67話 シューネヴァルトに迫る危機
帝国歴225年8月 シューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
皇子派の大軍が西部に進軍してくる。
諜報部隊の知らせてくる状況は厳しかった。
皇子派は危惧したとおりに古代魔法師を密かに養成していて、南部で皇女派を圧倒している。
そこまではある程度予想はついた。
だが、優位に立った皇子派が主力軍の中から1万人以上を割いて西部に向かってくるとは思わなかった。
押し寄せてくる皇子派はブレイザー伯爵の率いる北部諸侯軍の1万2千に加え、カミン伯軍の残党を含め、西部の皇子派諸侯が約6千。合計約1万8千の兵力になる。
シューネヴァルトの兵力は予備役を含めて9千弱。アーレン子爵の騎士団1500を加えて約1万だ。ステアノット伯爵の軍はあまり強くなく、守るべき領地も広いため、自領の守りに専念するよう伝えた。
敵の兵力は味方のほぼ2倍だ。
味方には身体能力に優れた狼人騎士がいて精霊魔法師もいるが、敵には古代魔法師がいる。苦戦することは否定できない。
メールス卿たちと協議した結果、占領したカミン伯領から引上げ、地の利のあるシューネヴァルトで迎え撃つことにした。
思えば、領主軍を破った後に帝国騎士団が襲来したとき以来の苦境だ。
あのときの黒幕だったブレイザー伯が今回は司令官として軍を率いている。
つくづく悪縁がある人のようだ。
味方が劣勢なので、エルナはエルフの長老に掛け合うと言ってくれた。
だが、エルフの掟に反して僕に辺境の王になる条件を教えてくれたが、条件を満たしていない以上、説得は難しいだろう。
族長さんたちは苦境に立ってもシューネヴァルトと共に戦うと言ってくれた。
シューネヴァルトの旧臣たちは変わらぬ忠誠を捧げてくれる。
裏切りの心配がないのはありがたい。
だが、それだけに多くの者が死ぬことになる劣勢の戦いに臨むのはつらい。
気分転換のために、少し時間をつくって樹海の中を歩いた。
森の中を歩くと木や草の匂いがする。
樹々の間から陽光が差し込み、神秘的な感じがする。
空を見上げると雲がゆっくり流れていく。
ふと気づくと、隣にアルセイドがいた。
最近は忙しくて精霊魔法の訓練もさぼっていた。
アルセイドの姿を見たのも久しぶりだ。
「つらそうな顔ね。」
「ああ、アルセイド。しばらく樹海に顔を出さずにいてごめん。領地を何とかうまく経営できていると自分では思ってたんだけど、大軍が襲ってくることになってね。」
不思議にアルセイドには弱音を吐ける。
「みんな苦しくても僕を信じてついてきてくれる。そんな人たちを大勢死なせることになるかと思うと、つらいんだ。だからといって逃げ出す訳にはいかないし。」
アルセイドは感情の浮かばない表情で僕を見ていたが、ぼそりと言った。
「力が欲しいのね。じゃあ付いてきて。」
空中を滑るようにアルセイドは移動していく。
戸惑いながらも僕は後を付いていく。
途中で何か結界のようなものをくぐった感じがすると、周囲の風景が変わった。
樹海には針葉樹が多いのに、周りにあるのは照葉樹のようだ。
「ここは、どこなんだろう。」
独り言をつぶやくと、意外にもアルセイドは答えてくれた。
「ある御方の聖域よ。」
さらに進むと、朱色に塗った木の門が見えて来た。
「さあ、この門をくぐって。きっと貴方なら上手く行く。」
アルセイドの言っていることはよく分からない。
妖精に惑わされて帰ってこなかった人の話はいくつも語り継がれている。
だが、彼女はこれまでにずっと僕を助けてくれた。今の苦境を覆す何かが得られるかもしれない。
僕はアルセイドに頷くと、朱色の木の門をくぐった。
「妾の聖域に踏み込む者は誰ぞ?」
頭の中に直接声が響いた。
このところ仕事が忙しく、何とか週末の投稿を維持しているような状況です。
このお話も佳境に入ってきて、何とか結末まで走り切りたいと思っています。
書き続ける元気が出ますので、ブックマークや評価点を頂けると有難く思います。




