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リヒト戦記~辺境の滅んだ小国の再興記  作者: スタジオぞうさん


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26話 妹の正体

 帝国騎士団が攻めてくるだろう。

 そのことに皆が動揺していた。取り敢えず解散し、また明日集まることにした。

 その晩、妹が僕の部屋を訪ねてきた。

 「やあエルナ、困ったことになったよ。」

 「そうね。もっとうまくいくかと私も思ってた。考えていたより帝国の上層部は腐っているみたい。」

 「うん、僕らの主張に理はあったと思うけどね。」

 しばらく黙ってから、妹は顔を上げた。

 「兄さん、自分が責任をとってみんなを救おうとか思ってるでしょう。」

 「えっ、そんなことは。」

 「何年兄妹をやっていると思うのよ。兄さんは最初からその覚悟だったでしょう。」

 やれやれ、妹には隠し事はできないみたいだ。

 「でも、兄さんが責任をとって死ぬのは見過ごせない。旧臣たちの期待にはもう十分応えたよ。領主軍も打ち破った。帝国騎士団には勝てないから、今から逃げ出したほうがいい。」

 「ありがとう、僕も死にたいわけじゃない。でも、名目上とはいってもリーダーだから。みんなを見捨てて逃げるわけにはいかないよ。」

 「兄さんならそういうと思った。でもね、私にも譲れないことがあるんだ。こうなったら仕方ない。」

 妹はいつも身に付けているブレスレットを外した。宝物だから外せないと言っていたものだったんだが。

 すると、驚いたことに妹の姿が変わり始めた。

 髪の色が黒からプラチナブロンドに変わり、目の色は黒から深い碧色になった。

 妹は人族じゃなかったのか。

 「今まで隠していてごめんなさい。本当の私は人族ではなくて、エルフ。できれば正体を見せたくなかった。ずっと兄さんの妹でいたかったけれど、こうなっては仕方ない。」

 妖精みたいだとは思ってたけど、本当に森の妖精と呼ばれるエルフだったとは。

 妹は語り始めた。

 「シューネヴァルト王家の祖先は私たちエルフと盟約を結んだ。シューネヴァルト家は大陸西部のエルフの領域である樹海を他の人族から守り、その代わりにエルフは古代の叡智を授けるという盟約を。」

 アルセイドが言っていた盟約とは、そのことだったのか。

 「シューネヴァルト家は何代にもわたってその盟約を守った。でも人の世は移り変わるもの。いつしか新しく興ってきた帝国に圧迫されるようになった。そこで当時のシューネヴァルト家は盟約を守る力を失ったとエルフに申し出て、提供されていた古代の叡智を返上した。

 盟約は失われ、私たちは樹海に大規模魔法をかけて人が入れないようにした。エルフの中でも若い種族の中には人と交流したものもいたようだけど、私たちアールヴは人との接触を断った。」

 樹海に人が入ると迷子になるのはそのせいだったのか。

 それにしてもアールヴだって?

 古エルフとも呼ばれるエルフの上位種族だ。もう長い間姿を見せていない幻の種族なんだが。

 「信頼を裏切る人族が多い中でシューネヴァルト家は例外だった。一度手にした古代の叡智である魔法技術を返上したことも驚きをもって受け止められた。

 だから私たちはシューネヴァルト家の末裔だけは見守ってきた。貴方の父が帝国に謀殺されたとき、救えなかったことを私たちは悔やんだ。その子である貴方の命を守るため、私は義理の妹としてここに来た。」

 そんなことが。いざとなると僕を守るというのは冗談じゃなかったのか。

 「私は弓が得意なだけではなく、姿を変えたり見えなくする魔法が得意。このブレスレットにも私の魔法が込められている。ずっと魔法をかけ続けるのは大変だけれど魔道具なら常時発動できる。

 私は貴方の姿も魔法で見えなくすることができるから、もし貴方が責任をとって帝国軍に捕えられても、私なら助け出せる。もうそうなって、不思議なことが起きても私の魔法だから騒がないで。

 せっかく魔法をかけても貴方が騒いだら魔法が解けてしまう。だから魔法で確実に助けるためには私の正体を見せる必要があった。」

 言葉を失っている僕にエルフは寂しそうに微笑んで、目を伏せた。

 長い睫が濡れているようにも見える。

 「兄さんの妹だった時間は楽しかったよ。でも、もう妹じゃいられなくなっちゃった。」

 このままじゃいけない。そう思うと、凍り付いていた僕の口は動き出した。

 「いや、これからも妹でいてほしい。もともと血はつながってなかったんだ。それに、前から妖精みたいに可憐で人間ばなれしていると思ってたよ。本当に森の妖精と呼ばれるエルフだったのは驚いたけど、兄妹でいた時間が嘘になるわけじゃない。」

 エルフは驚いた顔をしている。その顔は人間ばなれした美しさで直視しづらいけど、目を合わせて話し続けた。

 「僕が父さんと母さんの本当の子じゃないと分かったとき、父さんも母さんも本当の子どもだと思ってるはずだって言ってくれたよね。それは家族だから言えることだよ。正体がエルフだろうがドワーフだろうが、僕の妹であることに変わりはないよ。」

 驚いた表情から次第に柔らかい表情に変化し、最後は楽しそうな妹の笑顔になった。

 「ふふ、今度は私が兄さんに諭されるとはね。ありがとう。これからも私は兄さんの妹でいるよ。でもドワーフでもっていうのは余計だよ。あんな無作法な種族と一緒にしないでね。」

 再び黒髪と黒目に戻って、妹は悪戯っぽく笑った。



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