6話 墓参り
隠されていた出自を知ってから数日後、元侍従長のトリーア卿に案内してもらい、両親の墓参りをした。
国王夫妻の墓は、滅ぼされたシューネヴァルト王国の首都だったグリューネブルクの郊外の丘にひっそりと建てられていた。
欅の木の下にこじんまりとした大理石の墓石が建てられている。
墓碑には名前は記されず、ただ『シューネヴァルトの魂』と刻まれていた。
「本来なら、もっと立派な墓を建てるべきところ、申し訳ございませぬ。帝国の目を気にして、お名前を刻むこともできませなんだ。」
「いや、帝国に占領されていたのに、きちんとした墓を建ててくれてありがとう。きっと両親も感謝していると思う。」
手を合わせて瞑目し、心の中で言葉を紡ぐ。
『知らなかったとはいえ、これまで墓参りにも来れなくてごめんなさい。
まだ赤ちゃんだった僕のことを心配したかもしれないけど、侍従長のトリーア卿の縁戚が育ての親になってくれて、愛情をもって育ててくれたよ。賢くて強い義理の妹もできたんだ。10歳くらいまではよく熱を出したけど、最近は体も丈夫になったよ。もうじき16歳になるから、僕も大人になる。
帝国から来た最初の領主は良い統治を行ったけど、次に来た領主は悪政を敷いて領民を苦しめている。僕にどこまでできるか分からないけど、まちの人たちが安心して暮らせるよう、領主を追い出すために頑張ってみるよ。』
墓を後にして、近くにつないでいた馬のところまで歩く。
トリーア卿は、「ようやく墓前に王子をお連れできました」と目を潤ませた。
卿によれば、父は王らしいいかつい顔で、母は優しい顔立ちだったそうだ。僕は母に似ているらしい。
そういえばとトリーア卿は僕に聞いてきた。
「殿下は成人されたら、地方官吏になるおつもりではありませんでしたか。」
「ええ、そのつもりでした。」
帝国は占領地の住民でも能力があると判断すれば登用する。僕の成績は割と良かったから、地方官吏試験を受けるつもりだった。
「やはりそうでしたか。殿下が地方官吏になろうとすると、さすがに出自が帝国に知られるだろうと思いました。かといって、王子であることを知られないよう、隠れるように一生を送るようにと申し上げるのも忍びなく思われて。平穏に暮らしている殿下を我らの蜂起に巻き込んで良いのかと迷いましたが、人目を忍ぶようにして一生を送るよりは、賭けに出るのも一案ではないかと思いました。」
そこまで考えていてくれたとは、ありがたいことだ。
それにしても、どうしたところで僕は平穏な人生は歩めなかったようだ。
ちょうど周囲に人影もなかったので、ずっと疑問だったことを聞いてみた。
「トリーア卿、帝国の他の地域では、降伏した国の王族がそのまま領主になっているところも少なくありません。」
「そのとおりでございます。」
「どうしてシューネヴァルト王家だけ滅ぼされたんでしょうか。こんな小さな国の王家が存続しても、帝国の脅威になるとは思えないんですが。」
「そうですな。詳しい事情は分かりません。ただし、どうやら帝国は古代文明の重要な遺跡がこの地にあると考えていたようです。それで直轄地にしようとしたのかもしれません。征服した後、帝国から大規模な調査団が来たようです。」
この世界には、ところどころに古代文明の遺跡があり、現在では失われている高度な知識が得られることがある。
フランコルム帝国が大国として躍進したのは、古代文明の遺物をうまく活用したからだと言われている。
帝国が古代文明から得た知識は厳重に秘匿されているが、帝国軍の切り札ともいえる古代魔法は遺跡から得た知識だと噂されている。
「それで、古代文明の遺跡はあったのですか。」
「最初の数年は大規模な調査団がいくつもやって来ましたが、特に重要なものは見つからなかったようです。調査団に雇われて発掘をしていた領民たちが言うには、調査団はみながっかりした様子で引き上げたそうでございます。」
それじゃあ、重要な遺跡があるという帝国の思い込みでシューネヴァルト王国は滅ぼされ、僕の両親は殺されたというのか。
酷い話だ。帝国は戦争もするが、全体としてはまともな政治が行われてきた。
シューネヴァルトに最初の領主としてきたノルトライン子爵は良い統治を行ったことが皇族の目にとまり、中央に栄転して伯爵になったと聞く。そのあたりも帝国の良さを示すものだと思っていた。
でも、最近の帝国はおかしくなってきているのかもしれない。




