31話 レーナの再訪
今度はアルとエルナにアレスグーテ(すべてが良くありますように)ではなくヴィーダーゼーエン(また会いましょう)と言えた。
そのことが嬉しかったし、なるべく早くシューネヴァルトに行こうと思い、帝都の状況を確認したらすぐに騎士団に休暇を申請した。
ところが、申請した直後に団長から呼び出された。
「すまないが、休暇は認められない。」
「どうしてでしょうか?任務後の休暇は認められる慣例ですが。」
「実は、ある御方がシューネヴァルトを訪問されるのだが、その護衛として伯爵令嬢を指名してきたのだ。休暇ではなく任務としてシューネヴァルトに行ってほしい。」
「そうですか。承知しましたが、ある御方とは?」
「今回はお忍びで行動されるようなので、今は詳しいことは言えぬのだ。あとはご本人から聞いてもらいたい。」
まあ、シューネヴァルトに行けるのは良かった。
帝国軍が引き上げてから少しして、レーナが帝都からシューネヴァルトに来てくれた。
帝都の状況を教えに来てくれたらしい。今回こそ悪い話にはならないと思うが、状況が分かるのはとてもありがたい。
公式に会うといろいろ厄介なので、プライベートに会った。同席したのはレーナのお付きの騎士のカリンと妹だけだ。
帝都で事情を確認してくれたレーナの説明によると、騎士団の先遣隊として状況を確認したレーナが隼に託した手紙を読むと、ノルトライン伯爵はすぐに皇女派の内務卿に緊急の面談を申し込んだそうだ。
「軍務省のナンバー2である父が他の役所である内務省のトップに直接会うのは異例のことなんだ。」
「知らないうちにお父上には随分助けて頂いたようだ。ありがたく思うよ。」
伯爵が娘の手紙の内容を伝え、また領民たちからの嘆願書を内務卿に見せたところ、内務卿は会議資料として配布された領主からの報告書しか見ていなかったことが分かったそうだ。
そして、ちょうどそのときに内務省の担当課長と部下が内務卿代理のやり方に反発し、内務卿に直訴に来たそうだ。
内務卿のモルビアン公爵は温厚で慎重な人らしいが、さすがに即断し、叛乱鎮圧を中止して逆に領主を捕え、また領民に謝罪するようにと指示を出したそうだ。
手遅れにならないよう直ちに急使が送られることになり、外交官に説明する手間も惜しんで、その場にいた帝国内務省の課長が使者になったらしい。
それで外交官じゃなく帝国政府のお偉いさんが使者として来たんだな。
「今回は帝国の腐った部分を見せてしまったが、帝国政府は全体としてはまともなんだ。」
レーナは嬉しそうに語った。
そして今回の騒動の結果として、主犯の領主のほかにも獣人奴隷の闇取引に関与したり、領主の不正経理などを知りながら賄賂をもらって中央に知らせなかったりした近隣の貴族たちも処分を受けたらしい。
特にシューネヴァルトに隣接する領地を持つ男爵は領主と共犯と言えるくらい深く関わっていたので、爵位のはく奪に加えて所領を没収されたようだ。
皇子派の内務卿代理もこの件で失脚し、職を解任されて蟄居処分となっているそうだ。
「そして今後のことなんだが。アルたちは帝国直轄都市になって自治を得ることを希望しているということで良いんだろうか。」
「ああ、そのとおりだ。」
「そうか。アルの気持ちとしては、今回の件だけじゃなくご両親のこともあるから、きっと帝国には複雑な思いがあるのだろうと思うが。」
「そうだね、否定はしないよ。でも僕は帝国人にも良い人がいると知ってたからね。君のおかげで帝国をそこまで嫌わずに済んでるよ。」
「ほ、ほめても何も出ないぞ。」
レーナは真っ赤になって照れた。
お茶を一口飲んで気持ちを切り替えたのか、レーナは真剣な表情になった。
「もしもの話だが。帝国貴族になる話があるとしたら、アルはどう思う?」
「僕が帝国貴族に?」
帝国の圧力を受けた恭順した小国には、帝国貴族になって元の領地を治めているところもあると聞いていた。
「うーん、トリーア卿たちにも相談しないといけないけど。帝国直轄都市になって自治を目指すと言っているんだから、帝国貴族になることに反対はしないだろうけど。」
「アル自身の気持ちはどうなんだ?」
「僕の気持ちかい…。王子だったと言われても未だにピンと来てないんだけど、今回のことで、民族や種族に関係なく安心して暮らせる街を守りたいとは思ったんだ。だからシューネヴァルトを領地にできるんだったら、帝国貴族になろうと思うよ。」
「そうか、アルの気持ちを聞けて良かった。急に妙なことを聞いて悪かったな。」
レーナは安心した笑顔を見せた。
「ところで、私がまたグリューネブルクに来たのは、帝国の状況をアルに知らせるためではあるんだが、ある御方に同行するためでもあったんだ。是非アルにその御方に会ってもらいたんだが。」
「ある御方かい。どんな人なのかここで言えないような人なんだよね。でも、レーナが紹介したいのなら、会うよ。」
「ありがとう。うん、悪い人じゃないよ。」




