60話 シューネヴァルトの対応
皇帝危篤の報を受けて緊急に会議を開いている。
軍事の次は外交だ。独立国でもないのに外交というのは奇妙かもしれないが、辺境伯は独立性が高く、シューネヴァルト王国という意識もどこかにあって、会議では外交と呼ぶのが習慣になっている。
「今後、帝都ではどんな動きがあると思いますか?」
トリーア卿に促されてシルティカイムが発言した。
「皇帝陛下の葬儀の後に皇子派と皇女派の間で中立派貴族を取り込む動きが活発になるでしょう。また、最終的にはシャルル皇子殿下とカトリーヌ皇女の直接会談があると思われます。」
「そうか。皇女派と皇子派が中立派の貴族を自陣営に引き入れる動きが活発になるのは予想できるが、トップ会談があると思うのはどうしてかな?」
「はい。私が帝都で諸侯の動きを見てきたところでは、皇子派も皇女派も最終的な決定権は両殿下が握っておられます。高位の貴族であっても全権代理できる者はおりませんので、直接会談しないと話が進まないと思われます。」
なるほど。シルティカイムは帝国政府で外交に携わってきたので、帝国の貴族たちがどのように意思決定するかを見てきている。それに外交に詳しくなろうとすると国内政治にも詳しくなるものだ。だからこそ彼女は貴重な戦力になっている。
トリーア卿が状況をまとめた。
「それではシューネヴァルトとしましては、両殿下の動きを中心に帝都の動きを探りつつ、西部ではアーレン子爵とステアノット伯爵との連携を確認いたしましょう。」
確かに、帝国貴族を皇女派に引き入れることについては新参者のシューネヴァルトはたいして役に立てない。できるのは状況を把握しつつ、西部の皇女派の連携を固めることだろう。
「あとは南方諸島群にはどのように対応しましょうか?」
「そうだな。キアヌ王子殿下にはこちらの知る帝都の動きを伝えよう。そのうえで、できれば購入する軍船の引き渡しを早くしてくれるよう交渉してもらえるかな。」
南方諸島群も帝都の動きには興味があるだろう。 正確な情報を早く伝えるだけでも感謝してくれるはずだ。
あとは海軍の増強に力を貸してくれるとありがたい。
「承知いたしました。では南方諸島群には私が向かい、アーレン子爵とステアノット伯爵との連携はシルティカイム殿に任せようかと思います。」
「ああ、それで頼む。」
以前はトリーア卿一人が外交を担当していたが、シルティカイムが補佐するようになったので、同時に動けるのは大きい。
「帝都の状況は引き続き諜報部隊に探ってもらおう。」
「私からシャッテンに伝えておくわ。」
諜報については妹が答えた。エルナは並み外れた隠形術で最初にシャッテンが政庁に忍び込んだときに驚かせて以来、猫人の諜報部隊にレスペクトされていて、諜報部隊の上司のようになっている。
「私のほうでは、予備役の者たちに招集する可能性を伝えておきます。」
メールス卿の言葉に僕は頷いた。
今すぐ招集する必要はないが、すぐに動ける状態にする必要がある。
軍事と外交の緊急会議の後に、アダムズ護民官や商業担当のジョバンニなど内政担当の重臣とグウィン殿、コトルリ殿、カヤ殿など各種族の代表に集まってもらった。グリューネブルクにいない人もいるので集まるのは二日後になった。
ただし商業担当のジョバンニには急いでやってもらうことがあるので、緊急会議の直後に話をした。
皇帝の危篤という情報を聞くと、族長さんたちは複雑な表情を浮かべた。皇帝は自分たちを迫害した帝国のトップだから良い印象はないのは当然だ。
一方、これで帝国内に紛争が起きるとシューネヴァルトも巻き込まれることが分かっているので単純に喜べない。
「ちょっと前なら手を打って喜んでたんだが、これから大変になると思うとなあ。狼人の騎士たちには気合を入れるように言っておく。」
「ほんまやね。もう少し皇帝が元気でおったほうが、シューネヴァルトは軍も経済もより強くなったやろうな。」
「はは、皇帝が長生きしたほうが良いことがあるとは、少し前まで思いもしなかったな。鬼人族にとって帝国はずっと敵だったんだが。」
ジョバンニは頼んでいたことの報告をしてくれた。
「食料や武具の買い付けは既に始めております。幸いにまだ相場に大きな動きはありませんので、必要量より多めに確保します。」
「ありがとう。まだ相場が動いていないのは良かった。近いうちに多くの貴族が購入するから値段が上がるだろう。一足早く動けたのは諜報部隊のおかげだ。」
辣腕のジョバンニのことだから、必要以上に買っておいて、余剰分は相場が高騰したら高値で売るつもりだろう。指示した以上のことを自分で判断して動いてくれるのはありがたい。
アダムズ護民官は「帝国で紛争が起きてもシューネヴァルトは準備ができていて大丈夫だと領民に伝える準備を始めます」と言ってくれた。
生まれたばかりのシューネヴァルト辺境伯領だが、優秀なスタッフが支えてくれている。
帝国で動乱が起きても何とか対応できる。そんな気持ちになった。




