42話 野盗を装った襲撃
帝国歴223年10月 シューネヴァルト辺境伯政庁 リヒト・フォン・シューネヴァルト
舞踏会の翌月、周辺の皇子派貴族の怪しい動きについて報告を受けた。
旧リューベック男爵領はまだ落ち着いていないと考えて、皇子派貴族たちは私兵に野盗を装わせて領境近くの村を襲撃するつもりのようだ。
先日の舞踏会では酔った皇子派貴族が無様な姿を晒し、ダンスでも僕と妹が名を上げたことになっているらしい。皇子派貴族たちはシューネヴァルト辺境伯に一泡吹かせなければと騒いでいるようだ。
領地が増えて忙しいのに、迷惑な話だ。
別に舞踏会では目立つつもりはなく、降りかかった火の粉を払っただけだ。ダンスも帝国は失われた古いものを踊っただけだと思うんだが。
頭を抱えていると、レーナに慰められた。
「帝国貴族というのは、ちょっとしたことで名を上げたとか下げたとか騒ぐものだ。まあ馬鹿にされるよりも妬まれるほうが良いじゃないか。」
敵の動向は、シューネヴァルトの領地の境に偵察隊を出して探った。
どうやら敵は領地の境を密かに越えて、夜になるのを待って国境近くの村を襲うつもりらしい。
うちの領地に入ったところですぐ追い返しても良いが、うっかり領境を越えたと言い逃れができないよう、村の近くで待ち構えて戦うことにした。村人には状況を伝えて事前に避難してもらう。
僕が前線に出ることはみんなに反対された。せっかく精霊魔法も練習しているのに残念だが、仕方ない。
そして今回の指揮はメールス卿でなく、是非やらせてほしいと言って来たグウィネスに任せることにした。
いろいろな人に経験を積んでもらうのは重要だ。
ただ、グウィネスの戦意が高すぎるのが少し心配だった。
弓兵の一隊も付けるし、レーナも後詰めしてくれるので大丈夫だと思うが。
「くれぐれも無理はしないように」と念を押した。
シューネヴァルト辺境伯領 領境近くの村 カミン伯爵の次男
月の明るい夜だ。
「そろそろ村に着く頃か。」
「ああ、やはりシューネヴァルトの領境の守りは甘いな。我らの侵入に気が付かなかったのだろう。」
旧シューネヴァルト王国領に旧リューベック男爵領も加えて成立した辺境伯領は、まだ誕生してから日が浅い。
シューネヴァルトの領主もリューベック男爵も貴族派の貴族だった。領地を取り上げられた者たちが罪を犯したことは確かだが、シューネヴァルト辺境伯が皇女に取り入ることがなければ、もう少し穏便な処分で済んだかもしれない。
さらに先日の舞踏会では失われた古い舞踏を見事に踊ってみせて名を挙げた。辺境の田舎者に文化面で名を挙げられるとは口惜しい限りだ。我らは辺境に領地を持っているが、帝都にも屋敷を保有し、最新の文化に触れているというのに。
そこで皇子派諸侯はまだ領内を守る体制の整っていないだろうシューネヴァルト領に野盗を装って攻め込み、領内を混乱させることにしたのだ。
今回の襲撃にはシューネヴァルト辺境伯の近隣のいくつかの皇子派貴族が参加し、合計人数は約600名になった。
隊長はカミン伯爵家の次男である私がつとめている。かなり大規模な野盗団になってしまったが、この人数で奇襲すれば辺境伯は対応できないだろう。しばらく暴れたところで辺境伯軍の主力が来る前に引き上げる予定だ。
人数が多いので、目立たないようにいくつかの集団に分かれて我らは密かに領境を超えた。
舞踏会での父の汚名を私が雪ぐのだ。
成り上がり者に帝国貴族の怖さを思い知らせてやる。
領境近くの村 グウィネス
「敵が村に近づきました。」
斥候が情報を伝えてくれた。
そろそろ出番だな。
今回の指揮は私に任せてほしいとお願いした。
獣人を舐めている皇子派貴族の奴らに、我らの強さを見せてやりたいと思ったのだ。
舞踏会で何があったかを私は話さなかったのだが、すぐにシューネヴァルト騎士団のみんなが知るところとなった。
「皇子派貴族の奴ら、お嬢に手を出そうとするなんて許せねえ」と、特に狼人族の騎士たちは怒ってくれている。
それと同時にリヒト辺境伯が激怒して決闘を申し込んでくれたことには「リヒト殿下はさすがだねえ。俺たち獣人も安心して付いていけるってもんさ。」とみんな喜んでいた。
本当は辺境伯閣下と呼ぶべきなんだろうが、領主軍への蜂起から殿下と共に進んできた者たちは、陰では王子殿下と呼び続けている。
獣人に偏見のまったくないリヒト殿は獣人の間では絶大な人気がある。
いつか王国を再興して陛下になってもらいたいという気持ちもあるんだ。
「みんな、行くぞ!我らの強さを皇子派貴族の奴らに教えてやろう。」




