51話 海賊の来襲
帝国歴224年5月 リューベック港 ゴロツキ
久しぶりにリューベックの港に来た。
港に出入りする船は増えて、前よりも景気がよさそうだ。
熊の獣人たちが黙々と荷物の積み下ろしをする姿を見ると、思わず舌打ちしたくなる。
「けっ、俺たちをお払い箱にした後にどうするのかと思えば、熊が後釜とはな。荷物が獣臭くなっても構わないのかよ。」
俺たちはリューベックの港でずっと荷役をしていた。
ところが前の領主が捕まり、シューネヴァルト辺境伯領に併合されると、役人がやってきて俺たちのことを調べ始めた。
そして密輸の手伝いをしていただの、酒を飲んでギャンブルをして暴れるだのと難癖を付けて、俺たちを追い出しやがった。
ちょっとした密輸だの喧嘩騒ぎだのは港には付きものだっつうの。
食いっぱぐれていた俺たちに声をかけてきたのは海賊だった。
海賊といっても商船を襲うばかりじゃねえ。やばいブツを運ぶ密輸も奴らの大事な稼ぎだ。だがシューネヴァルト辺境伯領になってからリューベックじゃ密輸は厳しく取り締まられてる。
そこで、ちょいとリューベックの港を襲って、俺たちと手を組まねえと港はやっていけないことを見せつけてやろうってことになった。
久しぶりに港に来たのは、シューネヴァルトの戦力を知っとくためだ。港の隅まで確認したが、新しい軍船は入っちゃいねえ。
変わったことと言えば、カワウソの獣人の漁師が増えたことくれえだ。泳ぎは得意だがちんまい奴らで戦力にはならん。
シューネヴァルトの連中は陸の上じゃあ狼人の騎士なんかが強えと言われてるが、海の上じゃあたいしたことはなさそうだ。
グリューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
猫人の諜報部隊から、海賊が追放した荷役たちと組んで襲ってくるという報告があった。どうやら背後には領地に港を持つ皇子派貴族もいるようだ。
以前は狐人族の商人たちの情報に頼っていたが、辺境伯軍に猫人族の諜報部隊をつくってからは、情報収集の中心は猫人族になっている。
商人にスパイのようなことを頼むのは申し訳なく思ってもいた。
コトルリ殿も「猫人のお陰で商いに専念できるようになって助かるわ」と歓迎している。
最近、人相の悪いゴロツキが港に出入りしているようだが、偵察に来たんだろう。
港の管理を任せているゼーマンと相談したが、おそらく海賊たちはリューベックにたいした軍船がないのを知り、安心して攻めて来ると思われた。
確かに船はないが、戦う準備はある。
リューベック港 マクダレーナ・フォン・ノルトライン
「見えてきたな。」
海賊の来襲に備えて、我ら帝国騎士団シューネヴァルト分隊も港の防衛に来ている。
今回は港が戦場なので騎馬隊は使えない。
船に対しては火の魔法を使える魔法師2人と私が主戦力となる。他の騎士たちは海賊が上陸してきたら白兵戦だ。
今は海賊に気付かれないように港の倉庫の中に隠れている。
射程距離に入ってきたら出撃だ。
「火矢の準備はできてるね?」
倉庫の中にはエルナの率いる弓隊も待機している。
火の魔法と弓の射程はだいたい同じなので、我らと同時に撃つ予定だ。
我らの戦力はこれだけではない。別動隊はもう動いているだろう。
海賊船上 ゴロツキ
「はっはー、連中はたいした船が無いので、俺たちを止めるのを諦めたらしいぜ。」
海賊船の上で船長が笑っている。
俺たちは10隻の船団を組んで、リューベックに押し寄せている。
港の連中も気づいてるはずだが、軍船が迎撃してくることは無かった。
「港が見えて来たぜ。野郎ども、準備をしとけよ。」
もうじき港に着く。
そうしたら海賊と一緒に俺たち元荷役も上陸して焼き討ちをする手筈だ。
狭くて障害物の多い港じゃ狼人の騎馬隊は身動きもできねえだろう。
俺たちをコケにした奴らに思い知らせてやる。




