43話 狼人の騎士
領境近くの村 カミン伯爵の次男
村の近くで集結すると、我らは目標の村に向かった。
だが、おかしい。村の家々には明かりがついておらず、人気もない。
そのとき、シュっと音がして何人かが倒れた。
倒れた者からは矢が生えている。
「何者だ!」
村の中から一人の女性が現れた。どうやら獣人のようだ。
「それはこちらのセリフだ。シューネヴァルト辺境伯領に何の用だ?観光なら昼間に関所を通って来るが良い。」
「獣人ごときが我らに指図をするか。思い上がりもはなはだしい。」
我らは剣を抜いた。
獣人の女は不敵に笑った。
「思い上がりかどうか、その身で試してみるがいい。来い、月光!」
呼び声に応えて現れた馬に女は飛び乗った。ろくに助走もせずに跳躍したように見えたが、きっと見間違いだろう。
どうやら我らの襲撃は辺境伯軍に知られていたらしい。
奇襲は失敗したが、こちらのほうが装備も実力も上のはずだ。
シューネヴァルトの旧臣たちと獣人の混成軍は領主軍を策略で破ったが、帝国騎士団とは戦っていない。
正面から戦えば我ら帝国人の部隊が遅れを取ることはないだろう。
獣人の女が馬を呼んだのを合図に、村の中から一斉に矢が降り注いだ。
念のために盾も持ってこさせて良かった。味方は盾を頭の上に掲げて守っている。矢の嵐が収まったとき、多くの味方は無事だった。
「敵の矢は尽きたな。行くぞ!」
だが、我らの両側面から馬蹄の響きが聞こえてきた。
矢の中に鏑矢が混ざっていたのは合図のためだったのか。
あたりはたちまち乱戦になる。
月夜の下で剣と盾がぶつかり、鉄のような血の匂いが広がる。
だが、倒れていくのは味方の兵ばかりだ。
「どうして馬に乗っているのに両手を離せるんだ?」
獣人の騎士たちは手放しで馬に乗り、両手で武器を扱っている。
「く、力が強い。」
敵の歩兵と剣で鍔迫り合いをして、押されている者も多い。
一体何が起きている?我らは強いはずだ。
正面からも一隊の騎士が突っ込んできた。
最初に姿を見せた女は指揮官のようだが、その動きは特に人間離れしている。
我らの中に馬を乗り入れると、右横の者を右手の刀で切り捨てると、左横から付き出された槍は左手で抜いた短刀で穂先を切り落とす。
正面から飛来した短剣は体を横に倒してかわした。あんなに体を倒すと普通は落馬する。
そして歩兵を助けようと味方の騎士が馬を寄せると、馬上から跳躍し、味方の騎士の頭上に舞うと、短刀で首を切りつけた。
切られた騎士が落馬すると、近くに寄せて来た自分の馬に飛び乗った。
何という身体能力。それに馬と会話でもできているんだろうか。
これでは勝負にもならぬ。
領境近くの村 グウィネス
敵は逃げて行った。大口をたたく割には弱い連中だった。
もっとも、我ら狼人の騎士は帝国騎士団より強くなることを目標に日々鍛錬しているから、貴族の私兵に遅れを取るわけにはいかない。
逃げた連中を無理に追う必要はない。私たちの役割は村を守ることにあり、逃げた先には別の部隊がいる。
敵がいなくなると、事前に警告して避難させておいた村人たちがおそるおそる戻って来た。
「もう大丈夫だ。野盗は撃退した。」
安心だと告げたが、村人たちは警戒した表情を見せる。
まあ返り血を浴びた私たちは怖く見えるだろう。それにここは人族の村だから獣人への偏見もあるのかな。
そう思っていたら、一人の男の子が前に出てきた。
「村を守ってくれてありがとう。お姉ちゃんは強いんだね。」
男の子を追うようにして老人が現れた。
「これ、下がりなさい。しかし、先に子供に御礼を言ってもらってしまうとは、お恥ずかしい。村長のハンスと申します。この度は私どもの村を守って頂き、大変ありがとうございます。」
冷えかけていた心が温かくなる。
「領民の安全を守るのは騎士団の仕事です。」
「いえいえ、前の領主様のときには領主軍が私たちを守ってくれることはありませんでした。夢のようです。本当に感謝いたします。」
貧しい村のようだから遠慮したのだが、村長がどうしてもというので、村人たちと食事をした。
質素な食事だったが、温かいスープが体に沁みるようだった。
やがて誰かが酒を持ってきたようで、あちこちで笑い声があがる。
獣人族も人族も分け隔てなく笑って、酒を酌み交わす。
これがリヒト様の目指すものなんだろうな。
私も微力ながらお役に立ちたい。改めてそう思った。




