61話 帝都の皇女派
帝国歴225年3月 帝都リエヴァン 皇女カトリーヌ
お父様が危篤と聞いて、帝都近郊の福祉施設を訪問していた私は急遽帝都に戻り、王宮に向かいました。
面会は厳しく制限されていましたが、身内の皇女である私は短時間会うことが許されました。
しかし、お父様は目を閉じたままで話せる状態ではありませんでしたわ。
王宮の自室に戻ると、内務卿のモルビアン公爵と商務卿のアントルム侯爵、軍務卿代理のノルトライン伯爵が応接室で待っていると侍女が教えてくれました。
この三人はそれぞれ帝国政府の要職に就いて、私の派閥の中心となってくれているのです。
モルビアン公爵は帝国南部に広大な領地を有していて、お母さまの実家でもあります。私が最も信頼する貴族の一人ですわ。
アントルム侯爵は女性の貴族で、私が兄上に対抗しようと決意したときから同志として行動してくれています。
ノルトライン伯爵は5年前に私が声をかけて帝国の中央に招いてから、有能さを発揮して帝国政府での出世の階段を上がってきました。父親に負けないくらい優秀な娘のレーナは親友と呼べる貴重な存在でもあります。
私が応接室に入ると、待ちかねた様子でモルビアン公爵が聞いてきました。
「皇女殿下、陛下のご様子はいかがでしたでしょうか。」
「目を瞑っておられましたわ。息は苦しそうではありませんでしたが、ずっと眠っておられるようです。侍医にも話を聞きましたが、回復する可能性は低いようです。」
三人とも目を閉じてお父様のために祈ってくれました。
その後で、まずアントルム侯爵が口を開きました。
「それでは、後継者の指名はなされないままになるでしょうか。」
「そうですわね。宰相に話を聞きましたが、父上はこれまでに何も言っておられないようです。」
「そう致しますと、皇子派は中立派の貴族への働きかけを強めましょう。皇帝陛下の回復を願っておりますが、私たちも対抗する必要があるかと。」
「ええ、ノルトライン伯爵の言うとおりですわ。お父様が回復することを願いますが、このまま兄上の思い通りにさせては帝国が傾いてしまいます。私たちも一緒に行動してくれる人を集めるほかありません。」
三人とも頷いてくれました。
「皇子派と競って多数派工作をするとなりますと、西部でシューネヴァルト辺境伯が力を付けたことでステアノット伯爵が味方になったことは大きいですな。」
「モルビアン公爵のご指摘のとおりですね。ステアノット伯爵は親戚も多いので、西部の勢力図はかなり変わりました。それに加えて西部で私たちが立場を強めたことは、帝国の他の地域にも良い影響を及ぼしています。ところでノルトライン伯爵、確かあなたの娘さんはシューネヴァルト辺境領の帝国騎士団分隊長をされていたのでしたね。」
「はい、アントルム侯爵のおっしゃるとおりです。実は娘のエルナはシューネヴァルト辺境伯とは幼馴染なので、自ら志願して赴任しました。」
「そうでしたの。それでシューネヴァルトが野盗を装った皇子派諸侯の私兵団や海賊に襲われたとき、辺境伯軍と帝国騎士団が一体となって行動できたのですね。」
「ええ、シューネヴァルト辺境伯とエルナは本当に仲が良いのですわ。私も何度かシューネヴァルトに参りましたが、二人の間には強い信頼があって、互いに遠慮なく本音で話す様子は羨ましく思いますの。」
「まあ、そうなのですか。それではノルトライン伯爵とシューネヴァルト辺境伯はいずれ縁戚になるのかしら。」
アントルム侯爵の質問に、ノルトライン伯爵は困った表情で答えた。
「どうなのでしょう。私は娘の結婚はできるだけ政略結婚にはしたくないと思っておりまして、具体的に話したことがないのですが。」
さっきまで顔をしかめていたモルビアン公爵は笑顔を浮かべた。
「はは、この大変なときに明るい話題を提供してくれたこともシューネヴァルト辺境伯と伯爵令嬢には感謝ですな。」
そうですわね。この状況で私たちが笑顔で話せる話題は貴重です。
私としても大事な友人であるレーナが好きな男性と結婚できるなら嬉しく思います。ほんの少し羨ましい気持ちもありますけど。
翌日には帝国各地の私の派閥の貴族に連絡を取り、多数派工作に取り組むように依頼しました。
レーナからは、シューネヴァルト辺境伯は私の指示よりも先にアーレン子爵とステアノット伯爵との連携を確認するという報告がありました。
さすがに動きが早いですわね。私が知らせる前にお父様の状況を掴んだのでしょう。
西部では無視できない強大な勢力となっている辺境伯が連携を強めるよう動いてくれれば、ステアノット伯爵は中立の立場をとる親戚の小貴族たちに働きかけてくれるでしょう。
もちろん私からもステアノット伯爵に手紙を書くつもりです。
後の話と整合性のない部分が53話にありましたので少し修正しました。




