68話 精霊の祝福
樹海 リヒト・フォン・シューネヴァルト
頭の中に響いた声に僕は答えた。
「私はリヒト・フォン・シューネヴァルトと申します。樹海の周辺を治めている領主です。」
「そうか。じゃが、只人がここに入れるはずはないのじゃが。」
声は不思議そうに言った。
「ふむ、お主はどうやらアルセイドと契約しておるな。」
そのとき、なぜかシュテルンヒンメルが光り始めた。
シュテルンヒンメルは護り刀として、いつも持ち歩いている。
「その光は、もしや。お主、それをどこで手に入れた!」
頭の中に圧力がかかる。
「これはシューネヴァルト家に代々伝わる宝剣です。銘をシュテルンヒンメルと申します。」
「シューネヴァルト、シュテルンヒンメルとな…。」
声はしばし考え込むと、はっと何かに気付いたようだ。
「まさかお主、美森家の末裔か。シューネヴァルトとは美しい森という意味ぞ。それにシュテルンヒンメルとは星空の意味じゃ。妾がかつて祝福した刀の銘は星空。」
僕の隣に現れたアルセイドが口を開いた。
「その刀からはヤクシニー様の精霊力によく似た力を感じた。それにリヒトの先祖は東方から来たと聞いた。」
「それでは、まさか。この者はこのあたりに珍しい黒い髪、黒い目をしておるが…少し確かめさせてくれるか。」
何かが僕の中に入って来た。圧倒的な存在だが、嫌な感じはしない。
しばらくすると、目の前に妙齢の美しい女性が現れた。
神々しいオーラを纏うその女性は、目に涙を浮かべていた。
「ああ、間違いない。そなたは美森家の末裔じゃ。何ということ。美森家は滅んだものと思っておったが。ああ、こんな西の果てであの子たちの子孫が生きていたとは。」
しばらくして、その美しい女性はヤクシニーと名乗り、事情を話してくれた。
大陸の遥か東方において、自らの加護した美森家が治める王国は長く栄えていた。
しかし、最近になって隣国が軍事大国化し、長く続いた平和の中で戦力の乏しかった美森家の王国は滅ぼされ、王家の者はみな討ち死にした。
そして失意のままに亜人の多く住む樹海に流れて来て、小さな聖域をつくって隠棲していた。
「ああ、そういえば数百年前に王の弟が西に旅立つと言っておったな。なまじ優れていたために、兄と跡目争いになることを嫌い、自ら国を出た者が。星空はその者に与えた刀じゃった。」
ご先祖様にそんな歴史があったとは。
どうして周囲と違って黒髪黒目なんだろうと不思議には思っていたけど。
そのあと、今後は僕のほうが現状をヤクシニーさんに説明した。
「ふむ。するとお主の領地に約2倍の兵力の大軍が迫っているのじゃな。しかも敵には古代魔法師が多くいると。そしてエルフのいう辺境の王とは上位精霊の祝福を受けた辺境の王であり、辺境の王ではないので助力が得られないだろうと。」
ヤクシニーさんは少し悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
「妾は森の上位精霊じゃ。ここでお主に会うたのは運命の導きじゃろう。祝福を与えよう。」
えっ。ヤクシニーさんは上位精霊なのか。
エルフでもなかなか上位精霊には会えないと聞いたのに。
驚いていると、僕の中に再び圧倒的な存在が入って来た。
今回は、身体の隅々まで神々しい何かで満たされていく。
いつの間にか僕は気を失っていたらしい。
はっと気が付くと森の中に横たわっていた。
目を覚ますと、側にヤクシニーさんとアルセイドがいた。
「うむ。無事に祝福を授けることができた。美森家の末裔だけあって、妾の精霊力との相性は良いようじゃな。自分の中を探ってみるが良い。」
言われるままに自分の中に意識を向ける。
すると不思議なことに、新たに使えるようになった精霊魔法のことが理解できた。
この魔法は、以前に鬼人族の精霊魔法師から聞いた木の上級精霊魔法のようだ。伝説になっていて、アールヴのような古代種族以外に使える者はいないと聞いていたが。
それにしても強力な魔法だ。
まず、「迷いの森」は樹海に施されている魔法で、森に入った者を迷わせる。
迷いの森ではアールヴの複数の精霊魔法師が長い時間をかけて紡いだ大魔法だ。それを規模こそ小さくなるが、僕一人で使えるようだ。
次に「森の王」という魔法だが、森に関連する種族の戦闘力が上がる。狼人や狐人など多くの獣人は森の種族なので、シューネヴァルト辺境伯軍の戦闘力が上がる。
さらに木の中級精霊魔法の「眠りの雲」や「毒の霧」の効果範囲も大幅に拡大するようだ。
「それだけではないぞ。お主が祝福を受けたことで、お主に忠誠を誓う者の中にも精霊魔法に目覚める者が出るじゃろう。」
「祝福をして頂いてありがとうございます。木の精霊魔法がこんなに強力なものとは思っていませんでした。」
記述を少し修正しました




