは違って木々の間には日差しも入りこみ、視界も悪くない林が続き、ところどころに森があるような地形だ。
諜報部隊によれば、皇子派諸侯軍はカリン伯爵領の領都バダノッホを出て、シューネヴァルト領の近くまで来ているようだ。
なるべく早く皇子に兵を返すためにも決戦を急ぐだろうという予想どおりだ。
こちらも士気が高いうちに戦闘を始められるのは歓迎だ。
本陣に主要なメンバーが集まり、作戦を確認するとそれぞれの持ち場に向かった。
援軍が来てくれて、木の上位精霊のヤクシニーさんのおかげで使えるようになった精霊魔法があって、互角以上に戦えると思う。でも、味方には犠牲は出るだろう。
みんなが無事に戻ってこられると良いんだが。
やがて、カミン伯爵領から街道を通って皇子派諸侯の大軍が寄せて来た。
大軍の足音はまるで地鳴りのようだ。
斥候の報告によれば、敵の先頭には西部派諸侯の兵6千がいる。予想通りだ。
味方の弓兵隊の矢を受けて、敵の足が止まる。
そこにシューネヴァルト騎士団が突撃する。
敵の先陣は寄せ集めだ。
こちらは練度も高く、自分たちの土地を護るために士気も高い。
騎馬隊が突撃すると、敵はあっさりと崩れた。
だが、兵力差があるので、この後が本番だ。
敗走する西部派諸侯軍の後ろから、敵の主力部隊が進出してきた。
それと同時に炎の矢がいくつも飛んできて、水弾も撃ってくる。
やはり敵には古代魔法師が多くいるようだ。味方の精霊魔法師も応戦しているが、やはり威力は古代魔法のほうが強い。
味方の先陣は予定どおり森林に向かって退き始めた。
相手に押されたように見せて、実際には整然と後退することは難しい。
だが日ごろから厳しい訓練を行っている常備兵の部隊は上手くやってくれた。
味方は林の中に逃げ込んだ。
深い森ではないので、敵も追ってくる。
敵の第二陣はどんどん林に入っていく。
「よし、予定どおりだ。」
僕は拳を固めた。
諜報部隊が探ってくれたところによれば、敵の第二陣約3千人は精鋭部隊だ。
「敵の第二陣はほぼ森に入りました。」
斥候の報告を受けて、僕は集中して精霊魔法を唱えた。
「母なる森よ。招かれざる者たちの道を閉ざし給え。この地を侵すものたちの眼を欺き給え。」
木の上級精霊魔法の「迷いの森」が発動した。
シューネヴァルト辺境伯領 領境近くの街道 ブレイザー伯
「第二陣からの報告はまだか?」
「はっ、近くの森林に逃げた敵を追って行ったようですが、その後は報告がありません。」
第二陣の3千人は古代魔法師も多く配属している精鋭部隊だ。
まさか敵にやられたとは思えないが。
先陣にはカミン伯軍の残党など皇子派諸侯を配置したが、敵に蹴散らされた。
敵を少しでも消耗させてくれればと思ったが、騎馬隊の前にひとたまりもなかった。
だが、こちらの主力の第二陣が進出すると敵は退いて行った。
それは予想どおりなのだが、古代魔法の支援を得て主力部隊が敵に当たることで、大きな損害を与えるはずが、敵は交戦を避けて森林に逃げ込んだようだ。
逃げた敵を放っておくと後方から襲われることもあるので、第二陣が森林に入って行ったのは正しい判断だ。
きっと森の奥のほうで戦っているのだろう。
第三陣以降はこのまま前に進めよう。
明けましておめでとうございます。
明日も更新します。




