30話 再会
帝国の使者が去り、帝国軍も引き上げていった。
貴族軍は混乱している様子だったが、騎士団に追い立てられるようにいなくなった。
魂が抜けたみたいに座り込んでいた解放軍のみんなも動き出した。
「はは、落とし穴を埋め直さなきゃならん。掘ったと思ったらすぐに埋めなきゃならんとは。頑張って掘らなきゃ良かったかな。」
軽口をたたく者もいる。困ったと言いながらも、戦わずに済んだ安心感が顔に表れている。
多くの領民を死なせずに済んで、本当に良かった。
騎士団が去って行く中で、白旗を掲げた者を先頭に10人くらいの騎士の一段がゆっくりとやって来た。
その中心にいるのはどうやら少女のようだ。少女の隣には青地に白のグリフォンを染めた旗を持った騎士がいる。
一体誰が何の用だろうと思ったら、メールス卿は知っているらしく、
「あれはノルトライン伯爵家の旗ですね。中央にいるのはノルトライン伯爵令嬢でしょう。家柄も良いのですが帝国でも稀な魔法騎士になり、赤の騎士という異名もとっているようです。」
そうか、前の領主は評判が良かったが、その娘も優秀なんだな。しかし魔法騎士とは、そんな怖い存在も来ていたのか。戦わずに済んで良かった。
しかし、ノルトライン伯に娘がいるとは知らなかったな。戦わずに済んだから、挨拶でもしていくんだろうか。
だんだん騎士たちが近づいてきて、顔が見えるようになった。
少女の顔を見て、僕は固まった。
背が高くなって綺麗になっているけど、あの顔は間違いなく同級生のレーナだ。
お父さんの仕事の関係で帝都に戻ると聞いていたけど。一体どういうことなんだろう?
混乱する僕の近くまで来たレーナは、泣いているような笑っているような複雑な表情をしていた。
「久しぶり、アル。こんな形で再会するとは思ってなかったよ。」
「やっぱりレーナなんだね。君は帝国の騎士で、ノルトライン伯爵の娘さんだって聞いたけど、一体どういうことだい。」
「黙っていて済まなかった。私は身分を隠してグリューネブルクの学校に通っていたんだ。領主の娘だと知られると、普通の生徒ではいられなくなるから。マルレーナ・ボーメというのは偽名で、本当の名はマクダレーナ・フォン・ノルトラインなんだ。」
全然気づかなかった、そんな秘密があったのか。
「レーナがそんな秘密を隠していたなんて。貴女は腹芸のできない人だと思っていたのに。」
隣りで妹も驚いている。
「はは、二人に隠し事をしているのは心苦しかったよ。まあでも私も貴族の端くれだから、話していけないことを秘するくらいできるさ。
だが、身分を隠していたのはアルも同じだったんだな。まさかシューネヴァルト王国の王子だったとは驚いたよ。」
僕は勢い込んで反論した。
「いや、僕は違うよ。自分が王子だなんて知らなかったんだ。ほんの少し前に知ったばかりだよ。」
「そうだったのか。存外にアルも芝居がうまいと驚いていたんだが。」
そんなことはない。
それにしても、驚きが薄れてくると、レーナと戦う寸前だったことに思い至る。
「君がここにいるってことは、もう少しで僕らは敵味方になって戦うところだったのか。」
「そのとおりだ。私は戦いにならないよう、領主よりも住民たちが正しいと父上に報告したんだ。どうにか戦いを止められて良かった。」
「そうだったのか。どうしてこんなに事態が急に動くのかと思ったら、レーナが動いてくれてたんだね。ありがとう。」
そして、僕はレーナと久しぶりに握手をした。
「本当に久しぶり。君はここを第二の故郷だと言っていたね。だから、おかえり、レーナ。」
「ああ、ただいま。貴族の家に生まれた私が素のままで過ごせたここでの生活は本当に貴重なものなんだ。アルとエルナと友達になれたことも。それまで私には親しい友達などいなかったからな。」
妹はレーナに抱き着いた。
レーナの頬を一筋の涙が流れる。
「良かった、本当に。アルと戦場で戦わないといけないかもしれない、エルナの敵になるのかもしれないと思って、すごく苦しかったよ。」
周囲の帝国騎士たちがどよめく。
「えっ、あの冷静沈着な隊長が泣いている?」
ただし、一人だけは「姫様、良かったですね」と言ってハンカチを出している。あれは誰だろう?
レーナは咳払いをした。
「ともかく、戦わずに済んで良かった。アルたちのほうが正しいことは分かっていたから。」
「うん、戦わずに済んで本当に良かった。僕らは最初から帝国と戦うつもりは無かったよ。悪い領主を追い出して帝国直轄都市になることが目標だったんだ。」
それからしばらく、レーナと妹と僕とで昔話なんかをした。
「そろそろ行かないと。じゃあ、また会いに来るよ、アル。さようなら。」
「ああ、待っているよ、レーナ。さようなら。」
切りの良いところまで何とか来ました。ちょっと仕事も大変になってきたので明日は投稿できないかもしれません。




