53話 人口の増加
帝国歴224年7月 シューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
シューネヴァルト辺境伯領が誕生してから一年が経った。いろいろあったので、あっという間に時間は過ぎた感じだ。
この一年で嬉しかったのは、人口が随分増えたことだ。
思い出せば、最初は人口が減るところからスタートした。
前の領主が連れてきた帝国人は解放軍の蜂起の際に逃げ出していたが、辺境伯領になってから戻ってくる者もいたので、記録を調べて正当に家を購入していた者の所有権は認めるが、前の領主とつるんで悪どい手法で家を得ていた者の所有権は認めなかった。
その結果としてシューネヴァルトの帝国人はかなり減少した。
一方で樹海に逃げ込んでいた獣人たちがまちに戻り、領主の悪政を嫌って逃げ出していた領民たちも次第に帰ってきた。
中には家族が生き別れのようになっていたケースもあったようで、久しぶりの再会を喜び合う姿が見られたことは嬉しかった。
帰還した領民たちは高いモチベーションで働いてくれている。
それから、獣人に偏見がない土地であると知られるようになったので、帝国各地から獣人が移住してきた。
移住してきた獣人たちには、特徴を生かして働いてもらっている。
狐人族の一部は商業に従事し、一部は犬人族と共に農業に従事してもらった。
農業を営んできた狐人たちの精霊魔法のおかげで収量が上がり、いつも豊作という感じになっているのは大きい。
猫人族は社交的なので商店の店員になった人が多いが、希望する者は夜目が効いて足音が消せて身軽という特徴を生かして諜報部隊に入ってもらった。情報は非常に大きな力なので、その点ではシューネヴァルトは格段に強くなったと思う。
熊の獣人は港の荷役などの力仕事で活躍してくれている。
子熊族はレストランや装飾品の露店を出し、カワウソ族は猟師として働いている。
そして戦闘力の高い狼人の移民は兵力の増強につながった。
もともと1400人くらいだった狼人族は、シューネヴァルトでの狼人の活躍を聞きつけて多くの移民がやって来て、一年で約3000人にまで増えた。
高齢の狼人や軍に志願しない狼人は育児や狩猟に従事してもらっているが、希望して軍務に就いている人が多い。移民してきた狼人の中には、迫害してきた皇子派貴族に対する戦意が高い者が多かったことも背景にあるようだ。
その結果、狼人の部隊は1000人くらいの規模に拡大した。最初は400人だったから倍以上になる。
旧リューベック男爵領も復興しつつある。
もとの領主はシューネヴァルトの前領主と仲が良かったらしいが、帝国のルールに反する重税を課し、領主館の建築に無償労働を強いるなど、やはり悪政を敷いていた。領内の警備もろくにしないので野盗が野放しだったのも酷く、領民は疲れ切っていた。
アダムズ護民官たちが食料と衣服を配り、何とか領民たちは冬を乗り切った。
そして秋まきの小麦は雪の下でたくましく育ち、ちょうど収穫の時期を迎えている。
黄金色の麦の穂が風に吹かれて、波のように揺れている様子を見ると嬉しくなってくる。領民たちも今年は収穫祭をすると張り切っていた。
アダムズ護民官と相談して今年の税は軽減することにしたので、少しは蓄えもできるだろう。
こうして旧男爵領の畑は復活してきているが、それでも利用されていない荒れ地は多かったので、移民してきた弧人や犬人の農民たちに住んでもらっている。
未利用地が多かった分、伸びしろが大きいという印象だ。
こうして領民は入れ替わり、この一年で人口は大幅に増えた。
シューネヴァルトの人口の推移をみると、王国の頃は約5万人だったが、前の領主のときには約3万5千人に減っていた。辺境伯領になってから急増して今は約7万人になっている。
旧リューベック男爵領の人口も約2万人に増えたから合計すると約9万人だ。帝国の貴族領の中でも人口が10万人を超えるところは少ないので、かなりの人口規模になったといえる。
人口が増えることは生産力や戦力の向上にもつながる。
働き手が増えたことで領内の産業は拡充しつつあるし、常備兵は約4千人にまで増えた。
最初は1500人だったことを思えば急速に拡大できたと思う。




