62話 皇帝の崩御~皇子と皇女の会談
帝国歴225年4月 帝都リエヴァン 皇女カトリーヌ
お父様が危篤状態になってから、侍医団は全力を尽くしてくれました。
ですが、回復する体力はもうお父様には残っておらず、一週間ほど後に天に召されたのです。
結局、誰が後を継いで次の皇帝になるのかはおっしゃらないままでした。
このため、誰が葬儀を主催するのかについて、早くもお兄様と私で争うことになってしまいましたわ。
親の死を純粋に悲しむことができないのは王族の運命でしょうか。
でも、お兄様が葬儀を取り仕切り、そのまま後継者として振舞うことは私としては見過ごせません。
結局、お父様の弟であるペリグー公爵に葬儀を取り仕切ってもらうことになりました。
いつまでも葬儀をしない訳にもいきませんから、私たちの争いを見かねて叔父様が申し出てくれたこともありますし、叔父様に政治的野心が無いことは帝国貴族の皆が知っていますから、反対もありませんでした。
黒い喪服に身を包んで葬儀に参列しましたが、兄上は私の方を見ようともしませんでしたわ。父親の死を兄妹で悲しむこともできないとは因果なことです。
葬儀が終わると、本格的に後継者争いが始まりました。
兄上の陣営は利益をちらつかせたり、弱みを握って脅すことまでして中立派の貴族たちを取り込もうとしているようです。
こちらも中立派の貴族たちにアプローチをします。
もっとも、露骨な利益の約束はせず、脅すことはしません。そのような形で多数派を構成できたとしても長続きはしないことは自明です。
兄上もそんなことは分かっているはずなのですが。
ヒートアップする状況に、このままでは帝国が二分されかねないと心配した叔父のペリグー公爵が、兄上と私に会談するように呼び掛けてきました。
私は会談を拒むものではありませんが、意外なことに兄上も了承したらしく、会談することになりました。
王宮の一室 皇女カトリーヌ
「カトリーヌ、そろそろ政治ごっこは止めたらどうか。」
会談の冒頭で兄上がかけてきた言葉は予想よりも酷いものでした。
私たちは会談に臨むにあたり、どこまでなら譲歩できるか真剣に議論してきたというのに。
「お前は綺麗な顔をしているのだから、外国の王家なり有力な家臣に嫁ぐことが国に貢献する道だろう。」
「シャルル皇子殿下、あまりといえばあまりなお言葉です。カトリーヌ皇女殿下は国のためを思って政治的な活動をして来られました。皇女殿下の語る国家像に説得力があるからこそ多くの帝国貴族も賛同しているのです。」
私より先にモルビアン公爵が怒って発言しました。普段な温厚なのですが、譲れないものは譲らない方です。
「モルビアン、不敬であるぞ。余は妹に話している。」
「兄上、モルビアン公爵は私の思っていることを述べてくれたのですわ。政治ごっこなどとおっしゃるのは、私に賛同してくれた者たちへの侮辱です。どうして自分とは違う意見には耳を貸そうとなされないのですか。」
「帝国は大きくなった。皇帝が強いリーダーシップをもって統治しなければ国内はバラバラになり、諸外国から侮りも受けよう。臣下の勝手な言い分など聞く必要はない。」
「様々な者が様々な意見を述べることが重要ですわ。帝国は大きくなったからこそ、一部の者の考えではなく、多くの者の意見を聞くことが必要なのです。そうでなければ不満が溜まりますし、臣民が能力を発揮できません。そもそもバイエレマンの地から起こった帝国は、ブリタリアや我らの故地であるガロアからも貴族に登用してきた歴史をお忘れになったわけではないでしょう。」
「帝国が出来たばかりの頃と今では状況が違う。これだけ版図の広がった帝国で領内の意見をいちいち聞いていては何も決められない。お前はその程度のことも分からないのか。」
結局、兄上との議論は平行線でした。
私たちの主張をある程度取り入れてくれれば、兄上の皇帝即位を認めることも考えておりましたのに。
あのように頭越しに命令してどうにかなると思っているのでは帝国をうまく運営できるとは思えませんわ。
ろくに話も聞かずにただ自分の言うとおりに行動しろと命じれば、その場では言うことを聞かせたとしても不満の種は残ります。
不満を持った者が多くなれば、何かのきっかけで横のつながりが生まれる可能性も高まります。
やがて不満の種は大きく育ち、葉を茂らせて大樹となり、厄介な叛乱を招くことになるでしょう。
こうなっては私が次期皇帝を目指すしかありません。




