44話 謝金という名の賠償金
領境近くの街道 マクダレーナ・フォン・ノルトライン
領境近くの村に続く林の中から、バラバラと武装した男たちが街道に出てきた。
アルから聞いていたとおりだな。野盗を装った貴族の私兵たちが街道を通って逃げようとすると。
同じ帝国貴族としてまったく嘆かわしい。
グウィネス麾下の騎士団が村を守ってくれたようだし、あとは我ら帝国騎士団がけりを付けよう。
武装した怪しい連中に声をかけた。
「貴殿らは何者で、どこへ行くつもりだ。」
「わ、我らはシューネヴァルトに観光に来たのだ。すると無法にもシューネヴァルトの獣人どもが襲って来た。見たところ、貴殿らは帝国騎士団のようだ。保護を要請したい。」
「ふっ、どこの世界に完全武装して観光に行く者がいる。それにシューネヴァルト辺境伯からは領外から野盗が入り込んだので討伐に向かうと連絡を受けている。野盗とは、お主らのことではないか。」
「いや、我らは決して野盗などではない。」
「それではシューネヴァルト辺境伯領の関所の通行許可証を見せるが良い。」
こっそり忍び込んだ連中が通行許可証を持っているはずがない。
案の定、こそこそ相談したかと思うと、剣を抜いてこちらに向かって来た。
まず連中の肝を冷やしてやろう。
「ファイヤーボルト!」
夜の闇を切り裂いて火球が飛んでいき、先頭にいた数人が炎に包まれる。
続けてもう一発。
「ま、魔法だ。」
後続の者たちが狼狽えて足を止めた。初級の魔法でも敵の機先を制するのには役に立つ。
「今だ、突撃!」
部下の騎士たちが一斉に馬を走らせ、蹴散らした。もともと敗走中だった敵はあっけなく降伏した。
シューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
皇子派貴族たちによる野盗を装った襲撃は、グウィネスの率いる狼人の騎馬隊が撃破して村を守り、レーナ麾下の帝国騎士団分隊が引導を渡した。
どんな状況だったか報告を受けたが、狼人の騎士たちの活躍は素晴らしいの一言に尽きた。
特にグウィネスの戦いぶりは凄まじかったようだ。
「それは人族では無理な動きだ。まるでサーカスみたいだな。」
身体能力を生かしたアクロバティックな戦いぶりを聞いて、メールス卿も感心している。
「良い装備と馬を頂いたからです。我らだけの力ではありません。」
グウィネスは謙遜した。
確かにグウィネスが装備する双刀は業物だ。気に入った相手にしか武器を打たないカヤ殿がグウィネスを気に入って打ったものらしい。
東方風の刀というものらしく、長いのを太刀、短いのを小太刀と呼ぶそうだ。普通の剣に比べて刀身が少し反っていて、扱いは難しいようだが切れ味は凄まじい。
馬もアーレン子爵領から送ってもらった良馬だ。
だが、狼人族の武勇が優れていることに疑いはない。
「謙遜も良いが、狼人族が見事な働きをしたことは間違いない。狼人の騎士たちは初陣だったが、よくやってくれた。」
狼人は馬に乗れるのかと舞踏会で皇子派貴族たちは笑ったが、実際には馬の気持ちがよく分かるため、まさに人馬一体となった戦いができるのだ。
狼人たちのあまりの精強さに怯え、捕虜となった敵兵たちには人狼と呼んで震えている者もいるようだ。
「私たちは月夜に狼に変身するわけではありませんが、敵が恐れてそう呼びたいなら構いません。」
グウィネスはそう言って笑った。
そして野盗の連中を捕縛したのはレーナ率いる帝国騎士団の分隊だ。
レーナが火魔法を二発放ち、あとは騎士たちがあっけなく蹂躙したようだ。近接戦闘が得意な騎士なのに魔法も使えるレーナは反則的な存在だし、やはり帝国騎士団は練度も高くて強い。
レーナが連れてきた騎士たちはカリンの言うとおり、信頼できる者たちばかりだ。彼らが領地に駐屯してくれるのは心強い。レーナを分隊長にしてくれた皇女殿下には本当に感謝している。
捕虜となった者たちにはカミン伯爵家の次男をはじめ、近隣の貴族家の一族が混じっていた。伯爵は舞踏会でのことを逆恨みしたのかもしれないな。
シューネヴァルト領に襲撃してきたのはどういうことかと問い合わせると、「領内で野盗に捕まって行方不明になったので案じていた」と見え透いた嘘をついてきた。
他領に攻め込んで敗れたことを隠したいという体面上の理由と、捕虜であれば身代金を払う必要があるので、それを避けたいという経済的理由の両方だろうが、あきれるしかない。
野盗に偽装して近隣の皇子派貴族の私兵が攻め込んできたことは、レーナを通じて皇女殿下に報告した。
皇女殿下からは皇子派と話をするから、しばらく待ってほしいと連絡があった。
やがて皇女殿下から連絡があり、捕虜の貴族たちの野盗にさらわれたという言い訳は追及しない代わりに、高額の謝金が払われることになった。事実上の賠償金だな。
そして皇子派貴族たちは野盗を取り締まれなかったことで帝国政府から叱責を受けた。
レーナによると、帝国政府からの公式な叱責は貴族として大変恥ずかしいことらしく、皇女殿下は皇子派貴族たちが攻め込んだことを追求しない代わりに、きっちりお灸は据えてくれたようだ。
そして、帝国政府からシューネヴァルトには多額の報奨金が出た。皇子派貴族からの賠償金とあわせ、領地の立ち上げに資金が必要なのでありがたかった。
さらに西部の辺境地域は治安が悪化しているという理由でレーナの率いる分隊は500名から800名に増強され、希少な魔法師も配属された。
皇女殿下はなるほど優秀な政治家だと思う。皇子派貴族を追い詰めない代わりにシューネヴァルトは多くの金銭とレーナが指揮する戦力の増加を得た。追い詰めすぎて連中が暴発しても困るから、うちとしてもこの結末には満足だ。
ところで、貴族の子弟たちは謝金と引き換えに解放したが、彼らの率いた私兵団は野盗だと貴族たちが言って来たので、犯罪者として帝国騎士団に引き渡した。犯罪奴隷として一生鉱山で働くことになるだろう。
貴族の命令に従っただけなら可哀そうな気もしたが、私兵たちは貴族の威を借りて悪事をしていたようなので、自業自得なのだろう。
これでシューネヴァルトに手を出そうとする者が減るといいんだが。
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「シューネヴァルト辺境伯領が誕生してから数か月後、大規模な野盗が旧リューベック男爵領を襲い、撃退されたと帝国では記録されている。しかし実際には、リヒトへの嫌がらせで皇子派諸侯の私兵団が攻め込んだようだ。
私兵団はグウィネス率いるシューネヴァルト騎士団の狼人部隊に惨敗し、狼人たちの強さに恐怖した者たちが「人狼」と呼んだと伝わる。精強で知られるグウィネス麾下の人狼騎士は敵が名付けたのである。
また、皇女の調整によってリヒトは皇子派諸侯から謝金という名目の賠償金を得て、帝国政府からの報奨金とあわせ、内政を充実する資金とした。」
エスター・クライン著「リヒト戦記」より
遅い時間になりましたが、どうにか今日も投稿しました。ストックが減り、仕事も忙しくなってきていますが、ブックマークや評価点を下さる方、書き進めるモチベーションになっています。改めて御礼申し上げます。




