28話 一触即発
望みはしなかったが帝国と戦うと決めてから、僕らは大急ぎで準備をした。
グリューネブルクには街を囲む城壁がある。何とか城壁で帝国騎士団の攻撃を受け止めて、伏兵が背後から挟撃する形をとることにした。
帝国から伸びる街道を敵は進んでくるだろうから、その街道に面した城壁の門を破ろうとすると思われた。 装備に優れ、魔法師のいる帝国騎士団は正面から攻めてくるはずだ。城門の周りは急いで逆茂木で囲んだ。そして城壁の前には落とし穴を掘った。
街道近くの森に伏兵を隠すために、森の街道に近い部分に枯れ枝や枯れ草などをたくさん置いた。そして帝国軍から見つからないように街道から少し離れて待つことにした。帝国軍の斥候がやってきたら狐人族の斥候部隊が襲撃する手筈だ。
敵は強大だし、時間も限られていたから、これで十分かなんて分からない。でも、獣人も亜人も人族も一緒になって一生懸命準備する姿を見ていると、何とかこの地を守りたいと思った。
僕には野心なんか無かったが、帝国のように貴族が威張り、その下で帝国人が威張り、異民族や亜人、獣人を蔑む国よりも、よほど人として正しい在り様だと確信できる。もし叶うなら、そんな国を造って守りたいと思った。
どうにか突貫工事で最低限準備した頃に、帝国はやってきた。
私たち先遣隊は、街道を帝都に向かい、こちらに行軍してくる騎士団と合流した。
団長は信頼できる人なので、シューネヴァルトの本当の状況を話した。
私の言葉を信じると団長は言ってくれたが、やはり帝国政府の命令に背けないと言った。ただし、できるだけ叛乱軍の被害を抑えるようにして、捕虜にした者は丁寧に扱い、事情を聞いて帝国政府に報告することは約束してくれた。
シューネヴァルトに近づくと、近隣に領地を持つ貴族たちが軍を率いて待っていた。
団長によると、内務卿代理のブレイザー伯爵が手配した軍らしい。生命の危機にさらされながらも領地に踏みとどまっていると伯爵が主張した領主も一緒にいる。どうやら近隣の領地に逃げ込んでいたようだな。
集まってきたのは、あまり評判のよくない皇子派の貴族たちだ。どうせ帝国騎士団が勝利した後に街に入り込み、略奪をしようとでも思っているのだろう。こんな連中がのさばっているようでは帝国の明日は暗いのだが。
その日の夜、打合せのために騎士団幹部と貴族たちで会議をしたが、領主の中には私を厭らしい目で見てくる者もいたし、媚びてくる者もいた。
「これは武勇の誉れ高い赤の騎士ではないですか。相変わらず美しい。貴女もおられるなら、叛乱軍など恐れるに足りませんな。」
自分で名乗ったわけではないが、最近はおかしな異名がついてしまった。
「我らの活躍をぜひ見て頂き、御父上に報告してください。」
ああ、貴殿らが本当に貴族らしく振舞ったかどうか、父上に報告させてもらおう。内心で嫌悪しても表面は笑顔で応対する。
私も嫌な意味で貴族らしくなったと自己嫌悪する。
明日にはグリューネブルクに着いてしまう。
父は帝国政府内で巻き返しを図っているはずだが、間に合わなかったのだろうか。
アルと戦うことになるのかな。
こんな貴族と名乗る屑どもより、よっぽどアルたちと一緒に戦いたいのに。
翌日、気持の整理のつかないままに街道を進んでいたが、ついにグリューネブルクの城門を望む場所まで進んできた。我ら騎士団の2千5百人に貴族軍1千5百人を加え、合計4千の兵だ。解放軍はほぼ2千人だから倍の人数だ。
しかし、城門の周りには逆茂木が植えられ、城壁の上には多くの兵が並んでいる。彼らは戦うつもりだ。それに2千よりも人数はかなり多そうだ。
相手の様子を見ていたベテランの騎士が顔をしかめた。
「これは苦戦するな。戦意が異常に高い様子が見て取れる。装備に優れ、魔法師のいる我ら騎士団が負けるとは思わぬが、無事では済まんな。」
そうか、さすがシューネヴァルトの民だな。不思議に嬉しく思ったが、騎士団の仲間が大勢死ぬのも嫌だ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
ふうっと息を吐いて天を仰ぐ。雲はゆっくり流れているが、地上には戦の空気が満ちている。アルと戦うしかないのかな。
空を見ていたら、上空から一羽の鳥が近づいてきた。あれは黄薔薇だ。




