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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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48話 猫人の侵入

帝国歴234年2月 シューネヴァルト辺境伯政庁 居住区域 リヒト・フォン・シューネヴァルト


 ある冬の夜のこと。

 シューネヴァルト辺境伯政庁の寝室で僕は本を読んでいた。

 旧王宮に少し手を入れた辺境伯政庁には政務を執るオフィス部分とプライベートスペースの両方があり、プライベートスペースに僕と妹は住んでいる。

 そろそろ寝ようと思ってベッドサイドのランプを消そうと思ったら、何者かの気配がした。

 枕元に置いてある剣を取ると気配の主は姿を現し、床に跪いた。

 「猫人の族長をしておりますソロンと申します。夜分に寝室に勝手に入りましたこと、お詫びいたします。」

 敵意がないことが分かり、僕は力を抜いた。

 ソロンは顔を上げて口を開いた。

 「御無礼とは思いましたが、私たち猫人は気配と足音を消して警備の厳重な建物にも入れることを辺境伯閣下に見て頂こうと思いまして。」

 「それでこんなことを?」

 「はい、辺境伯閣下は獣人にも優しいお方です。我らが諜報は得意だと申し上げても、危険なことはしないように言ってくださると思いました。そこで実力をお見せしたほうが早いのではないかと。」

 猫人が話し終える頃に部屋の扉が開き、警備役の騎士が飛び込んできた。

 「何者だ!」

 物凄い勢いで猫人族と僕の間に割り込み、僕を後ろにかばったのは狼人の騎士だった。今日の警備の当番だったようだ。

 「ああ、この人はどうも敵じゃないんだ。少し話を聞こうと思ったところだし、大丈夫だよ。」

 騎士は僕の言葉を聞き、猫人が床に跪いている様子を見て、緊張を解いた。

 「そうですか。ならば良いのですが。しかし、不審者の侵入を許すとは不覚。リヒト様を危険にさらすとは、グウィネス隊長に殺されかねません。」

 「いや、グウィネスは職務に忠実だが、そこまでのことはないだろう。」

 騎士は分かってないなというふうに肩をすくめた。

 「ふふ、閣下は愛されておりますからな。騎士殿が現れるのは私の予想よりも早かったのですが、猫人は夜の闇に潜み、気づかれずに行動するのが得意な種族。夜の闇で狼人に遅れは取りません。逆に戦場で会ったなら狼人には敵いませぬ。」

 騎士は頷いた。

 「そうか、お主は猫人か。気配なく動けるとは聞いていたが、これほどとは。」

 「獣人の間では有名なのかい?」

 「はい。猫人は夜でも昼のように見ることができ、足音を消し、高い所に飛び上がることも得意ですから『夜は猫人の時間』と言われております。」

 それほどか。

 「それで、実力を私に見せて、何をしようと考えてるのかな?」

 「はい。私たち猫人による諜報部隊を立ち上げて頂きたく。」

 予想していた答えではある。だが、どうしてわざわざ危険なことをしようとするんだろう。

 「そう言ってくれるのはありがたい。だが猫人は商店で働いている者も多いはず。わざわざ危険な仕事をしなくても食べていけるはずだ。」

 ソロンは目だけ見えていた覆面を外して立ち上がった。

 切れ長の目に長い瞼。ぞくっとするような美人だ。スレンダーな体型だが、しなやかさと力強さを内に秘めている。

 「ええ、優しい閣下はそうおっしゃると思いました。ですが、最近、皇子派貴族のスパイがグリューネブルクに入り込んだという噂も聞きました。我ら猫人も得意なことで閣下のお役に立ちたいのです。そこの狼人の騎士と気持ちは同じです。」

 確かに狼人は危険な戦場に立ってくれている。彼らは種族の特徴として優秀な戦士なので頼りにしている。

 狼人の騎士を見ると、静かに頷いている。

 先日の野盗を装った襲撃を撃退してから、皇子派貴族にはさらに逆恨みされているとは思う。僕の警備は妹と騎士団がしてくれているが、猫人の能力は見せてもらった。

 「そういうことなら遠慮なくお願いすることにするよ。明日にでも妹と相談してもらえるかな。」

 僕がそういうと、突然、隣から妹が現れた。

 「そうね。貴方の気配を消す術はなかなかのレベルだね。兄さんの警備の役に立ってくれそう。」

 ソロンは驚愕した。

 「これはエルナ様。何という完璧な隠形でしょう。私としたことが気づきませんでした。そのようなことが人族にできるのですか?」

 「ふふ、詳しいことはまだ言えないけど、私は人族ではないし、ちょっと特殊だから気にしないで。」

 妹は微笑んだが、ソロンを改めて見ると不思議そうに顔を傾げた。

 「ところで、どうして女性のような化粧をしているの。」

 ソロンは目を見開いた。

 「これは驚きました。私が男だと初見で気づかれたことはないのですが。」

 えっ、この人は男なのか。

 「私は変装も得意としておりまして。男にも女にも見えるようにしているうちにこうなってしまいまして。ただし、どうぞご安心を。女装して閣下に色仕掛けで取り入るつもりは微塵もございません。」

 そんなことは心配していない。あれ?妹を見ると安心したような顔をしている。僕にそんな趣味はない。ないはずだ。

 「閣下を諜報面で支えたいと思う私個人の動機を申し上げれば、私たちの最愛の娘を獣人狩りから取り返してくださったことへの感謝です。」

 猫人の目が光った。

 「帝国人の金持ちには私たち猫人の奴隷に大金を払う変態がいます。だから猫人の女の子は狙われやすいのです。妻と私が出掛けていた隙に娘が攫われたときには、この世が終わるような気持ちになりました。」

 「そんなことがあったのか。貴方の娘さんが無事で良かった。」

 「閣下には本当に御礼のしようもないくらい感謝しております。私たちは、猫人の女の子も安心して暮らせるこのシューネヴァルトを守りたいのです。」

 「兄さん、私も賛成だよ。この人たちに協力してもらおう。」


―――――

「シューネヴァルトでは様々な種族が活躍したが、戦場で活躍した狼人族に比べると、猫人族の諜報部隊はあまり知られていない。しかし彼らの果たした役割は非常に大きい。

 リヒトを暗殺しようと狙った者は少なくないが、いずれも失敗に終わっている。リヒトを子どもの頃から守ってきた義妹のエルナも『ソロンたち猫人が来てからだいぶ楽になった』と語っている。

 さらに敵対勢力の機密情報を猫人の諜報部隊が入手したことは、大きな会戦に勝利するための重要な要素だったとリヒト自身も回想している。

 最近になり、諜報部隊の猫人姉妹を主役にした演劇『猫の目』が人気になっているのは、彼らの活躍を考えると喜ばしいことである。」

  エスター・クライン著「リヒト戦記」より


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