23話 レーナの疑念
騎士団長から急な出撃を命じられたが、行き先は以前住んでいたシューネヴァルトだった。
急に出撃する理由を尋ねると、
「どうやら領民たちが蜂起して領主軍を倒してしまったようでな。内務卿代理の知り合いの貴族である領主の命が危険にさらされているらしく、緊急に対応するよう依頼されたのだ。」
と団長は答えた。
内務卿代理のブレイザー伯爵は皇子派の有力貴族であり、騎士団を含めた軍のトップである軍務卿も皇子派の貴族だ。
それで緊急出動か。公私混同の疑いがあるな。
そもそも、シューネヴァルトの人たちは理由もなく叛乱を起こすような人たちではない。
領主が高い税を課しているという話を聞いていたし、領主が獣人狩りをしているという悪い噂も最近聞いた。
領主の言い分を聞いて緊急出撃ということは疑問に思うが、軍人は命令どおりに動くしかない。
ただし、父は軍務卿代理をつとめる有力貴族だ。もし政治的な動きが今回の出征の背後にあるのなら、私も帝国貴族としてできることはしよう。
騎士団の中でもシューネヴァルトに土地勘のある者として私は先遣隊を率いることになった。
シューネヴァルトでは私たちと同じバイエレマン語が話されている。そのこともあって父に現地の学校に入れられていたし、他の言語圏の騎士よりも情報収集はしやすい。
フランコルム帝国は広大な版図を有し、文化の多様性を認めたためにいろいろな言葉が話されている。帝国はバイエレマン地方から興り、現在の皇家はガロア出身のルヴァロア家だが、さらにブリタリア地方出身の貴族もいる。今では貴族の人数はブリタリア出身が最も多い。
先遣隊の人選は任せてもらえたので、実家から付いてきてくれているカリンをはじめ、信頼できる騎士を選んだ。シューネヴァルトで何が起きているのか自分の目で確かめようと思う。
明日出発と言われたから父に会う暇はないが、手紙は書いておこう。
執事が娘の手紙を持ってきた。
「旦那さま、マクダレーナお嬢様からの手紙が届いております。」
「そうか、ありがとう。」
手紙を読んで驚いた。
シューネヴァルトの叛乱を鎮圧するために帝国騎士団が緊急に出撃することになり、自分は先遣隊を率いて先行すると書いてある。
「信じられん!」
思わず大きな声を出してしまい、控えている執事を驚かせてしまった。
だが、領主が悪政を敷いているから止むを得ず武力蜂起して追い出したが、帝国の自治領になることを望むという嘆願書を領民たちが出したのに、なぜ鎮圧のために騎士団が出動するのだ。
帝国では領主に不正があった場合、住民が暴れていても不問に付されるのが慣例だ。
まして今回は不当な税の引き上げに不当な裁判、さらには獣人狩りと、領主のいくつもの悪事が証拠を付けて挙げられている。領主が罰せられるのが自然であり、叛乱鎮圧などということになるはずがない。
娘の手紙を改めて読み直す。
今回の緊急出動は内務卿代理のブレイザー伯爵が強く主張したためだと書いてある。
そうか、ブレイザー伯は皇子派の有力貴族だ。
今回の不祥事が明るみに出ると皇子派の立場が悪くなることを恐れてもみ消しを図ったか。
手紙には、領民たちが税を治めず、武装して獣人狩りをして奴隷商に売ったと書いてある。
どうやら領主の悪事を領民のせいにするつもりらしいな。
こんなことは皇女派の貴族としても、シューネヴァルトの前領主としても見過ごせない。
ちょうどマクダレーナは先遣隊として現地を自分の目で見てくるという。
帝国貴族であるマクダレーナが現地で情報を集めた報告をもって内務卿と直接話せば、内務卿代理が領主に有利になるようゴリ押ししたとしても、領民たちの嘆願書を無視できなくなるだろう。
「ヨハン、我が家の隼のうちレーナになついていたのはどれかな。」
「はい、黄薔薇かと。」
ノルトライン家では緊急に連絡を取るために何羽かの隼を飼っている。黄薔薇はまぶたの黄色が強く目立つメスだ。訓練も十分に積んでおり、娘になついているなら大丈夫だろう。
「これから急いで手紙を書く。隼の足に付けてレーナのもとに飛ばせてくれるか。」
「かしこまりました。」




