25話 レーナとアル
「は、はい。私の聞き間違いかもしれませんが、メモにもアルノルト・バウムガルテンと書いています。」
カリンは明るい性格でふざけることもあるが、根は真面目で堅実に仕事をこなす。間違いではないだろう。
大きな声を出したことをカリンたちに謝ってから、ふらふらと自分の部屋に向かった。
あのアルが王子だって?
いや、考えてみれば、職人の息子にしては驚くほど歴史や地理に詳しかった。それに物腰もどことなく優雅だった。
それにしても、シューネヴァルト王国の王子だったなんて。
もしアルが王子なら、騎士団を止めることができなかったら私も戦わなければいけない。きっと騎士団は勝つと思うが、そうするとアルは首謀者として殺される可能性が高い。
いろいろ思い悩んでいると、ドアがノックされた。
「姫様、私です。」
どうやらカリンに心配させてしまったようだ。
「ああ、カリン。済まないな、急に席を外して。」
「いえ。皆、信頼できる騎士たちですから。何かあるのだろうと思って何も言わないでくれています。」
「それは有難いな。」
「ところで姫様。アルノルト・バウムガルテンは、姫様がシューネヴァルトで仲良くなったとおっしゃっていたアルと同一人物なのですか?」
「あ、ああ。そうだ。だが私も帝国軍人だから、任務に私情を挟むことはない。」
「いいえ、姫様の私情は私にとっては重要です。そもそも今回の任務はおかしいのではないかと皆いぶかっています。シューネヴァルトの領民たちに非はないことを現地で確認しましょう。騎士団は立場上動けなくても、伯爵閣下にお伝えすれば、動いてくださるのではないかと。」
ああ、カリンは本当に私のことを考えてくれる。
一晩寝ると、気力も回復した。どんなときでも眠れるのは私の特技だ。
アルを死なせないためにも頑張らなければ。
獣人狩りをするような連中と、あの優しいアルが手を組むはずがない。それに、同族を大切にする獣人たちが解放軍に参加しているなら、解放軍は獣人狩りとは無縁のはずだ。
次の日は獣人に話を聞いたり、商人に話を聞いたりして情報を集めた。先遣隊の騎士たちもさらに聞き込みを続けてくれた。
そして集めた情報を持ち寄った結果、まちの人たちは税を厳しく取り立てられていたこと、獣人たちは解放軍に参加しているのは間違いないこと、領主はグリューネブルクにいないことなどを確認した。
あとは時間との戦いになる。その日のうちに父に手紙を書いて、黄薔薇の足に手紙を括り付けて送り出した。
騎士団は帝国政府の要請を受けたら戦う義務があり、自分たちの判断で叛乱鎮圧を止めることはできない。あとは父が何とかしてくれることを願うばかりだ。
トリーア卿たちが帝都に行ってからしばらくして、帝国内務省から書状が届いた。
帝国直轄都市にしてくれるのではないかと期待して読むと、まったく違う内容だった。
トリーア卿は青ざめている。
「こ、これは何かの間違いでは。嘆願書にはきちんと証拠を付け、内務省の担当官も理解してくれたのですが。」
書状には、シューネヴァルトの領民には税を納めず、獣人を捕えて奴隷として売った疑いがあるとして、同時に帝国は叛乱を許さないと記されていた。
「帝国のうえのほうで何かたくらんだ奴がおるんやろな。内務省の役人を止めるいうたら、帝国貴族やな。」
コトルリ殿の言うとおりだろう。
領主に思ったよりも政治力があったのか、それとも誰かが介入したのか。
領主の悪事を領民に押し付ける内容だ。
とにかく、これでは帝国が鎮圧のための軍隊を出してくる。
「こうなると、帝国軍がシューネヴァルトに攻めて来るんだろうか。」
「おそらく帝国騎士団が来るのではないかと思われます。帝国軍の中でも緊急事態に即応できるのは騎士団です。」
僕の質問にメールス卿が答えた。
騎士団か。領主軍よりも良い装備をしているし、帝国の切り札である古代魔法を使う魔法師も配属されている。最近では、騎士なのに魔法も使える魔法騎士と呼ばれる化け物までいるらしい。
僕らの戦力では勝てないだろう。どうしたものか。




