69話 精霊騎士の誕生
シューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
政庁の自分の部屋に戻ると、妹とレーナとグウィネスがいた。
僕の姿を見ると、妹が駆け寄ってきた。
「兄さん、どこにいたのよ。戻って来たら行方不明だっていうから、心配したよ。」
普段冷静なレーナは目に涙を浮かべていた。
「まったくだ。誰に聞いてもアルの居場所が分からないというから、まさか敵のスパイに暗殺されたのではないかと思って心配したぞ。」
グウィネスは涙をぽろぽろ零した。
「リヒト様、無事で良かった。」
ヤクシニーさんと会った時間は短く感じたが、どうやらこちらでは丸二日ほど経っていたらしい。
「みんな、心配をかけてごめん。気分転換に樹海で散歩をしていたら、不思議なことがあったんだ。」
樹海の中の出来事を話すと、三人とも驚いていた。
そして、いちはやく立ち直ったエルナは叫んだ。
「森の上位精霊のヤクシニーの祝福ですって!」
エルナは僕の手を握ると驚いた。
「本当だ。兄さんの精霊力に加えて力強い別の精霊力を感じる。確かに上位精霊の祝福だわ。これならいける!」
エルナによると、エルフの長老に力を貸すように頼んだが、僕は辺境の王になる可能性はあるが、今の段階ではまだ手を貸せないと断られたようだ。
だが上位精霊であるヤクシニーさんの祝福を受けたことで、あとは辺境を統べる者になれば条件を満たすことになる。僕は辺境伯であって王ではないが、「辺境を統べる」かどうかは解釈の余地があるらしい。
エルナはすぐに樹海の中のエルフの国に向けて出発した。
慌ただしいが、シューネヴァルトのことを本当に心配してくれているのは嬉しい。エルナは種族こそ違うが、本当に家族なんだと思う。
エルナの次にレーナも部屋から出て行った。
「私も腹が決まったよ。やることがあるからいったん外出するね。後はグウィネスに任せたよ。」
グウィネスは戸惑っていたが、僕の護衛としてしばらく側にいますと言った。
気づくと空腹だったので、侍従を呼んで食事と飲み物を持ってきてもらった。
グウィネスも忙しいんじゃないかと言ったら、「お二人に後を託されましたから」と真顔で言ってから、「ご無事で本当に良かった」と笑顔を見せてくれた。
しばらくグウィネスと話をした。
真面目な彼女とは、すぐにシューネヴァルトの軍略の話になった。
僕が得た上級精霊魔法を上手く使えば、敵に古代魔法師がいてもかなり優位に立てるだろうとグウィネスも言ってくれた。
「リヒト様のことは、何があってもお守りします。」
そう言ったときに、グウィネスの姿が不思議な光に包まれた。
「あれ、これは何でしょう?」
何が起きたのか僕も驚いていると、脳裏にヤクシニーさんの声が響いた。
「ほう、その者は風の精霊魔法に覚醒したようじゃな。もともと素質もあったのじゃろうが、かような美貌の女性にここまで忠誠心を持たれるとは、そなたは果報者じゃのう。」
そういえば、ヤクシニーさんは僕に忠誠を誓う者の中に精霊魔法に目覚める者が出てくるだろうと言っていた。
これがそうなのか。
「リヒト様、どうやら私は風の精霊魔法が使えるようになったようです。」
グウィネスは戸惑いながらも嬉しそうだ。
覚醒するとすぐにどんな精霊魔法が使えると分かるものらしい。
「うむ。新たな精霊騎士の誕生じゃな。美森家でもかつては何人もの精霊騎士がおり、敵を寄せ付けることはなかったのじゃ。」
「グウィネス、どうやら上位精霊のヤクシニーさんから祝福してもらったおかげで僕の周囲の人が精霊騎士として覚醒するらしいんだ。もともと実力のある君が精霊魔法も使えるとなると、帝国の魔法騎士にも対抗できそうだ。」
「それでは、この精霊魔法はリヒト様から頂いたようなものですね。」
自分自身を抱きしめるようにしてから、グウィネスは宣言した。
「この力があれば、私は誰にも負けません。」
その後、駆け付けて来たメールス卿やトリーア卿にも事情を話した。
二人とも安堵するとともに僕の得た木の上級精霊魔法のことを知ると、顔に生気が浮かべた。
大軍を相手にどうするか悩んでいた二人は、これなら敵に対抗し、味方の損害を減らせるでしょうと喜んでくれた。
さらに、メールス卿はグウィネスと同じように不思議な光に包まれた。
メールス卿は土の精霊魔法に覚醒しらしい。
僕から説明を受けると、「私は忠誠心なら負けませんからな」と嬉しそうにしてくれた。
トリーア卿は「私も忠誠心は負けないつもりですが、適性が無いのでしょうか」と寂しそうにしていた。
ヤクシニーさんによれば、もともと騎士としての実力がないと精霊騎士として覚醒することはないらしい。
………
「ブレイザー伯爵の率いる帝国北部の皇子派諸侯の大軍が迫ってきたとき、リヒトは上級精霊のヤクシニーの祝福を受けた。そのことで木の上級精霊魔法を使えるようになったことに加えて、リヒトに仕える家臣の中に精霊魔法に覚醒する者が現れた。
特にリヒトの軍の中心であるメールス卿とグウィネスが精霊騎士として覚醒したことは、帝国の魔法騎士にも対抗できる戦力を得たことを意味していた。そのことにより、リヒトは帝国の後継者を巡る争いの中で存在感を示していくことになる。」
エスター・クライン著「リヒト戦記」より




