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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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29/90

29話 急転

 黄薔薇(ゲルプローゼ)が運んできてくれたのは父上からの手紙だった。

 その内容を読むと、すぐに私は団長のもとに駆け出した。

 「団長、少しだけお時間をください。」

 「ノルトライン伯爵令嬢(フロイライン)、何事か。敵は目前だが。」

 団長は最初にいぶかしんだが、私の必死な様子を見て話を聞いてくれた。

 父の手紙には領民たちの主張のほうが正しく、領主は虚言を弄していることが判明したために内務卿は判断を覆したと書いてあった。父が内務卿に会いに行ったとき、内務官僚も内務卿代理の動きがおかしいことを内務卿に直訴したらしい。そのことが内務卿の決断を促したようだ。

 内務卿の判断を騎士団長に伝えるための急使がこちらに向かっていて、急使は領主を捕縛して帝都に送り、領民たちに帝国政府の不手際を謝罪するよう騎士団に伝えるとも書いてあった。

 団長は私から父の手紙を受け取ると、うなった。

 「そうか、おかしいと思ったが、皇子派の陰謀だったか。」

 団長は皇女派でも皇子派でもないが、軍務卿代理である父は信頼できる人物であり、私もこれまで誠実に職務を遂行したから、皇子派ではなく私たちのほうを信じると言ってくれた。

 「それにな、あの城壁の上の様子を見ると、本音を言えば戦いたくない。あれは死兵だ。戦うことを止めないという決意が漲っている。

 人と獣人たちに見慣れない大柄な亜人もいるが、よく結束しているようだ。あの様子を見るだけでも、領主よりも領民たちの言い分が正しいと分かるというものだ。そもそも獣人狩りをする者たちと獣人が手を組むはずが無い。」

 団長の言葉を聞いて凄くほっとしたら、膝から崩れ落ちそうになった。

 その後、なぜ戦わないのかと貴族たちが団長に文句を言ってきたようだが、敵の士気が異常に高いので、しばらく包囲して気が緩むのを待つべきだなどと言ってあしらったようだ。

 半日くらいして、ついに帝都からの急使が来た。

 これでアルと戦わずに済む。


 帝国軍はグリューネヴァルトの城門を包囲したが、攻めて来ない。

 敵が攻めて来て、落とし穴にはまったり逆茂木で騎馬の勢いが止まったら伏兵が背後を衝く予定だったが、敵が動かないとこちらも動けない。

 「メールス卿、帝国軍はどうしたのだろう。」

 「帝国は騎士団が2千5百、貴族どもが1千5百の合計4千の兵力です。我らの戦力を2千くらいと考えているでしょうから、動かないのは不思議です。」

 実際にはこちらは鬼人族や義勇兵が加わってくれて5千は超えているが、城壁を守る兵は3千くらいにして、あとは伏兵や城門を破られた場合の備えに回っている。相手がこちらの兵力に怯むはずはないんだが。

 半日くらいしたところで、騎士団に動きがあった。

 白旗を背中に負った騎士が一人城門に近づいてくる。どうやら使者らしい。

 何の用件かは分からないが、話を聞いてみよう。

 「リヒト・フォン・シューネヴァルト殿下であられますか。」

 「そうだ。」

 殿下か。私のことを叛乱軍の首領と思うなら殿下とは呼ばないだろう。

 どうやら帝国内部で何かあったようだ。

 「今回、我ら帝国騎士団はシューネヴァルト領の叛乱を鎮圧するようにとの指示を受けましたが、さきほど帝都からの急使が来て、領民たちの主張が正しく、領主は虚偽の内容を述べていると帝国内務卿が判断したとのことであります。」

 本当に?

 「帝都からの急使は領主を捕縛して帝都に護送するようにとの指示を伝えてきました。それと同時に、領民たちに帝国の不手際を詫びるようにとの指示も受けているとのことです。」

 騎士は頭を下げた。

 「どうか帝都からの使者にお会い頂けないでしょうか。」

 事態のあまりの急転ぶりに現実感がないが、解放軍と帝国軍の間に設置されたテントで帝都からの急使に会うことにした。

 帝都からの使者は、帝国内務省地方局の西部辺境課長と名乗った。

 帝国政府のお偉いさんが辺境に使者に来るとは聞いたことがないんだが。

 使者の説明によれば、皇子派の貴族である領主の不祥事が明らかになれば皇子派の評判が悪くなると考えた内務卿代理が領民からの嘆願書を強引に握りつぶし、領主からの報告書だけを内務卿に説明し、叛乱鎮圧の軍を出させたとのことだった。

 そして、使者は帝国政府を代表して、このような酷い対応を領民にしたことを心から詫びると言った。

 シューネヴァルトの取り扱いはこれから帝都で検討するらしいが、少なくとも帝国直轄都市になって自治を行うことは認められるとのことだった。

 帝国政府は信頼できないかと思ったが、どうやらまだ機能しているようだ。

 解放軍に戻り、使者の言葉を伝えると、みんな驚いた後で座りこんだ。

 帝国軍を相手に死を覚悟して戦うつもりでいたところ、危機が一転して解決したので、へなへなと座り込むのはよく分かる。

 いつもは飄々としているコトルリ殿も「やれやれ、安心したら腰が抜けたみたいや」と言っている。

 トリーア卿は立ち尽くして涙を流していた。

 思えば、今回の事態に一番心を痛めていたのは交渉役のトリーア卿だろう。

 妹はいつの間にか隣に来て「良かったね、兄さん」と小さな声で言ったが、珍しく目が潤んでいるような気がした。


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