52話 意外な者たちの活躍
リューベック港近くの海賊船 ゴロツキ
俺たちの船団が近づくと、港の倉庫からバラバラと人が出てきた。
何をするのかと思ったら、いきなり魔法の炎の矢が3本飛んできた。
「うお、こんな辺境に帝国軍の魔法師がいやがるのか。聞いてないぞ。」
船団の一隻に3本とも命中した。
慌てて海賊たちが水をかけるが、魔法の火は水をかけてもなかなか消えねえ。
しかも3人のうち2人はかなり能力の高い魔法師だな。魔法の威力が高い。
さらに3本が同じ船に飛んできた。
6本の炎の矢を受けた船は炎に包まれた。あの船はもう駄目だな。
倉庫から出てきたのは魔法師だけじゃなかった。
残りの者は屋上に上がり、火矢を射て来た。
港に近い船には何本もの火矢が刺さる。
どうやら港の連中は海戦を諦めて、陸上から迎え撃つ準備をしていたらしい。
連中の隙を付いて奇襲したんじゃなかったのかよ。
火矢を多く受けた1隻が火だるまになって離脱していく。
この船は港から遠くて良かった。
と思ったところ、ドサっと倒れる音がしたので振り返ると、操舵手が矢を受けて倒れている。
「嘘だろ、風の強い船の上だぜ。この距離から狙えるはずがねえ。」
だが、代わりに舵輪に付いた者も矢を受けた。
どうやら凄腕の射手までいるようだ。
どうしたもんかと思ってたら、船の中から叫び声が聞こえた。
「おい、船の底から水が入ってきてやがる!」
これじゃあ戦えねえ。
周囲の船から海賊や元荷役たちが次々と海に飛び込んでいく。
俺も海に飛び込んだ。
どうにか港に泳ぎ着いて顔を上げたら、岸壁の上には重装歩兵隊が待ち構えていた。
隊長と思しき隻眼の老人がニッと笑った。
「おう、どうする?戦うか?」
「いや、降伏する。」
グリューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
海賊を無事に撃退としたという報告を受けた。
「レーナもエルナもご苦労様。無事に海賊は撃退できたみたいだね。」
「ああ、奴らはリューベック港に上陸して戦うことすらできなかった。エルナの矢は凄いな。」
「こちらの被害はほとんどなかったし、完勝だね。レーナの火の魔法は強力だったよ。」
「味方に被害がないのは良かったよ。防戦してくれた部隊には報奨金を出そうと思うけど、一番の功労者はどの部隊だろう?」
「まあ我々も頑張ったが、最大の功労者はな。」
「うん、彼らだね。」
二人が最大の功労者として名前を挙げたのは、意外にもカワウソの獣人たちだった。
シューネヴァルトは獣人に優しいと聞いて移住してきたカワウソ族の漁師たちは小柄で、短い手足で地上をとことこ歩く。
つぶらな瞳が可愛い獣人だ。
一見して戦いに向いていない印象だ。
だが、今回は小刀を口にして潜り、敵に気付かれないうちに船底に穴を開けていったらしい。
長く水中に潜ることができて、小柄でも力の強い彼らならではの働きだ。
聞いたところでは、人族に魚を取り上げられることもなく安心して漁ができるこの土地を守りたいと思い、自ら志願して戦ってくれたらしい。
カワウソ族の漁師たちには報奨金をしっかり出そうと思う。
今回は水際で防御できたが、海上で阻止する戦力がないことは問題だ。
輸送船が海上で海賊に襲われた場合、軍船がないと助けられない。
港を使って交易をする以上、海軍の充実が必要だ。
帝国はもともと陸上の国だし、皇子派のブリタリア貴族の一部は海軍を持っているようだが、皇女派の貴族には強い海軍を持っている者はいないようだ。
何とか質の良い軍船を手に入れたい。
―――――
「リヒトの海賊退治は戯曲の題材としてよく取り上げられる。だが実際にはリヒトは前線に出ておらず、海賊船をリヒトが精霊魔法で沈めたというのは創作である。しかしカワウソ族の漁師たちが活躍したのは事実であり、対海賊戦で活躍したノルトライン伯爵令嬢も義妹のエルナも一番の功労者はカワウソ族だと語ったと伝わる。様々な種族がそれぞれの特性を生かすというシューネヴァルトの特徴が出た戦闘の一つに数えることができるだろう。」
エスター・クライン著「リヒト戦記」より




