4話 蜂起の計画
次の日に再び訪ねてきたトリーア卿に、領主軍にどうやって勝つつもりなのか、計画の内容を聞かせてもらえないかと訊ねた。
「おお、我らと共に立つことを考えてくださったのですな。」
「まずは蜂起の計画について聞かせて頂けませんか。帝国に歯向かって鎮圧されると、その後は酷いことになるのはお分かりのはずです。もし無理だと思ったら、すみませんが蜂起には反対します。」
「承知しました。むしろ簡単に賛成されるようでは心配です。慎重に判断されるほうが望ましい。」
トリーア卿は怒らないでくれた。
「それでこそ私の見込んだ方です。この家にお邪魔するたびに各国の情勢や歴史をお話し致しましたが、殿下の聡明さには驚かされてばかりでした。我らの計画が甘いと思われれば、どうぞ意見をおっしゃってください。」
過大な評価だとは思うけど、黙って言われたとおりに動くのも嫌だったので安心した。
思い出してみれば、トリーア卿はこの町にいるときは毎日のように訪ねてきて、諸国の歴史や風土、国際情勢などを話してくれた。「良い聞き手の子どもがいると、つい話が止まらないのですよ」とか言ってたけど、本当は僕を教育してくれていたんだろう。ありがたいことだと思う。
トリーア卿の話してくれた計画は、予想どおり獣人を味方につけるというものだった。王国の旧臣たちはかき集めても約千人らしく、戦力が足りない。だけど領主は獣人を迫害しているから、上手くいく可能性は高い。
「獣人の部族の中でも勇敢な狼人族とは既に協議を行っております。義理堅い狼人族は、友好関係にあった先代国王夫妻を見殺しにしたことを悔やんでおりました。もし王家の血を引くものが立ち上がれば共に戦うと言ってくれております。」
「それは心強いですね。狼の獣人は勇敢な戦士であり、連携をとって戦うのも巧みだと。それに狼人族はこの近辺では大きな部族だったと記憶しています。」
「さすが殿下です。私の話をよく覚えておられる。狼人族の戦力はざっと800人ほどおりましょう。」
「王国の家臣だった人たちとあわせると約1800人ですか。領主軍の戦力は1600人くらいですから、兵力は何とかなりそうですね。あとは補給の確保です。軍隊は糧食と装備がなければ戦えないと僕に教えてくれたのは貴方です。」
「おっしゃるとおりです。そこで、商売の得意な狐人族とも交渉をしております。彼らは今の領主のもとでは商売ができなくて困っております。もし王国の旧臣が立ち上がれば、食料や備品を確保すると内々に約束してくれております。」
戦力は狼人族、補給は狐人族か。なるほど、よく考えられている。
「よく練られた計画を立案されたことは分かりました。あとは領主をうまく追い出せたとして、その後にどう帝国と折り合いをつけるかが問題ですね。」
「そうですな。帝国の領土は広く、兵も多い。一部に問題はあっても、まずまずきちんと統治されております。残念ながら正面切って独立を勝ち取る力は我らにはありませぬ。」
「そこで、帝国と戦うのではなく、帝国の直轄都市となることを考えております。直轄都市は領主が置かれず、住民の自治で運営されます。領主はこの地が辺境だからばれないとでも思ったのか、不正経理もおおっぴらにやっておるようです。領主のもとで働く王国の旧臣から、税を領主が着服した証拠書類を入手しております。これは領民に対してだけではなく帝国に対する犯罪です。そのことを帝国政府に申し出て、領主の悪政を止めるためにやむを得ず武力蜂起したと説明すれば、この地の自治が認められる可能性は十分あると考えております。」
帝国では領主が不当に領民を苦しめたことが明らかになれば、領主は更迭され、領民たちの希望を聞いているようだ。善意ではなく民衆に不満が溜まることを避けるためだろうけど、実際に帝国では大規模な民衆の蜂起は起きていない。
「さらに、前領主のノルトライン伯爵は離任するときに何か困ったことがあれば頼ってほしいと言い残しましたので、帝国政府に訴え出るのとあわせて、伯爵にも今の領主の悪政をまとめて知らせるつもりでございます。」
「なるほど、ノルトライン伯爵は今の領主とは違う派閥でしたね。」
自分がうまく治めた土地でライバル派閥の貴族が不正を行い、悪政を敷いたために住民が蜂起したとなれば、ライバル派閥の失点となる。
帝国からの独立ではなく自治を目指すというのは現実的な目標だと思う。




