33話 シューネヴァルト辺境伯の誕生
皇女殿下と会談してからしばらくして、帝国政府から使者が来た。帝国外務省の特使だと名乗っているから、今回は外交官のようだ。
レーナからは事前に手紙が届き、うまくいったから結果を楽しみにしてほしいと書いてあった。
そうだとすると男爵じゃなく子爵にしてくれるのかな。小国が帝国に恭順する場合、男爵か子爵に任じられることが多い。
さらに手紙には、12年前にシューネヴァルトが恭順すると言ったのになぜ帝国が攻めたのか不審な点があり、皇女殿下が経緯を調べているとも書いてあった。
そこまで気にかけてもらえるとは思っていなかった。皇女殿下の誠意は受け取った。
今回は心配もなく、穏やかな気持ちで使者に会った。
「フランコルム帝国の決定をお伝えいたします。シューネヴァルト領における先の領主の不正を暴き、領民を守った貴殿の働きを帝国は高く評価します。
さらに、シューネヴァルト王国が帝国に編入されたときに不幸な行き違いがあったことにも帝国は留意いたします。
これらの要素を総合的に勘案し、フランコルム帝国シャルル7世陛下はリヒト・フォン・シューネヴァルト殿を帝国辺境伯に任じることを決定されました。」
えっ辺境伯?僕は耳を疑った。
辺境伯は通常の伯爵よりも格が高い。男爵や子爵とは段違いだ。
さらに使者は、シューネヴァルト辺境伯領の領地にはもとのシューネヴァルト王国領に加え、隣接するリューベック男爵領も加えると告げた。
領地を召し上げられた領主がいると聞いていたが、まさかいきなり領地を加増してくれるとは。
確かに伯爵領よりも小さいと言われたシューネヴァルトが辺境伯というと笑われそうではあるが、随分な厚遇だ。
この決定に皇女殿下の意思が働いていることは間違いない。
これだけお膳立てされたからには皇女殿下の期待に応えないといけない。
使者に「謹んでお受けいたします」と回答する。
そして儀礼が一段落したら、ふうっと深い息が出た。
「良かったね、兄さん。いきなり辺境伯にしてくれるとは思わなかったよ。」
いつの間にか隣にいた妹が笑顔を見せてくれる。
「うん。辺境伯は格が高いし、帝国の領土を守るために独自の戦力を持つことが許されている。内政もかなり自由にできるらしい。」
周囲にみんなが集まってきた。
「まさか帝国辺境伯の位を得るとは。帝国直轄都市になって自治ができれば十分と思っておりましたが、やはり殿下は私が見込んだ方です。」
「やりましたな、殿下。いや、今日からは辺境伯閣下ですね。これからも我が剣は貴方のために振るいましょう。」
「帝国辺境伯とは、やりおったな。我ら狼人族は先王夫妻を救えなんだが、きっとお二人も泉の下で喜んでおられるだろう。」
「辺境伯領の商売はうちらに任せてな。」
元王国騎士のアルトドルファーは「生きているうちにシューネヴァルト家の再興を見られるとは思いませなんだ」と涙を浮かべていた。
帝国貴族とはいえ独立性の高い辺境伯だから、お家再興と言えるのかな。とにかく、みんなに喜んでもらえるのは嬉しい。
少なくともこれで、ずっと無給で尽くしてくれた旧臣たちを家臣にして給料が払える。同じように無償で戦ってくれた狼人族にも報いられる。
狐人族や鬼人族への借金も返せそうだ。
帝国の使者が来た翌日、グリューネバルトの郊外の丘にのぼった。
両親の墓参りをするためだ。
今回は人目を忍ばなくてもいいので、大きな花束も持ってきた。
前回と違ってトリーア卿だけじゃなく、メールス卿や旧臣たちも一緒だ。
今回、帝国政府が婉曲な表現であってもシューネヴァルト王家の名誉を回復したので、もう遠慮は必要ない。近いうちにちゃんと墓碑も建てることにした。
グリューネブルクに戻ると、前日は顔を見せなかった鬼人族のカヤ殿が来ていた。
「帝国貴族になったら我ら鬼人族の存在について、帝国政府から何か言ってくる可能性もある。だから私はいない方が良いと思ったんだ。」
カヤ殿は荒っぽいようでいて、こういうところは細かな気遣いをしてくれる。
大陸を東から西へ居場所を探して放浪した一族の主らしい。
「不安に思わせて申し訳ありません。」
「いや、上級貴族である辺境伯になるとは期待以上だ。独自の武力を保有できて内政でも裁量の大きい辺境伯なら、我らを抱えていても大丈夫だろう。」
「ええ、そのように考えています。それに皇女殿下は多様性が帝国を強くすると考えていて、異種族と力を合わせることに賛同してくれる方です。」
「そうか、それは嬉しいな。一族の将来のために本当に有難い。少し、肩の荷が下りた気分だ。」
カヤ殿は、見たことのないような柔らかい表情で微笑んだ。
「坊やなんて言ったが、こんな実績も挙げてくれた。もう辺境伯閣下と呼ぶべきだね。」
何だかそれも寂しい気がする。
「公式行事や人の多いときじゃなければ、これまでのように気軽に話してください。」
「本当かい?」
爵位を得たからといって、族長さんたちとの関係は変わってほしくない。




