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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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32話 意外な訪問者

 レーナが会ってほしいという人と会うために、僕は街はずれの一軒家に来ていた。

 以前に王国の旧臣たちと会った場所だ。人目につかない場所で会いたいということだったので、またこの場所を借りることした。守秘のために同行者は一名ずつということになったので、メールス卿に同行してもらっている。

 約束の時間になり、家の扉が開いた。

 レーナと一緒に入って来たのは若い女性だった。

 帽子を目深にかぶり、眼鏡をかけている。

 近づいてきたレーナが堅苦しい挨拶をした。

 「リヒト王子、今回はこのような機会を作ってもらい、感謝する。」

 違和感はあるが、個人的に会うとき以外は立場もあるので仕方ない。

 「こちらこそ、ノルトライン伯爵令嬢(フロイライン)がどんな人を紹介してくれるのか、楽しみにしている。」

 レーナの隣にいた女性は帽子と眼鏡をとった。

 淡い金髪に青い目の美しい女性だが、どこかで見たような気がする。

 「それではご紹介しよう。こちらにおわすのは、フランコルム帝国皇帝フランソワ7世陛下の長女であらせられるカトリーヌ皇女殿下だ。」

 まさか、こんな辺境に帝国の皇族が来るとは。

 絶句していると、皇女はレーナに微笑みかけた。

 「あらあらレーナ、今日はお忍びで来ているのだから、堅苦しいのは抜きよ。貴女とリヒト殿下は子どもの頃からの友人なのでしょう。私も友人同士の会話に加えてほしいと思って来たんだから。」

 皇女殿下がくだけた話し方をするのは、場の緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。

 ようやく僕の口も動いてくれた。

 「はじめまして、皇女殿下。リヒト・フォン・シューネヴァルトと申します。本日はお目にかかれて嬉しく思います。」

 「はじめまして、王子殿下。帝国皇帝の娘のカトリーヌと申します。今日はどうか友人として話してください。」

 レーナによると、父親が帝都に栄転した後に皇女殿下の知遇を得て、年が近く気に入られたことから、ご学友のようになったらしい。

 しばらくは世間話をした。レーナがシューネヴァルトにいたときのエピソードを話すと皇女殿下は喜び、レーナは止めてくれと抗議した。

 雰囲気も打ち解けたところで、次第に歴史や政治などに話が移る。

 話してみると、どうやら皇女殿下の考えは僕と似ているらしい。隣でレーナは嬉しそうな顔をしている。きっと皇女殿下と僕なら話があうと思っていて、そのとおりになったから嬉しいんだろう。

 ある程度話しこんだところで、皇女殿下は切り出してきた。

 「リヒト殿下、あなたは領地を持ったとしたら、どんな領地にしたいと思いますか?」

 ここからが重要だ。皇女殿下にどう思われるかでシューネヴァルトの将来が決まるかもしれない。でも、自分の信じるところを述べるだけだ。

 「私がもし領地を持ったとしたら、王国民も帝国民も関係なく、さらに亜人や獣人も差別されずに安心して暮らせる街にしたいと思います。

 もちろん理想論だけではいけませんから、豊かで強い領地を目指します。いろいろな種族から広く人材を求めれば、それぞれの特徴を活かして活躍してもらえると思っています。」

 皇女殿下は目を輝かせて勢い込んだ。

 「そう、そのとおりよ。いろいろな人材が能力を発揮することで国は強くなるわ。帝国はバイエレマンの地に起こり、ガロアやブリタリアに版図を広げました。その過程で新たに加わった民族からも優秀な者は登用しました。多様な人材を得たことで帝国は強くなったのです。

 ですが今の帝国では帝国人至上主義者が増えています。最近帝国領となった土地の住民を蔑み、亜人や獣人は人族よりも劣っていると。帝国貴族には後から帝国に加わった土地の出身も多いというのに。そもそも我がルヴァロア家もガロア出身です。」

 皇女殿下は頭を軽く振ると、話を続けた。

 「何より残念なのは、皇子である兄が帝国人至上主義者の影響を受けていることです。何度も話したけれど、兄は考えを変えようとはしなかったわ。

 そもそも帝国のルーツを考えれば、レーナたちバイエレマン貴族のほうが筋目は良いと言えます。シューネヴァルト王家はフランコルム帝国を創始したファーレン家と縁戚だと考える歴史家もいるようです。」

 うちの祖先がファーレン家と親戚?そんな話は聞いたことがないんだが。

 「わたくしは、たとえ兄と争うことになろうとも、帝国が道を間違えないようにしたいと考えています。そのために私と同じ考えを持つ方々を集めてきました。ノルトライン伯爵もその一人です。

 貴方は他の民族や他の種族に偏見がなく、力を合わせようとしているとレーナから聞いていました。こうして実際に話してみて、私と同じ考えだと確信できました。」

 皇女殿下の目に力がこもった。

 「今回の動きを調べると、突然王子として表舞台に登場したにも関わらず、王国の旧臣たちをまとめ上げ、獣人族と協力関係を築き、まちの住民たちの信頼も得た貴方は、領主を追い出しただけではなく帝国騎士団相手にも一歩も引きませんでした。そのようなことは普通の者に出来ることではなく、貴方の非凡さを示しています。

 リヒト殿下、貴方のご両親は我が国との戦争で亡くなったと聞いています。今回の領主の悪政もあり、帝国には複雑な思いがあることでしょう。それでも、わたくしは貴方に共に歩んでほしい。

もし貴方が受けてくれるなら、帝国貴族に推挙したいと思いますが、いかがでしょうか。」

 皇女殿下の推挙か。レーナが帝国貴族になることをどう思うか聞いてきたのは、こういうことか。

 「帝国に思うところが無いわけではありませんが、今日お話をさせて頂き、皇女殿下の進まれる道は私も歩むことができると思いました。私で良ければ、謹んでお受け致します。」

 もともと皇子派の領主を追い出した以上、皇女派につくしかないと考えていた。領民を安んじるためには僕の感情など後回しだ。まして皇女が同志として迎えてくれるなら、断る選択肢などない。

 「ありがとう。良いお返事を頂き、シューネヴァルトに来た甲斐がありました。」

 皇女殿下は花が綻ぶような笑顔を浮かべた。

 「志を同じくする貴方は、きっと力強い仲間になってくれると信じますわ。そして、共に歩んで頂ける以上、わたくしも貴方のためにできることをします。」

 最後に握手をして、皇女殿下とレーナを見送った。

 二人の姿が見えなくなったところで脱力して椅子に座り込むと、「お疲れ様でした」とメールス卿が労ってくれた。

 「ありがとう。どうにか皇女殿下の面接に合格できたかな。それから、言わずもがなだけど、ここでの話は内密にしてもらえるかな。」

 「もちろん分かっております。誓って口外は致しません。皇女殿下は随分と踏み込んで心の内を口にされたようにお見受けしました。」

 確かに。皇子と対立してでも帝国を正しく導くとは、皇位継承を巡って争うという宣言のようでもある。シューネヴァルトも皇位継承の争いに巻き込まれていくだろう。

 緊張をほぐすためか、メールス卿は珍しく冗談を言った。

 「それにしても、ノルトライン伯爵令嬢だけではなく帝国皇女にも見込まれるとは、リヒト殿下はモテモテですな。」

 メールス卿の冗談に笑って応える余力は無かった。


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