21話 帝国との交渉
領主軍に勝った日は、一晩中お祭り騒ぎが続いた。
でも次の日から、領内を安定させるために忙しくなった。
訓練などは樹海の中の森の家で引き続き行うことにして、統治の拠点は領主が使っていた館に移した。正式な呼び方は決まってないけど、とりあえず元王宮と呼ばれている。
元王宮に領内の市長さんや町長さんたちを集めて税率を旧王国のときに戻すことを告げると、みんな安心していた。
そして重要なのが帝国との交渉だ。
領主軍には勝ったものの、帝国に対抗するのは無理なので、ある意味でこれからが本番になる。
最初から帝国のもとで自治を得ることを目指していたので、どうやって帝国にそのことを納得させるかがカギになる。
トリーア卿が中心になって、領主の悪政の証拠を揃えて、やむを得ず領主軍を武力で追い出した経緯を説明して、領主を置かない帝国直轄地領となることを嘆願する書状をつくってくれた。
書状は二通用意した。一通は帝国内務省に提出し、もう一通は前領主のノルトライン伯爵に届ける。
使者はトリーア卿とグリューネブルクの市長がつとめてくれることになった。市長はノルトライン卿のことをよく知っていることも人選の理由だ。
二人は書類が出来たらすぐに帝都に向けて出発してくれた。叛乱などの悪い噂が広まる前に事情を伝えるためだ。
うまく話が通ると良いんだが。
二週間後、トリーア卿と市長が帰ってきた。
帝国の西端に位置するシューネヴァルトから帝都までは急いでも5日かかる。現地での滞在時間も最低限にして、急いで戻ってきてくれたようだ。
旅装から着替える間も惜しんで、トリーア卿は元王宮に報告に来てくれた。
「殿下、ただ今戻りました。」
「長旅、ご苦労様。それで交渉の結果は?」
「はっ、帝国内務省地方局の西部辺境課に嘆願書を提出いたしましが、書類を提出した翌日に担当官から呼び出され、『証拠も添付してあり、よく整理された書類です。領主がこんな酷いことをしていたとは我々は気づきませんでした。辺境には目が行き届いていないことを痛感させられました。内務省の幹部にすぐ話を上げますから、皆さんはこれ以上武力を用いて暴れないようにしてください』との言葉を頂きました。」
トリーア卿の表情は明るい。
「帝国直轄都市になって自治が得られるかどうかは担当官では判断できないと言われましたが、この地の状況はよく分かってもらえたと思います。」
同席していた旧臣や族長たちも安堵の声をもらした。
「ノルトライン伯爵にも嘆願書をお渡しして状況を説明しましたところ、『私も領民が困っているという情報を得て心配していた。今の領主が悪政を敷いていることは分かったが証拠がなく、これまで何もできず済まなかった』とおっしゃっていただきました。」
どうやら大丈夫かな。帝国と戦うつもりはないから、うまく話がつきそうで良かった。
シューネヴァルトの領民たちから提出された嘆願書を渡して説明すると、上司である内務省西部辺境課長は呻いた。
「これは酷い。いくら何でも領主軍が獣人狩りをするというのは考えられない。それに加えて税収の一部を帝国に収めずに着服している。しかも帝国法の上限を超えた税率を課していたとは。」
「はい、このような非道と不正に気付かなったことに担当官として忸怩たる思いです。現地がこれ以上混乱しないよう、自治領にする方向で内務省幹部にも早く話を上げたほうが良いと考えています。」
「うむ、そうだな。こんな非道を放置していたとなると帝国への信頼が失われかねない。帝国は占領した土地でも公正な統治をすることで叛乱を防いでいるのだからな。」
早速、私は課長と一緒に地方局長に説明し、さらに内務卿代理のブレイザー伯爵にも説明した。
「これは本当かね。」
「はっ、残念ながら。証拠書類も添付されております。」
「うーむ。これが放置できない問題だということはよく分かった。シューネヴァルトの領主は私もよく知っている。こんなことをしでかすほど愚かだとは思っていなかった。」
内務卿代理は椅子の背もたれにもたれて、ため息をついた
「内務省として動き出す前に領主にも話をしておきたい。この問題は少しだけ私に預けてもらえないか。」
ブレイザー伯爵は切れ者で知られ、合理主義者なので内務省での評判も良い。帝国貴族は出身地域で大きく分けてガロア貴族、ブリタリア貴族、バイエレマン貴族の三つに分かれ、ブレイザー伯はブリタリア貴族だ。
だが、皇女派のガロア貴族である内務卿も、皇子派のブリタリア貴族であるブレイザー伯に一目置いているようだ。
その伯爵から頼まれると、我々平民の内務官僚は嫌とは言えなかった。
内務省から正式な処分が下る前に同じ皇子派の貴族として領主を叱っておいてくれるのだろうと課長は言っていた。
そうだと良いのだが、嫌な胸騒ぎがする。




