5話 王家の宝剣
トリーア卿から説明してもらった計画はよく考えられていて、領主を追い出す可能性は十分にあると思われた。
「よく練られた計画だということが分かりました。僕個人は無力ですが、王子という血筋に意味はあるのでしょう。領主の悪政を止めるためにご協力します。」
「おお、我らと共に立ってくださるか。ありがとうございます。」
「あと問題なのは、王国の旧臣や獣人たちが僕を王子だと信じてくれるかどうかだと思います。王国が滅んでからもう12年経ちますから、今になって急に王子が生きていたと言って現れても。正直に言えば、そもそも僕自身がまだ信じられない気がします。」
「その点はご心配には及びません。どうぞこれをお持ちください。」
トリーア卿は鞄からビロードに包まれた物を取り出した。中に入っていたのは短剣だ。
うやうやしく差し出された短剣には、いくつかの宝石が象嵌され、銀細工の凝った装飾が施されている。
一見して高価なものだと分かる。
ただ、随分古いものみたいで、全体にくすんだ感じがする。
「さあ、鞘から抜いてみてください。」
言われたとおり、おそるおそる鞘から抜くと、驚いたことに短剣は眩しい光を放った。
驚いて落としそうになり、慌てて持ち直す。
くすんでいた短剣の装飾まで鮮やかに見えて、まるで古ぼけて眠っていた剣が目を覚ましたみたいだ。
「おお、これぞ王家の証。この短剣はシューネヴァルト王家に代々伝わる宝剣シュテルンヒンメルでございます。王家の血を引くものが握ると、このように光を放ちます。それに、この光の強さは、殿下が強い精霊力をお持ちである証拠です。」
そんなものがあったとは。さすが辺境にあって領地は狭くても、歴史の古いシューネヴァルト王家だ。
手の中の輝く宝剣を見つめる。
星空を意味するシュテルンヒンメルという銘にふさわしく、黒い刀身に小さな光がいくつも踊っている。
これが亡き両親の形見なのか。
「実はご幼少のみぎり、失礼ながら殿下に握って頂いたことがあります。短剣が輝きを放ったことで、まぎれもない王家の跡継ぎをお救いできたと実感し、嬉しかったことを覚えております。」
トリーア卿は少し懐かしそうな顔をした。
「王国の旧臣ならばこの宝剣のことは知っております。騎士団長の子は私のことを以前から知っておりますから宝剣がなくても信じますが、確かに私の言葉を疑う者もいるかもしれません。それでも、この宝剣の光を見れば、殿下が王家の後継者であると納得せざるを得ないでしょう。
そして王国の旧臣が殿下のもとに結集していれば、獣人たちも殿下が本物かどうか怪しむことはありますまい。」
なるほど、こんなアイテムがあれば確かに僕の血筋を疑うことはできないだろう。
国王陛下から王子が成人したら渡してほしいと言われて預かった物なので、殿下にお返しいたしますと言って、トリーア卿は短剣を渡してくれた。
「肩の荷が一つ降りました」と笑う姿をみると、善い人なんだなと実感できた。
悪人ならば亡国の宝剣など売り飛ばしていただろう。
王国の家臣のうち宰相や騎士団長など主だった者は国王と共に討ち死にしたと聞く。それでも王家に忠義を尽くしてくれているトリーア卿は貴重な存在だ。
記憶にない実の両親は、信頼できる人に僕を預けてくれたようだ。
それにしても、急に王子だと言われても半信半疑だったけど、どうやら僕は本当に滅んだシューネヴァルト王国の王子らしい。
昨日まで、こんなことになるとは思いもしなかったなあ。
「さて、王家の宝剣も引き継がれたことですし、これからはどうか王子として振舞ってください。手始めに、私に丁寧語で話すのはおやめ頂けますか。」
そうは言われても、急には変われないと思う。
少しずつ慣れていくので待ってほしいというと、偉そうにしないお人柄も好ましいのですと言って、卿は微笑んでくれた。




