22話 会議は暗転する
西部辺境課から上がってきた書類の内容は酷かった。
シューネヴァルトの領主は野心が強い割に能力は低いと思っていたが、ここまで粗暴に法を破り、私服を肥やすとは。辺境なら何をしても大丈夫とでも思ったのか。挙句に領民に証拠を握られるとは何たる無能。
この問題が明るみに出ると皇子派の評判は地に落ちるだろう。
皇帝陛下の衰えが目立つようになり、皇子殿下が後継者として認められるかどうかという大事な時期だというのに。これでは皇女派が勢いづき、皇帝陛下の判断にも影響しかねない。
私はこれまで内務卿代理として公平に職務を行ってきたと自負している。皇女派の内務卿の信頼も得ているつもりだ。
だからこそ、ある程度の無理もきく。やりたくはないが、今がそのときなのかもしれない。
内務省の意思決定をする局長会議に、上司の西部辺境課長のお供で担当者の私も出席した。シューネヴァルトの案件が話し合われる予定なので、細かい質問が出たときに対応するためだ。
内務卿代理がこの案件を預かると言ったときには少し不安になったが、こうして局長会議の議題になったので、課長も私も安心していた。
しかし、会議資料を見て絶句した。
領民からの嘆願書は資料に入っておらず、領主からの報告書のみが資料として配布されている。領主の報告書は、領民たちが反抗的で税を治めないために帝国に治める税が減ってしまったとか、領民の一部が武装して獣人狩りをして奴隷商に売っているなどと書いている。
しかし証拠がなく、領民からの嘆願書を読んだ者には、領主が自分の悪事を領民になすりつけようとしたものだと分かる。
会議では通常は担当課が資料を説明するのだが、この件では内務卿代理が自分に領主から直訴があったものだとして説明した。
そして、帝国の威信を保つために早急に叛乱を鎮圧する必要があると主張した。
これに対して地方局長が発言を求めた。
「ただいま内務卿代理からご説明のあった件については、担当課には領民から嘆願書が上がってきており、まったく逆の主張がなされております。今日の会議には嘆願書が資料として配布されると思っていました。少なくとも、両者の言い分をあわせて検討すべきではないでしょうか。」
老練な局長は領主の言い分を頭から否定するのではなく、バランスをとった正論を述べた。両者の言い分を比較すれば、きちんと証拠の揃えてある嘆願書のほうが事実だと分かるだろう。
しかしブレイザー伯爵は引かなかった。
「地方局長の発言も分かる。しかし、領主は叛乱軍のために生命の危機にさらされているようだ。ゆっくり検討していては手遅れになりかねない。私情を挟んではいけないのは分かるが、領主は私とは長い付き合いの貴族だ。もし彼の身に何かあったら私は自分を許せそうにない。領民の言い分は、叛乱を鎮圧した後で聞くこともできる。」
これまで合理的な対応で内務省内でも信頼を得ている内務卿代理がここまで言うと、止めにくい。
内務卿は少し気づかわしそうな表情をしたが特に異論を述べず、叛乱を鎮圧するよう帝国騎士団に要請することになった。
局長会議から課に戻ると、私は課長に詰め寄った。
「課長、こんな非道があっていいんですか。これでは帝国が占領した地域の住民たちの信頼を失います。」
そもそも帝国に嘆願書を出して自治を求めているのに、領主を殺そうとするとは思えない。
「分かっている、分かっている。まさかこのようなことが。」
「ノルトライン伯爵令嬢、緊急の出撃だ。」
騎士団長から呼び出しがあり、出撃命令を告げられた。
「はっ、行き先はどこでありますか。」
「西部辺境のシューネヴァルトだ。」
「えっ、私が以前住んでいたところです。何かあったのですか?」




