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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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54話 クラインの取材ノート

帝国歴224年7月 エスター・クライン

 シューネヴァルト王国に来てから、領内を自由に取材させてもらっている。

 辺境伯政庁にオフィスをもらったが、週に二度の会議に出るほかは、ときどき閣下の相談に乗るくらい。

あとは好きにして良いという破格の待遇で、申し訳なく思うくらいだ。

領内を好きに見て回って良いとも言ってもらっている。


 シューネヴァルト辺境伯が誕生してからの一年間、領内の発展は目覚ましい。

 最近、旧リューベック男爵領に行って、中心都市のナウムブルクやその周辺の農地を取材した。

 昨年訪ねたときは街の住民も農民も表情が暗く、どこか荒んだ空気が漂っていた。

 その後、シューネヴァルト騎士団が野盗を取り締まるなど、治安は回復したと聞いている。

野盗というと周辺の皇子派諸侯の私兵団が思い出されるが、たいていは食い詰めた農民などが野盗と化す。しかしアダムズ護民官たちの努力で食い詰める農民も減っているようだ。

 久しぶりに訪れた旧男爵領は随分と落ち着いていた。

畑仕事をしている人たちも街を歩いている人たちも表情は穏やかになり、街の市場は活気があった。

ちょうど取材をしているときにナウムブルクの街中を巡回する騎士団の一隊を見たが、狼人の部隊だった。

 狼人の騎士はまちの住民たちにどう思われているのだろうと思い、広場に面した商店で買い物をしながら聞いてみた。

 商店主のおじさんは「狼人の騎士様かい。強いし真面目だし、頼りになるよ。前の領主の騎士たちは偉そうにするくせに、山賊が出ても動きやしなかったよ」と言って笑った。

 狼人の騎士の中でも、武勇に秀でた美貌の隊長グウィネスは有名になっていた。

 市場に母親と買い物に来ていた女の子は「私も大きくなったらグウィネス隊長みたいに綺麗で強い人になりたい」と言っていた。


 グリューネブルクに戻ってグウィネス隊長に会ったときに、ナウムブルクの市場の女の子がグウィネス隊長みたいになりたいと言っていると伝えた。

 「私よりも目標にしたほうが良い女性はたくさんいると思います。ただ、種族に関係なく助け合って暮らすことがリヒト閣下の目指すものだと思うのです。少しでもそのお手伝いができているのなら嬉しく思います。」

 グウィネス隊長は照れた顔をしながらも嬉しそうに話してくれた。

 戦場では凛々しく、圧倒的な武勇で無双するが、こうして話しているときは優しい雰囲気である。

 特にリヒト辺境伯閣下のことを話すときは頬が染まり、とても可愛い。辺境伯閣下も罪作りではある。

 

 旧男爵領ではリューベック港も取材した。

 大規模な海賊団を撃退したことで意気も上がっているようで、港には活気が満ちていた。

 岸壁では屈強な熊の獣人たちが荷物の積み下ろしをしているが、熊人たちはみんなで歌を歌いながら作業をしていた。単調な作業をするときに歌いたくなるのは人も獣人も変わらないようだ。

 他領から来た船乗りに聞いたが、熊の獣人たちは真面目に働くので、他の港よりも随分速く荷物の積み下ろしができるらしい。そのこともリューベック港の有利な点になり、寄港する船は増えつつあるとのことだった。

 ずっとリューベックに住んでいるという老人に話を聞いたが、以前は荷下ろしをする人夫たちが酔っぱらって喧嘩をしたり、麻薬の売人もいたりして治安は悪かったようだが、今は見違えるように安心な港になったそうだ。

 港の周りにはホテルやレストランなど建築中の建物が多く、リューベック港が発展しつつあることを語っている。

 港で直接働くこと以外にもホテルやレストランでも雇用が生み出され、人口も増えているようだった。

 まだ建築中の建物も多いが、ホテルやレストランなどが並ぶメインストリートが出来ていて、土産物屋もある。

 港町らしく海産物を扱う店が多いが、中でも特徴的なのは、カワウソ族が干物の魚を売る店だ

 漁師が獲った魚をすぐに干したものが種類別に綺麗に並べられている。

 買い物客に話を聞くと、新鮮で美味しいらしく、リューベックで人気の土産物になっているらしい。

 背が低くてくりくりした丸い目のカワウソ族は可愛い。そのうえ、港を海賊から守る戦いで活躍したことで、リューベックの人たちの間では人気者になっているらしい。

 カワウソ族の干物の店の隣には人族が経営する酒屋がある。

 カワウソ族のお店でアジの干物を買ったら、「隣の酒屋のショウチュウという東方の酒が干物によくあいますよ」と勧めてくれた。

 酒屋でショウチュウを買ったときに店主と話すと、カワウソ族のお陰で売り上げが増えていると話していた。

 ホテルに戻ってから試してみたが、帝国では珍しいショウチュウという酒は確かに魚の干物によくあった。


 今回の取材で、旧シューネヴァルト王国以外の土地でも人と獣人は仲良く過ごせることを確認できた。

 帝国ではシャルル皇子殿下の掲げる帝国人至上主義が強まっているが、多くの種族が協力することで豊かになれることをシューネヴァルト辺境伯領は示している。

 カトリーヌ皇女の「多様性が国を強くする」という理念に賛同する帝国貴族も少なくないが、本当に実現しているのはシューネヴァルトだけだ。

 私がここに来たのは間違っていなかったと思う。

 帝国のアンチテーゼとして、きっと歴史の表舞台でシューネヴァルトは重要な役割を果たすだろう。



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